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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
王子先輩と坊ちゃん先輩と私
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「ホラ。降りろ」

 雑居ビルの前にバイクを止めて、先輩は言った。

 良かった。命があった……。


 出来るなら、二度とふたたびあの荷台には乗りたくありません。

 先輩の運転技術の優劣はよく分からないけど、基本的に相手に不信感があるので、そういう人に命を預けて道を走るというのは大変抵抗があります。

 何だか分からないけど、帰りはここから歩いて帰ろう。そうしよう。


「グズグズするな! こっちだ!」

 ボーっとしていると、すぐさま命令が飛ぶ。王子先輩のサギ師。普段はニコニコヘラヘラ笑っているくせに、実体はこんなS。これが分かったら、学内での先輩の人気もガタ落ちすると思う。


 先輩に続いて、ビルの三階まで階段を登った。

 そこは、スタジオというのだろうか? カラオケボックスくらいの、小さな部屋がいくつも並んでいて、先輩は入り口のカウンターの人にお金を払って、鍵を受け取った。

 小部屋の中は、何もないガランとした部屋で、大きいスピーカーだけがある。

 先輩はさっきの場所で借り出してきたミニコンポをセットしてから私の前に立ち、

「ホラ」

 と、右手を差し出した。

 はて。手が垂直なら握手? と思うところだけど、先輩のてのひらはまっすぐ天井に向けられている。


 ちょっと考えた挙句、その手の上にポン、と「お手」をしてみた。

 しばらく、先輩の反応が止まる。


「バカかー!! お前は!!」

 怒られた。思いっきり、怒られた。

「ふざけるな! ダンスだよダンス。ワルツのステップくらい知ってるだろう!」

 はあ? なんですか、それは。


 王子先輩は、社交ダンス部。(ちなみに、この人が在籍するというだけの理由で我が大学の社交ダンス部はとんでもない人数の女性部員を抱えている。多すぎて、いろいろ人間関係とか大変らしいが) そりゃあ、ワルツでもタンゴでも踊れるでしょう。

 しかし、私はそんなもの知るわけない。自慢じゃないが、中学の体育祭で「花笠音頭」と「マイムマイム」を踊って以来、ダンスと名のつくものには縁がない。

 そう申し上げると、先輩はさらに怒った。


「ふざけるな! なんでワルツくらい踊れないんだ!」

 日本女性の九十パーセント以上は踊れないと思いますが。


「もう。面倒くさいな!」

  先輩は大変イライラした様子で言った。

「なんだよ。僕が教えなきゃダメじゃないか」

 はあ?? ほんっと、意味分からん。


「あのう。私は別に、社交ダンスには興味はないので。せっかくですが、その必要はないと思います」

 丁重に辞退したところ。

「なんでだよ! 来月には学園祭なんだぞ! そんな態度でいいと思ってるのか!」

 体育会系のコーチが選手を叱咤するような勢いで怒鳴られた。


 それは、ね? 

 うちの大学の学園祭では、伝統的に社交ダンス部の主催する大々的なダンスパーティーがある。

 で、それは結構カップルイベントと化していたりするのだけれど。


 私、彼氏とかいないし。告白したい相手もいない。

 だいたい、ダンスパーティー自体、結構ゆるく。社交ダンス部の人たちは真ん中で華麗に踊ってるけど、その他の一般人は周りで適当に踊ってる、そんなに敷居の高くないイベントのはずだと思う。

 で、その辺の事情をお話して、再度丁重にお断り申し上げたところ。


「お前の意思なんか聞いてないんだよ! 僕がやれと言ってるんだ!」

 私の人権はどこにいったんですか。

 こうして。私の意志をまったく無視し、私と先輩のダンス特訓の日々が始まったのだった。


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