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「その話はヤメロって言ってるだろう?!」
「やめません。私の力は、『一部のヒトからしか見えないヒト』と『誰からも見えるヒト』との橋渡しをするためにあるんです」
私は言いかえす。それだけは、譲れない。
「自分の中に納まりきらないくらい思いが強い時。きっと、記憶があふれて来て、他のヒトからも見えるんです。それは嬉しい気持ちも楽しい気持ちもあるし、悲しい気持ちや怖い気持ちも……きっと、あると思います。私に見えるのは、その残骸だけ」
あの路地に立っていた人の、儚げな笑顔を思い出す。
「彼が、来るの」
そう言ったあの人は、どんな思いをあの場所に焼き付けたのだろう。
「先輩。コワいですか? 誰かの思いがそこにあるって。それは、先輩の大好きな人の思いかもしれないし、先輩自身の思いかもしれない。たとえ本物じゃなくても、残骸に過ぎなくても、誰かを大切に思ってた人の。誰かの大切な人だった人の思いがそこにあることが。そんなにコワいことですか?」
返事はなかった。
ただ、シャワーの栓を閉める音だけが、バスルームから響いてきた。
「先輩の思いだって、どこかに焼き付いて、形を成しているかもしれない。私の思いも、坊ちゃん先輩の思いだって同じです。もし、そんなものに出会えたら。先輩は、それでもそれをコワイって思うんですか?」
「クズひま。うるさい」
低い、声がした。
「他人のことに口を出すな。もう黙ってろ」
その声は。
重くて。
私は。調子に乗って偉そうなことを言ったのが、急に恥ずかしくなった。
「すみません」
答えはなかった。
「王子先輩?」
私はもう一度呼びかけた。やはり返事がない。
気を悪くしたのかな。
ちゃんと謝った方がいいのかな。
そう思った瞬間!!!
「う・うわあああああああああああああああああああ?!」
闇夜に響く男の悲鳴!!
「お、王子先輩?! いくら何でも近所迷惑です!」
たしなめようとした時。
バスルームのドアがものすごい勢いで開いて、王子先輩が這い出てきた。
なぜか四つん這いとはいえ、ハダカ! まごうことなき、素っ裸!!!
「ぎゃあああああああ! 何てカッコしてるんですか! 服を着て下さい!」
闇夜に響く私の悲鳴。
ちょ、ホント、見えるから、せめて隠そうとして! 近付かないで!
「な、何かいた」
先輩は、魂が抜けた感じの表情で、しきりとバスルームの中を指さす。
「窓から見てた」
「はあ? 何かって何です」
「目玉。窓の隙間から、のぞいてた」
何?
目玉?
何言ってんの、このヒト?




