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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
オバケとヘタレと危ない夜
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「王子先輩」

 なんだか、悪いことをしたような気分になった。


 先輩の言葉が。シャワーの水音の向こうから、静かに伝わってくる。

「僕さ。昔、学生寮に入ってことがあるんだけど。オフロが個室じゃなくて共同だったんだよね」

「ハイ?」

 口調は相変わらず沈んだままだが。何だこの唐突な話題展開は。

 何かがヤバい。何かがヤバいぞ?


「想像してみてよ」

 そして、いきなりヒートアップする先輩のテンション。

「男ばっかり、雁首揃えて一緒にオフロに入るんだよ? 意味分からないでしょう?! もうあればっかりは、意味不明というか、思い出しただけで吐き気がするというか」

 

 イヤ。意味がどうとか言われても、共同のお風呂場ってそういうものだし。


「背中流し合いながらふざけたりとか、楽しそうにしてる連中もいたけどさ。でもね、考えてもみてよクズひま。男の背中なんか流して何が楽しいんだよ? どうせなら、女の子の背中を流したいでしょうフツウ!」

「ああハイ。大声で最低のことをおっしゃっているのはよく分かります」

 結局セクハラだよ。この人に一瞬でも期待した私がバカだったよ。


「本当に、思い出すのもゾッとするような地獄の光景だよ。あの時ばっかりは、学校に入ったのを後悔したよね。それまでは一人だったから、そんな目に遭わされることもなく女の子を連れ込み放題だったのに」

 連れ込み放題って。

 ああ、前言撤回。

 

 「最低」って思ってるうちはまだ最低じゃないんだあ。

 人間、どこまでだって最低になれるのね。

 今知ったわ。


「ああ。思い出すとホントに目の前が真っ暗になるよ。前も隠さずに風呂場を走り回ってるヤツはいるし、ここぞとばかりに見せつけて来るヤツもいるし」

「あの、お願いですからその光景をあんまり詳細に描写しないで下さい」

 想像しちゃいそうでイヤです。


「しょうがないから、話の分かるヤツをつかまえて、大体猥談してたんだけどさ」

 ガックリ。そして、結局セクハラに戻って来るんですね。最低……。


「だってしょうがないでしょう?」

 先輩は主張した。

「目の前で悪魔の饗宴が開かれてるんだよ。せめて妄想に逃避しないとやってられないよ?」

「イエあの。ご自身がずっと、さっきから最低なことを言い続けているということは自覚してくださいね?」


「ああ、でも。少しは、楽しいこともあったかな」

 何かを思い出したように、先輩は言った。これ以上、何を言いだすつもりですか。


「高原も一緒の学校だったんだけどさ」

 そうなのか。でも。

「それが?」

 私は第一種警戒態勢。どんな攻撃が来ても、もうたじろがないぞ!


「普段、正論ふりかざして威張ってる高原を、後ろからオフロに引き込んで、沈めて遊んだりしたなあ」

 あはははは、と明るく笑う王子先輩! 

 

 私の防御など一撃でこっぱ微塵だった。

 あまりのことに、血の気が引いたわ。 

 アンタ、過去に親友相手に何やってんですか!!

 それは危険!! ダメ、絶対!!!

 このヒト。あらゆる意味で人としてサイアクだ!


「いやあ、クズひまにも見せてやりたかったよ、高校時代の高原。いろいろと痛いヤツでさ」

 あ、でも。

 何だか声が嬉しそうになってきた。

 やっぱり好きなんだよな、坊ちゃん先輩のことが。イヤ、この場合はヘンな意味じゃなく。


「ねえ。王子先輩?」

 私は、その機会をとらえ、バスルームの中に声をかける。

「ん? 何?」

「ホントに、コワいものじゃないんですよ? 一部のヒトからしか見えない方々は」

 返事の代わりに、中から石鹸(私の)が飛んでくる。今度は予期していたのでよけたぞ!


「ちょっと待って! 落ち着いて、ちゃんと聞いてください!」

 私は言った。

「コワいなんて言ってないだろう?! 僕はただ、理屈で割り切れないイカガワシイものがキライなだけなんだよ!」

 オバケがコワイ人がなんか言ってるが、それはスルーする。


「いわゆるオバケっていうか、幽霊みたいなものと、私が見てる人たちは全然違うと思うんですよ。そうですね。記憶、って言うのかなあ」

 ピッタリくる言葉を探す。なかなか、うまくいかない。

「記憶?」

「ハイ」

 私はうなずいた。


「強い想いの痕跡、って言うのか。そういうものが見えるだけで、小説やお芝居に出て来るような怖い幽霊なんかとは違うんですよ」


「想いの……痕跡?」


「ええ。例えば、強く誰かを想っている人には、その相手の姿が影のように寄り添って見えたりするものですし」

 王子先輩が。え、と呟く。

 私は続けた。

「私の父の周りには時々、亡くなった母の影が見えました。でもそれは、母の幽霊なんかじゃないんです。ただ、父が母を強く想っている、それだけで。母は私が幼い頃に亡くなったのであまり思い出はないんですが、父の傍に見える母を見るのはとても好きでした」


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