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で、クルーズ当日。
前夜のダンス練習と、その後のお茶タイムの際、王子先輩はしつこいほど、
「このことについては絶対に高原に言うな」
と念を押してきた。もう、何なんだか。
でもまあ、これだけ言うんだから、少なくとも今日はダンスレッスンはお休みのはず。坊ちゃん先輩の目の前で、「ダンスの練習に行くから帰る」なんて言えないはずだもんね。
やったー! あのしごきがないと思うだけで嬉しい! 神様仏様、坊ちゃん先輩、今日の日をありがとう。
坊ちゃん先輩とは十時に、大学の最寄駅で待ち合わせをしていた。
坊ちゃん先輩はいつもどおり、ブランド品をさりげなく着こなして改札前に立っている。なんていうか、高級ブランド品がラフに見えるっていうところに、この人はお坊ちゃまなんだなーとつくづく思わされる。まあ、その点は王子先輩もそうなんだけど。
「やあ、久住さん」
私の姿を見つけて、挨拶した先輩はセカセカと言った。
「早速ですまんが、港へ行く前に寄っていくところがある。つきあってもらえるか」
「はい。何ですか?」
と聞くと、坊ちゃん先輩は顔をしかめた。
「坪田が先に港に行って、船の準備をしているのだが。あのバカ、肝心な食材を忘れて行った」
「ああ。スーパーか何かに寄っていくんですね?」
と言ったら、坊ちゃん先輩は首を横に振った。
「いや。食材自体はもう用意してあるから、アイツの家によってそれを回収していくだけだ」
アイツの家って。
えー!! 王子先輩のお家!?
「王子先輩の家って、この近所なんですか?」
「ああ、港の近くだ。大学からも二十分くらいだな」
そんな地元民だったのか!!
私たちの大学は、海の近くで、都心からは電車で一時間くらいのところだ。
坊ちゃん先輩のお家は、都心に近い高級住宅街だと聞いたことがあったけど、いや、しかし。
てっきり王子先輩も、そういう「東京者」だと信じて疑わなかった。
いや、東京まで電車で一時間って時点で、私のような地方出身者から見たら都会者ではあるんだけど。
それでも、うーん。なんか、イメージ違うぞ。
「そういうことで、ちょっと回り道になるが。申し訳ない」
坊ちゃん先輩は丁寧に言ってくれる。この辺りの真・紳士っぷり、エセ紳士の王子先輩は見習ってほしい。
そこではたと気が付いた。王子先輩の家に行くってことは、もしかして。
「あの……ぼっちゃ……高原先輩」
私は先輩に尋ねた。
「つまり、王子先輩の家には王子先輩のご家族が?」
「ああ。母親と爺さんがいるな」
なんでもないことのように坊ちゃん先輩は答えたが、私には衝撃である。
王子先輩のお母さん! それはもしやあの、「この世で一番美しい女の人は僕のお母さん」と言い切る王子先輩の、愛しい愛しいお母様ではあるまいか?!
そして更に、お爺さんまでいるのか。意外に大家族だ、王子先輩の家。




