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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
ろくでなしとのクルーズ
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11

 かまってるとキリがないので、無理やり食事タイムに突入。

「何かとりましょうか? ぼ……高原先輩」

 ううむ。ついつい、坊ちゃん先輩と言いそうになってしまうな。


「そうだな。そっちの野菜をよそってくれるか?」

「はい」

 野菜炒めとミックスベジタブルを大盛りでよそってあげる。


「王子せんぱ……」

 言いかけて、気が付いた。坊ちゃん先輩は、あだ名で呼ばれるのキライみたいだし。もしかして、王子先輩も本名で呼んだ方がいいのかな?

「じゃなくて、坪田先輩。何か」


 その瞬間。先程の比ではなく、甲板の空気が凍った。


「クズひま」

 王子先輩がゴーグルを押し上げる。食べるためにマスクは下ろしてたから、今日初めて先輩のキレイなお顔が見えたわけだけれど。

 コワイ。いまだかつて見たことがないくらいコワイ顔を、王子先輩はしている。

「どこでその名前を聞いてきた?」


「え。どこって。今日、ぼ……高原先輩からうかがったんですが」

 坊ちゃん先輩がうなずく。

 そちらをチラと横目で見てから、王子先輩は私をもう一度にらみ据え、怒鳴った。

「いいか。お前に言っておく。僕をそんな名前で呼んでいいのは、世界中で高原ひとりなんだからなっ!!」


 何だソレ!!!


 そんな名前って。アンタの苗字じゃん。

 私の横で、坊ちゃん先輩が思いっきりジュースにむせていた。まあ、無理はないとは思う。


「高原先輩だけって。大学ではどうしてるんですか」

「担当教官には学生番号で呼べと言ってある」

 そんなとこ徹底しとるのかい。


「お前。また意味不明なことをしていると思ったら、そんな理由だったのか!」

 坊ちゃん先輩の驚愕した顔。知らなかったらしい。

 うん、まあ。私も知らなくて済ませられるものならば、永遠に知らないままでいたかった。


 ていうか、何なのこの船の中。坊ちゃん先輩と、私と、このマザコンなんだかホモなんだかよく分からない人と三人って。

 この三人の間での自分の立ち位置が、余計に分からなくなった私だった。


「分かりました。今までどおり、王子先輩とお呼びします」

 それでいいんでしょう? それとも案外気に入ってるのかな、「王子」って呼び名。


「いいのか。お前、その呼び名を嫌がってたじゃないか、バカげてるって」

 あらら。嫌がってたのか。

「バカげてるよ。バカげてるけど」

 王子先輩は、機嫌を損ねた子供みたいな顔で下を向き。

「でも、あの名前よりマシだ」

 と、小さな小さな声で言った。


 なんなんだ。わけわからん。


「あー。じゃあ、久住さん。悪いが、コイツのことは今まで通り『王子』と」

「はあ」

 いいけど。別に。


 何だか、せっかくのバーベキューが暗い感じになってしまった。

 ここは、仕切り直して盛り上げないと!

「さ! 食べましょう、高原先輩、王子先輩!」

 私は言った。

「特に王子先輩! さっきからちょっとしか食べてませんよ?」

 私は自分の近くにあった料理を救って、王子先輩の紙皿にドン、と乗せた。


「いっぱい食べないと、ナルさんみたいな海の男になれませんよ!」

 なんて言ってみたりして。

 お父さんのことを言ったら元気になるんじゃないか、って何となく思った、んだけど。


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