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「いや、本当に申し訳なかった」
お昼ご飯を前にして。坊ちゃん先輩は、深々と頭を下げた。
ちなみに、学食ではみんなの好奇の視線の的になるので、今日は大学の外のファミレスまで出てきている。
「いえ、別に。高原先輩に謝られる必要はないですし」
「そう言えばそうだな」
気が付いたように坊ちゃん先輩は顔を上げる。
「坪田! お前があやまらんかい!」
「ヤダ。知らないよ。コイツが勝手にあの女にからまれてたんだ」
諸悪の根源の人はこんなことを言って、ツンと横を向いている。
「そんな態度を取れる立場か、お前は!」
坊ちゃん先輩は王子先輩の背中をばしっと叩いた。
「まあ、見てのとおりコイツは女性にモテる」
ため息をついてから、坊ちゃん先輩は言った。
「それをまた、とっかえひっかえしてはヒドイ振り方をするものだから、別れ話の時は毎回あの騒ぎだ。俺は個人的に『修羅場王』と呼んでいる」
そんな名前付けなくても。
それにしても。
「よく、噂になりませんね」
学内の噂網、結構スゴイのに。
「なんというか、まあ。特に女性は、コイツの悪い噂を信じたがらないんだよなあ」
ああ。それは、確かに。
「それにだな。言いにくいのだが」
坊ちゃん先輩は口ごもった。
「別れ話をする相手は、必ずしも学内の女性とは限らないので」
うわあ。
「なんか……サイアクですね」
思わず本音が出た。
「ああ。サイアクなんだ」
坊ちゃん先輩もうなずいた。
「だってさ。アイツらが悪いんだよ」
王子先輩は言った。
「付き合う時は、何でもするからとか、何されても文句は言わないとか言ってさ。お願いだから付き合ってくれ、って向こうから言ってくるんだよ?」
うわあ。何ソレ。自慢ですか?
「だから付き合ってやってみれば、そんなの嘘でワガママばっかり。別れよう、って言えばゴネるし。ホントにヒドイよ」
「ヒドイのはお前だ! 自覚しろバカ!!」
坊ちゃん先輩がまた王子先輩の頭をひっぱたいた。
なんか、ドツキ漫才みたいになってて、周りの人の視線がイタイ。
「とにかく、僕は悪くない。だから、謝らないよ」
王子先輩はツン、とそっぽを向いてしまった。まあいいけど。初めから期待してないし。
「それにしても」
私は疑問を口にした。
「王子先輩がモモさんに見せたスマホ、画面何だったんですか」
それを聞くと、王子先輩はにやあ、とイヤな笑い方をした。
「聞きたい?」
「いや、聞かない方がいい。久住さんが聞くような話じゃない」
坊ちゃん先輩が真顔で言って、私もうなずいた。なんか、今の王子先輩の笑顔を見ただけで、聞く気なくなった。




