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私たちは大学の前を通り過ぎて、海岸への道を歩いた。
大学の前はちょっとした商店街のようになっていて、スーパーもあり、この辺りで買い物をすることもあるのだが、そこより海側には私は行ったことはなかった。
坊ちゃん先輩は、その道をスタスタと慣れた足どりで歩いていく。
しばらく普通の住宅街が続いた後、広めの道路に出た。「海岸通り」と呼ばれる、夏になると観光客で渋滞する道路だ。
その道沿いに少し歩いた後、坊ちゃん先輩は「ここだ」と言って、一軒の店に入った。ガラス張りのショーウインドーは新しそうだけど、建物自体は結構年季が入った感じ。一軒家の一階がお店になっている造りの、ごく普通の建物だ。
ショーウインドーには白い文字で、「リサイクル&ハンドメイドの店 ワタナベ」と大きく書いてあった。
中に入ると、雑多な品物が陳列してあった。自転車、サーフボードといった大物から、テレビや冷蔵庫などの家電、洋服や本まで置いてある。
洋服は、大概が流行遅れの形や色のものだったが、中にいくつか手作りっぽいものも並べてあった。
シンプルなデザインで、布地も普通の綿や麻なんだけど、その簡素さが心地よい。ところどころに施された刺繍も手が込んでいて、いい感じだった。
北欧っぽいっていうか。センスの良さが感じられる。
私が服を見ている間に、坊ちゃん先輩は奥へ行き、カウンターから家の中に向かって「こんにちは」と大きな声を上げていた。
「よお、コウちゃん。待ってたよ」
少しして、中から黄色いTシャツを着たおじいさんが出て来て、坊ちゃん先輩に笑いかけた。
「今、礼子がなんだか持ってくっから。おや、その女の子は誰だい。コウちゃん、彼女か」
コウちゃん、というのは坊ちゃん先輩のことらしい。私たちはあわてた。
「いや、違うから。欣治さん、からかわないでもらいたい」
坊ちゃん先輩は困ったように言う。
「大学の後輩の、久住さん。この前の英語の課題で大変お世話になったから、今日は彼女にお礼をするのが主な目的なんだ」
丁寧に説明する。欣治さんというおじいさんは、「ああ、あのエーゴか」と、ちょっと眉根を寄せた。
「ありゃあ、大した騒ぎだったな。そうかい、孫がお世話になったね」
私に向かってニヤッと微笑みかけてくれる。
えーと。ということは。
「久住さん。この方は、この店の主人の、渡邊欣治さん」
坊ちゃん先輩は、私にも丁寧におじいさんを紹介してくれた。
「あのバカの、あー、なんというか」
先輩が口ごもったのを、おじいさんが引き取った。
「じじいだよ。アンタも、和仁の友達なんだろ?」
やっぱりーーー!!!
カズヒトというのは王子先輩の本名だったはずだ。うわあ、本当にこの人が、王子先輩のおじいさん?!
「は、はじめまして。あの、王子先輩、いえ、えーとツボタ先輩には、いつもお世話になってます」
なんか、言いにくいな。ツボタって誰? って感じ。
「いやいや。世話かけてると思うけど、あれでいいところもあるから、気長に付き合ってやってくれ」
そんな挨拶をしているところに、奥から女の人が現れた。
ぽっちゃりして背の余り高くない、ショートカットのちゃきちゃきした感じのおばさん。四十代くらいだろうか。
「コウちゃん、これ荷物。クーラーボックスに詰めておいたから。持てる?」
水色の大きなクーラーボックスを坊ちゃん先輩の手に渡す。
「お、重! 礼子さん、何が入ってるんですかコレ」
「何って。肉とか野菜だけど。いっぱい食べてもいいように、多目にしておいたからね」
「いっぱいって……。いや、多い。確実に多いですよ、これ。何人来ると思ってるんですか。あのバカは鳥が突いたくらいしか食べやしないし、絶対余りますよ、コレ!」
「重いのは、氷の分もあるんだよ。男だろ、文句言わないの」
おばさんは、坊ちゃん先輩の背中をパシッと音を立てて叩いた。




