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「知りませんよ! 何ですか、そのサイアクな理由は!」
私はキレた。キレる資格はあると思う。
「じゃあお母様と入って下さい! 私は他人ですから、巻き込まないで下さいよ!」
「何をバカなことを言ってるんだ! お母さんが僕なんかと一緒にオフロに入ってくれるわけないだろう!」
そしてキレ返す先輩。
「入れれば入りたいよ、僕だって!!」
うぎゃあ。やめてくれ、鳥肌が立つ。
「あらゆる意味で知りませんよ、何ですかその強烈なマザコンカミングアウトは!」
「何だと?! 僕はいつも言ってるだろう! 世界中の女の人の中でお母さんが一番大好き……」
「確かにいつも言ってますけど、生々しいのはやめて下さい!」
礼子さんを知ってるだけに想像しそうになっちゃったよ!
「何ですか、コレは。さっきの仕返しなんですか?!」
うー、キモすぎて背筋が寒い。
先輩はフフフ、と低く笑った。ああ、この瞬間だけを切り取れば文句のつけようがない美形なのに。
一生しゃべらないでいてほしい、強烈にそう思う。
「今来れば、許してあげるよ? 僕をからかったりしたことを、死ぬほど後悔させてやると思ってたけど」
死ぬほどって! 何を企んでやがりますか、この先輩は?!
「何の脅しですか! 私はからかってませんよ、王子先輩が勝手に怖がってるだけじゃないですか!」
ていうか。やっぱり、王子先輩の方がコワい! いろんな意味で!
*
そんな壮絶な言い合いの末、結局。
バスルームの扉の外で、私が話し相手になることで決着が着いた。
つうか、どうにかして下さいよ、この人。ホントに。
「クズひまのケチ」
細く開いたバスルームの扉の隙間から、水音と一緒に先輩の声が聞こえる。
「いいじゃない、別に。一緒にシャワーに入るくらい、大したことじゃナイでしょう?」
「大したことですよ!」
アホか! ホント、何言っとんじゃあ、この男!
「それも王子先輩となんて、即座に妊娠しそうで絶対にイヤです!!」
最大限の拒絶感をこめて言い切る私。
それを先輩は、アハハと笑って流した。なぜこの状況で笑えるのか。(悪い意味で)
「お前なんかに何もする気起きないから大丈夫」
失礼だな! そして言える立場か?
その間も、シャワーの水音が絶え間なく続いている。
「大体さ、失礼なんだよね。僕はそんなにキケンな男じゃないよ?」
「何を根拠にそういうことがおっしゃれるんですか」
修羅場王のくせに。
「キケンじゃないよ。僕は羊のようにおとなしい無害な男だよ?」
先輩は言った。
「いつもちゃんと気を付けてるもの。妊娠させたことなんかないよ」
ちゃんと……って……。
「何をですかああ!!」
セクハラ! セクハラだ、このセクハラ大魔王!!
「え? あ、詳しく聞きたい?」
「聞きたくありません! って言うか黙れ!」
と、私は仮にも先輩を思いっきり怒鳴りつけてしまった。
先輩はとても嬉しそうに笑い声をあげた。
絶対、わざとだ。もう、ホント最低だ!!
「あのですね。いい加減にしてくれないと、私キッチンに戻りますよ?」
宣言する私。こう見えても他にやることあるんだからね!
途端に黙り込む先輩。やはり、それは困るらしい。
「それにですね! あんまりヒドイと、またあの話をしますよ」
私が言うと、中から。
「何だよ?」
と声がする。
「モチロン、王子先輩のキライな……」
その瞬間、中からシャンプー(私の)が飛んできて、思い切り頭に当たった。何てことを!
「……先輩のキライなグリーンピースの話、って言おうとしたんですよ」
「へえ?」
聞き返す先輩の声から、ちょっとムカついてるのが分かる。
私の方もムカついてるんだけどね!
「いいじゃない、ちょっとくらいウサ晴らしをしてもさ」
先輩は言った。
「お前のせいで、イヤなこと思い出しちゃったんだからさ」
「え?」
なんだか、ドキッとした。それは、今まで聞いたことがない、影のある声だったから。
「思い出さない方が幸せなことって、世の中にはあるよね」




