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「じゃあ、ヒマワリさん」
王子先輩はそう言って、私と向かい合って立つと、両肩に手を置いた。
「はい?」
改まった言い方に、何だろうと緊張する。
月の光に、茶髪が透けて見えて、王子先輩は異国の王子様みたいに見えた。
「あのね」
ためらうように口を開く。
「暗いのコワいから、やっぱり家まで送っていって。一人で帰るのヤダ」
って。
こーのー、ドヘタレがあっ!!
「アホですかあ! 何を言ってるんですかいったい!」
「大丈夫、大丈夫」
先輩は軽い調子で言った。
「そのままウチに泊まっていけばいいよ。僕の部屋に、高原が泊まりに来る時に使う寝台があるから、それを使えば?」
「何一つとして解決になってない! どこがどういう風に大丈夫なんですか!!」
まったく! もう! ホント、サイテイ!!
「アハハハ。何を焦ってるの?」
私が起こっているのに、先輩は相変わらずの口調。
この男。私が一応女だと、理解しているのか?
「大丈夫、元々お前なんかに手を出す気ないから。お母さんがいる家の中で、他の女と何かしたりする気もないしさ。あ、それとも逆? 何かしてほしいの? そしたら、行き先を変えようか?」
黙らんかい。このドスケベ男!
「ふざけるのもいいかげんにしてください! もう知りません、サッサとお帰りになって下さい」
私は、断固とした態度でそう言い切ると、サッと背中を向けた。
「ああ、待ってクズひま。お前が気色悪い話をいっぱいするから、家に帰れなくなっちゃったんだろう?」
「知りませんよ! 勝手にコワがってるだけじゃないですか。いいですか、王子先輩」
私は振り返り。
王子先輩をまっすぐに見つめ、キッパリと言った。
「この世にオバケなんかいないんですよ! いいかげんにしてください」
て言うか、そこらのオバケより王子先輩の方がよっぽどタチ悪い。
そこのところを自覚してほしい!
そのまま、憤然とアパートに向かって立ち去った私の背中を、
「待ってクズひま……暗闇に一人にしないで……」
なんて、ヘタレた声が追いかけてきたけれど。
私は二度と振り返らなかった。
その後のことは、知らん。




