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おばさんはこちらを向いた。色白で、目がパッチリして、割とかわいい感じの顔だ。同年代だったら、きっとモテただろう。
うちの母より断然若い。
私の顔を見て目をぱちくりさせて、
「えーと。誰?」
驚いたように、坊ちゃん先輩に聞く。
「だから。アイツから聞いてませんか。今日一緒にバーベキューをやる、大学の後輩の久住さん」
坊ちゃん先輩が紹介すると。
「ええっ! 女の子だったの? ヤダよ、あの子ったら、後輩としか言わないんだもの」
私が挨拶するヒマもなく、おばさんはバッと家の中に走りこんで。
すぐに、黒い日傘を引っつかんで戻ってきた。
「アンタ、これ使いなさい。海は陽射しが強いから、そんな恰好じゃ日焼けして大変なことになるよ。安物だし古いから、そのまま持ってってもいいからね。ああ、あと上にかけるものもあった方がいいかしら。ちょっと待ってて、何か探して来るから」
「礼子さん、礼子さん」
あわてるおばさんを、坊ちゃん先輩が宥めた。
「今日は曇ってるし、大丈夫でしょう。あんまり日が照るようだったら、彼女は船室に入ってもらえばいいし」
そう言われて、おばさんは、ようやく落ち着きを取り戻した。そして、
「ゴメンね、私ったら慌てちゃって。カズがお世話になってます」
と私に頭を下げた。
「アイツの、母親の、礼子さん」
坊ちゃん先輩が紹介した。
私も慌てて自己紹介して、頭を下げた。
でも。なんか意外だ。
改めて、礼子さんをチラリと見る。
王子先輩のあのマザコンっぷりからして、てっきりお母様っていうのは王子先輩とそっくりな超美人で、でもって「ざあます」系のお金持ちの奥さんっぽい人で、しかも息子大好きな熱愛親子なのかと思ってた。
でも、目の前の先輩のお母さんはビックリするほど普通の人で。
気さくでサッパリした感じで、あの底意地の悪い王子先輩と血のつながりがあるとはとても信じられない。
顔立ちも、あんまり似ている感じはしなかった。色白なところくらいかな、似てるのは。王子先輩は、お父さん似なのかしら。
「私のことは、礼子でいいからね」
礼子さんはそう言って笑った。わしのこともキンジでいいぞ、とおじいさんも横で言う。やっぱり気さくだ。どこをどうして、この感じのいい家族からあの超絶面倒くさくて感じの悪い人が生まれたのか。
「良かったら、二人とも夜も寄っていきなさい。夕食、うちで食べなさいよ」
本当に気さくだ。
頭を下げてお店を出ながら、私は遺伝の不可思議さということばかり考えていた。




