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いつの間にか、人通りのない校舎の裏側に追いつめられた私を、面倒くさそうに見ているのは。
王子先輩だよ!
渦中の人が、校舎と校舎の間の隙間から、だるそうにこっちを見ている。
うわあ。余計に面倒くさくなる予感しかしない。
王子先輩が私を助けてなんかくれるわけないし。
「カ、カズヒト」
美女は急に振り上げていた拳を下ろし、切なげな表情になった。
「ああ。えーと。アケミさん。それとも、スミレさんだったっけ?」
笑顔で返す王子先輩。
ちょっとちょっと。元カノでしょう、名前くらい分からないのか。
「モモよっ!!」
叫ぶ美女。あ、地が出た。
美女ことモモさんは、ハッとしてすぐに取り繕う。
「あ。じゃなくて、カズヒト、意地悪言わないでよ。私の名前くらい、覚えてるはずでしょう?」
「ああ。ウン。色の名前だってことは覚えてたよ」
虫も殺さないような顔で微笑む王子先輩。言っている内容はカスの言うことだが。
「カズヒト! 私、やっぱり納得できない。急に、どうして? 私、何かした? どうして別れるだなんて」
王子先輩は彼女をまじまじと見つめ、にこやかにほほ笑んだ。
「うん。ウルサイ女はキライなんだよね、僕」
ひとことで終了~。鬼か、この男。モモさんが呆然とした顔で黙りこむ。
王子先輩は更に追い打ちをかけた。
「それに、黙って聞いてれば何言ってるのさ。僕が、そこの女と付き合ってる? どこをどうしたら、そんな発想が出るんだよ。僕さ、頭の悪い女もキライって、言ったよね」
すんごい冷たい目で、私のこともにらまれた。
あのう、私、被害者なんだけど。
「その女は、高原の友達。だから会えば話くらいするだけ。それくらい、見れば分かりそうなものだけど」
「でも。だってアナタ、この女の家に行ってるって!」
モモさんが声を高くする。
「行ってるよ。何か悪い? 一応女だし、遅くなったら送るくらいするよ」
モモさんが聞きたいのは、そんな時間まで私と何をやってるのか、だと思うけど。
王子先輩は退屈そうにスマホをいじり始めた。
この男。別れ話がこじれてる最中にこの態度。分かってたけど、最低だな。
「じゃあ、どうしてよ。この女が原因じゃなかったら、どうして別れるのよ!」
モモさんは叫んだ。
「何をやってるわけ? 私、あなたのこと何にもわからない!」
あー。ど修羅場。
どうして私はこんなところにいるのでしょうか、神よ。
「もう、二つもキライな理由を言った」
先輩は面倒くさそうに言った。
「それと、僕のことは詮索するなって言ったはずだけど。ほら、これで三つ。別れるには十分だ」
つうか。王子先輩、冷たいな!
モテるからなんだろうけど、基本態度が上からだし。
モモさん、冷静になれ。これ、そんなにまでして執着するほどの人か?
別れた方がいいよ、絶対。あなたのために。
「イヤ! 私、納得のいく説明が聞けるまであきらめないから!」
それでもすがりつくモモさん。
王子先輩は、はあ、と大きなため息をついた。
「困ったな。そういうの、ストーカーだよ? 片岡モモさん、十九歳、札幌出身だったよね。夢はキャビンアテンダント」
ナニ言いだしたんだ、この人。
というか、ちゃんと覚えてるんじゃん、彼女のこといろいろ。
王子先輩は、とても優しげで美しい微笑みを浮かべて、モモさんに近付いた。
持っていたスマホを彼女の目の前に突きつける。
モモさんが息を呑んだ。




