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その次の晩。
相変わらずの鬼のようなしごきっぷりでダンス特訓を終えた後、私を家まで送ってきた王子先輩は、むすっとしたまま私に有名デパートの袋を手渡した。ちなみに、この袋があったので、この日の足はバイクじゃなかった。
「じゃ、これをやるから。大事に使えよ」
なんか。高級店っぽい包み紙が威圧的なんだけど。
開けるのがためらわれる。だが、なんか目顔で「開けろ」と言われてるみたいなので、仕方なくガサガサと包装をはがす。
そして、テーブルに広げられたのは、超高級ブランドのティーセット一式!
「こんな高いモノいただけません!」
私、断固拒否。こんな高いもの、コワくて触れない! これ一式で、私の一ヶ月のバイト代くらい飛ぶよ?!
「何でだよ! 高原が来たらこれくらいの食器じゃないとダメだよ。アイツ、あれでもお坊ちゃんなんだぞ?」
「坊ちゃん先輩は、私のアパートになんか来ませんよ!」
「来た時にあんなシュミの悪いカップばっかりじゃ困るだろ、って言ってるんだよ!」
なんか……話がかみ合わない……。
「あと、これが茶葉。いくつか買ってきたから」
別の袋を出して来て並べてくれたお茶っ葉はまた、どれもこれも眩暈がするような高級品ばかりだった。
「高原はこういう、濃い目で味がしっかりしたヤツが好みだから。疲れてる時は、砂糖やミルクをたっぷり入れて飲んでるよ」
「はあ」
何で坊ちゃん先輩中心かな。ホント、意味が分からん。
それにしても、王子先輩ってお金の使い方もナゾなヒトだ。
普段は、大学生協のアイス一本だっておごってくれないくせに。それどころか、坊ちゃん先輩と三人でファストフードのポテトをシェアしようとした時は、一円単位で割り勘しようとしたくせに。(ちなみにその時は結局、見かねた坊ちゃん先輩がおごってくれた)
今日のこの、眩しいほどの超高級品攻撃は何なのよ??
「あと、これ僕のカップ」
リュックをまだゴソゴソやっていた王子先輩は、シンプルなマグカップを取り出すと、ドンと机の上に置いた。
「ハイ? 王子先輩の?」
「お前んちのダサいカップだと、カップを見ただけで茶を飲む気がうせるんだよ!」
ああ、そうですか。なんかもう……いろいろ、諦めた。
「じゃあ。僕はシャワー使ってくるから。その間に茶を淹れておけよ」
そう言って先輩は立ち上がった。
「僕のカップを割るなよ? あと、昨日みたいなマズイ茶を淹れてみろ。ただじゃおかないからな?」
あれ以上何をする気ですか。昨日で十分、通報レベルだったんだけど。
先輩がシャワールームへ姿を消した後。私はヤカンを火にかけ、恐る恐る新品の超高級ティーポットを洗い始める。
これ、一つで何万するのよ。なぜそんな超高級品を買ってくる、王子先輩。やっぱり、見た目同様お生まれもセレブなのかしら。
「王子先輩も、根っから悪いヒトじゃないんだけどなあ」
私はつい、呟いてしまう。
「なんであんなに怒りっぽいのかなあ? 怒らないでくれれば、もう少し付き合いやすいんだけど」
その時、シャワールームの扉が乱暴にバタン、と開く音がした。
ズカズカいう足音が近付いてくる。
「あれ? 王子先輩? 早かったですね。まだお湯沸いてないんですけど」
返事がない。
「王子先輩? あれ、着替えなかったんですか?」
振り返ってみると。さっきと、服が変わってない。
「お前な」
先輩は顔をあげ、私をギロリ、とにらんで低い声で言った。
「ハイ?」
私はきょとんとする。その瞬間、先輩がキレた。
「どこまでシュミ悪いんだよ! こんなソープとか使えるかあああ!」
叫ぶと同時に、バスルームに置いてあった石鹸やシャンプーを投げつけてくる。
「何だコレは! 洗濯石鹸か! タオルも趣味悪い!」
「痛い! 痛いです先輩! そして横暴です! 私の家のモノに、いちいち文句をつけるのはやめて下さい!!」
こうして、翌日から我が家のシャワールームには王子先輩用として高級バスグッズが常備されることになった。
なんか……浸食されてるよ、私の家……。




