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ところで、この辺りにヨットハーバーなんかあったっけ?
王子先輩の家を出た私は、首をかしげた。
車で二十分くらい行ったところに観光名所の島があって、そこには確かヨットハーバーがあったような。そこまで行くのかしら。
でも、坊ちゃん先輩は車とか用意している感じではないし。まさか、バス? バス移動? うーん、なんかセレブの移動手段としてそれはどうなのか。
「久住さん、どうした」
坊ちゃん先輩が足を止めて、声をかけた。
しまった。考え込んでいて、ずいぶん遅れてしまった。小走りに、坊ちゃん先輩に追いつく。
「あのう、先輩。船って」
「ん? ああ、こっちだ、こっち」
坊ちゃん先輩はそう言うと、海の方に向かって折れている細い道を歩き出した。ええ? こんなところで海に出るの?
も、もしかして、プライヴェート・ビーチとかいうヤツですか。
海の匂いが強くなってくる。足元の舗装にも、細かい砂が混じりだした。
そうして、松林を抜けると、眺望が開けた。
そこは。
小さな岬の陰に広がる入り江。岸はコンクリートで護岸され、小さな建物がいくつか並んでいる。
海に突き出たコンクリートの突堤。
テトラポットの上を舞うカモメ。
いくつもの小船が繋留されている。
行き交う人々の恰好はラフ。というか、日に焼けた筋肉質のおっちゃんがランニング一枚で歩いてたりとか、ラフを越えて……なんというか。
そして漂う強烈な魚臭さ。
山間育ちの私にも分かる。
この場所は、もしや。
漁港、というものではあるまいか?
「久住さん。こっちだ、こっち」
坊ちゃん先輩は、何事もないかのように繋留してある船の一隻にスタスタと近付いていく。その船の上では、ランニング姿のひときわ筋肉質なおっちゃんと、でっかい麦わら帽子をかぶって薄緑のツナギを着た人が二人で、何か作業をしていた。
「おーい、コースケ」
そのおっちゃんが坊ちゃん先輩に気付き、大声を上げて両手を振った。
しかし。
その白い船体。周りにぐるりと廻らされた防護柵。
飾られた大漁旗。船首に黒々と書かれた「第十三幸福丸」の文字。
魚とガソリンのニオイ。
「あの。先輩」
私は恐る恐る聞いた。
「この船は?」
「ん? ツボタのお父さんのご友人の船だが」
坊ちゃん先輩は当たり前のように言った。
「まだ使えるんだが、新しい船を買ったという話で、漁ではもう使わないそうなんだ。それで、俺やツボタが遊びたい時に、好きなように使わせてくださるんだ。ありがたい話だ」
って。
やっぱり、「乗せてくれる船」ってこれですかー!
ヨットは!?
豪華クルーズは!?
私のセレブな夢はーー!?




