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ここでハッキリ言っておきたいが、私は王子先輩の彼女などでは決してないし、多分友達ですらないと思う。「先輩」と呼んではいるけれども、学部もサークルも違うし。
だいたい、私は先輩の本名すら知らない。「王子」というのは先輩のニックネームである。理由は、まるで王子様みたいだから。見たまんまのネーミングなのである。
遠くから見ている分には、王子先輩は申し分ない王子様である。
顔はさっき言ったとおりキレイだし、ファッションセンスもいいし、体つきや身ごなしも、バレエダンサーかフィギュアスケートの選手みたいにキレイ。
いつも優しい笑顔を浮かべ、物腰穏やか。
本学の女学生は全て、王子先輩に憧れていると言っても過言ではないだろう。
私だって憧れていた。
去年のあの日までは。
私は、ちょっとしたきっかけから、「文化会連合会」という、文化系サークルの連絡合議会の役員を務めている。
その日、急いで大学の学生課に提出しなくてはいけない書類があり、私はとても急いでいた。
そして、前から歩いてきた人に思いっきりぶつかってしまったのである。
「ああっ、スミマセンスミマセンスミマセン!」
もちろん、私は必死であやまった。
しかし、その人はあやまる私を虫けらを見るような冷たい眼差しで一瞥し。
「ちょっと、君。ウザいんだけど」
と、氷点下に吹く風のような声音で言い。
「ジャマなんだよね。どいてくれない?」
乱暴に押しのけて、去っていった。
それが、私と王子先輩の第一種接近遭遇事件(私命名)である。
その瞬間から、私にとって王子先輩は「出来るだけ接近したくない」恐怖の代名詞に変化したのであった。




