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とりあえず、先輩の蛮行はすぐに坊ちゃん先輩と、ナルさんというおっちゃんがやめさせてくれた。
と、いうか。このナルさん。
「って! 王子先輩の、お父さんですか!?」
この日最大の衝撃。王子先輩のお父さんは、男らしさMAXの漁師さんだった!!
礼子さんも似てないとは思ったけど。ナルさんに至っては共通点を探す方が難しい。
ナルさんはナルさんで、それなりに体育会系イケメンなんだけど、王子先輩とはイケメンの方向性が違うというか。
色黒、角刈り、筋肉質のお父さんに、色白で王子様系の息子。
もはや遺伝子のカケラすら見当たらない。
何なんだ、この親子は。ものすごい隔世遺伝かなんかなのか。
「おうよ。俺がカズのお父さんだ!」
言い切ってまた、ガッハッハと笑う。うーん、この豪快な遺伝子はどこへ行ってしまったんだろう。
「アンタがヒマワリちゃんかい。コースケから話は聞いてるよ、二人が世話になってるな」
ナルさんは私に手を差し伸べてきた。私はおずおずと手を伸ばし、握手した。
外で仕事をしてる人の、固くてしっかりした掌だった。
「お父さん。もう、船を出すから」
王子先輩が声をかける。
「おう、そうか。じゃあ気を付けていって来い」
ナルさんはそう言ってスタスタと私たちから離れた。
「そうだ、ヒマワリちゃん。カズが乱暴したら俺に言いな。たっぷり油しぼっといてやるからよ」
振り向いて、またニカッと笑う。
王子先輩が帽子の陰で渋い顔をしているのが想像できて、ついまた笑ってしまった。
船は帆走ではなく、ガソリンエンジンでの航行。
エンジンをスタートさせて、船が桟橋を離れると一番に王子先輩がしたことは、大漁旗を船のてっぺんから外すことだった。
ちなみにその間、船の舵は坊ちゃん先輩が担当した。
「あー! カズ、この親不孝者! お父さんのせっかくの心づくしを!」
ナルさんが桟橋から叫んでいたが、王子先輩は完ムシ。聞こえないフリして、笑顔で手を振ったりしている。
うん、なんか……家でも王子先輩は王子先輩なんだね。
安心したような、そうでもないような。
ドッドッドッド。規則正しい音を立てて、船は波を切って進んでいく。
うん。想像していたのとは違ったけど、これはこれで、気持ちいいかも。
「高原。そろそろ交代するよ」
王子先輩は船室の中で舵を取っている坊ちゃん先輩に声をかけた。
「ちょっと待て」
海図と海を忙しく見比べながら舵を取っている坊ちゃん先輩は、にべもない返事をする。
「この辺の海は、岸近くに岩礁が多い。ある程度離れないと、お前のヘッタクソな操船では怖くて乗っていられん」
「な……下手くそじゃないよ! 免許だってとったんだ」
「免許なんか誰でも取れる! そこからが肝心だから、こうして練習航海に出ているんじゃないか!」
「いいから変わってよ! 僕の練習航海だぞ?!」
ケンカ始めたんですが。
なんか、無事に岸に帰れるのか心配になってきた。
ナルさんたちと事務所で、スイカ食べてた方が良かったかなあ。




