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かまってるとキリがないので、無理やり食事タイムに突入。
「何かとりましょうか? ぼ……高原先輩」
ううむ。ついつい、坊ちゃん先輩と言いそうになってしまうな。
「そうだな。そっちの野菜をよそってくれるか?」
「はい」
野菜炒めとミックスベジタブルを大盛りでよそってあげる。
「王子せんぱ……」
言いかけて、気が付いた。坊ちゃん先輩は、あだ名で呼ばれるのキライみたいだし。もしかして、王子先輩も本名で呼んだ方がいいのかな?
「じゃなくて、坪田先輩。何か」
その瞬間。先程の比ではなく、甲板の空気が凍った。
「クズひま」
王子先輩がゴーグルを押し上げる。食べるためにマスクは下ろしてたから、今日初めて先輩のキレイなお顔が見えたわけだけれど。
コワイ。いまだかつて見たことがないくらいコワイ顔を、王子先輩はしている。
「どこでその名前を聞いてきた?」
「え。どこって。今日、ぼ……高原先輩からうかがったんですが」
坊ちゃん先輩がうなずく。
そちらをチラと横目で見てから、王子先輩は私をもう一度にらみ据え、怒鳴った。
「いいか。お前に言っておく。僕をそんな名前で呼んでいいのは、世界中で高原ひとりなんだからなっ!!」
何だソレ!!!
そんな名前って。アンタの苗字じゃん。
私の横で、坊ちゃん先輩が思いっきりジュースにむせていた。まあ、無理はないとは思う。
「高原先輩だけって。大学ではどうしてるんですか」
「担当教官には学生番号で呼べと言ってある」
そんなとこ徹底しとるのかい。
「お前。また意味不明なことをしていると思ったら、そんな理由だったのか!」
坊ちゃん先輩の驚愕した顔。知らなかったらしい。
うん、まあ。私も知らなくて済ませられるものならば、永遠に知らないままでいたかった。
ていうか、何なのこの船の中。坊ちゃん先輩と、私と、このマザコンなんだかホモなんだかよく分からない人と三人って。
この三人の間での自分の立ち位置が、余計に分からなくなった私だった。
「分かりました。今までどおり、王子先輩とお呼びします」
それでいいんでしょう? それとも案外気に入ってるのかな、「王子」って呼び名。
「いいのか。お前、その呼び名を嫌がってたじゃないか、バカげてるって」
あらら。嫌がってたのか。
「バカげてるよ。バカげてるけど」
王子先輩は、機嫌を損ねた子供みたいな顔で下を向き。
「でも、あの名前よりマシだ」
と、小さな小さな声で言った。
なんなんだ。わけわからん。
「あー。じゃあ、久住さん。悪いが、コイツのことは今まで通り『王子』と」
「はあ」
いいけど。別に。
何だか、せっかくのバーベキューが暗い感じになってしまった。
ここは、仕切り直して盛り上げないと!
「さ! 食べましょう、高原先輩、王子先輩!」
私は言った。
「特に王子先輩! さっきからちょっとしか食べてませんよ?」
私は自分の近くにあった料理を救って、王子先輩の紙皿にドン、と乗せた。
「いっぱい食べないと、ナルさんみたいな海の男になれませんよ!」
なんて言ってみたりして。
お父さんのことを言ったら元気になるんじゃないか、って何となく思った、んだけど。




