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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
ろくでなしとのクルーズ
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「待ってたぜ。準備は万端だぞ」

 船からタラップを伝って軽い足取りでやってきたおっちゃんは、白い歯を見せてニカッと笑った。

「ガソリンもたっぷり入れたし、縁起担ぎに大漁旗も掲げといてやったぜ。で、魚を入れる箱はどのくらい持っていく?」

「いや、ナルさん。今日は別に、魚釣りに行くわけではないので」

「何でだよ。魚釣らないで、何のための船だよ。カズのヘボ操船の練習台に使われるだけじゃあ、福ちゃんがカワイソウじゃねえか」

 おっちゃんは威勢よくまくしたてる。声、大きい。

 そして、福ちゃんとは船のことだろうか。


「まったく。そんなこともあろうかと、船室に釣竿を用意しておいてやった。アジの百匹くらい、釣って来い」

「いや。この船、もう登録はずしてあるんでしょ。そんなに獲ったら密漁になりませんか」

「細かいこと言うな、男なら大志を抱け!!」

 ガッハッハ、と笑うおっちゃん。うーん、ちゃんとした服着せたらそれなりにイケメンな気もするんだけど、何しろ言動が大ざっぱ。

 言ってることも意味不明だし。


「おーい、ナル」

 事務所っぽいところからメガネのおじさんが出て来て、大ざっぱなおっちゃんに声をかけた。

「登録外船をいつまでも繋留しとかないでくれ。邪魔になる」

「おお! スマン、もう出させるよ」

 おっちゃんは上機嫌で答える。メガネのおじさんが更に、

「あと、大漁旗なんか掲げさせるな。ふざけすぎだ」

 と注意したが、おっちゃんは、

「大丈夫、大丈夫! 問題になったら、バカな学生が調子に乗って勝手に掲げたってことにしとけばいいから!」

 と笑って流す。ちょっとちょっと。バカな学生って、私たちのこと?


 ヤバい。この航海にはヤバいにおいがプンプンする。

 そんな予感が激しくした。


「ぼっ……高原先輩。あの私、急に気分が」

 逃亡を図ろうとしたその瞬間。


「お父さん。ガソリンの片付け、終わったよ」

 どこかで聞いた声がした。

 

 いや、波の音にまぎれてはいるけれど、これは確かに王子先輩の声。

 だけど、王子先輩はどこに?


 キョロキョロしていると、

「なんだ。本当に来たのか、クズひま。来なくても良かったのに」

 と、更にいつもの厭味な声がする。

 その声がした方に目をやると、農作業に使うようなつばの大きな麦わら帽子を目深にかぶり、ご丁寧にマスク、手袋までした薄緑のツナギの人が。


 って? その、帽子の陰のわずかな隙間からのぞく白い肌、パッチリした二重の目、キレイな眉毛はもしかして?

「ええっ!? お、王子先輩ですか!?」

「何。僕だったら何か悪いの」


 王子先輩は今日も不機嫌最高潮。

 しかし、麦わら帽子にシェード、マスク、ツナギに手袋、足はゴム長って。

 どんな恰好なのよ。

 肌の出てるところがほとんどない。どれだけ日焼け気にしてるんだ。

 というか、もはや。ミツバチのミツを取ろうとしている人みたいになってる。


 とりあえず、王子先輩ほどの美形な人がする恰好じゃない気が。

 まあ、ヨーロッパの王子様系美形キャラの王子先輩には、日本の漁港も似合ってはいないんだけど。


「ちょっと。クズひま! 今、僕のカオを見て笑ったな?!」

 いい度胸だ、とわめいた王子先輩に、私は会って三十秒で首を絞められた。


 違います先輩。私、先輩のカオを見て笑ったりなんかしてません。

 面白かったのは、先輩の恰好です。


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