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「そうか、お前だったのか。ヒマワリちゃんにダンスを教えたのは」
納得したようにうなずくナルさん。
あ、バレた。
「そうだけど」
不機嫌にナルさんを振り返る王子先輩。
それに向かって、ナルさんもこれ見よがしにため息をついた。
「最低なヤツだな、お前ってヤツは」
「何?! 何で、お父さんにまでそんなこと言われなきゃならないの」
更に不本意そうになる王子先輩。
「何でってお前。彼女のダンス、最低だったぞ」
最低……。スミマセン。
「だから。僕が一か月もかけて特訓して、何とかステップを間違えないように覚えさせて」
「じゃねえよ。お前、どんなヒドイ教え方したんだよ?」
意表を突かれた顔になる王子先輩。
「確かにステップこそ正確だったがよ。見てられなかったぜ。委縮しちまって、体はガチガチ。表情は蒼白。ダンスを楽しむ、って一番大事なことが抜け落ちてる。また、コースケのリードがド下手くそなもんだから、全然彼女の緊張がほぐれねえしよ」
ギクッとする坊ちゃん先輩。
礼子さんも話に入る。
「あんまりかわいそうだったから、途中でパートナー交代したのよ。あたしがコウちゃんと踊って」
「おれがヒマワリちゃんと踊ったんだよ」
「え?!」
王子先輩は驚愕した顔になった。
「お父さんとお母さんで踊らなかったの?!」
呆然と二人を見る。それから、ハッとしたように私と坊ちゃん先輩を振り返って。
「じゃ、クズひまと高原も?!」
「お前にも見せたかったぜ?」
ナルさんはニヤリと笑った。
「固くちぢこまった若い娘が、おれの腕の中に体を預けて、次第次第に緊張をほぐし、動きを伸びやかにしていく。まるで固い蕾が花開くように、どんどん大胆になっていく様を」
「成俊。その言い方、なんかスケベったらしい」
礼子さんが、すごく冷ややかな口調で言った。
「あと、その顔もスケベったらしいよ」
「ああっ、礼子ちゃん! そんなつもりはないんだ! 信じてくれえ!」
あわてるナルさん。
「イヤムリ。今の顔ヒドかったよ」
うん。私もちょっと引きました、ナルさん。
王子先輩があわてて二人の仲裁に入った。
「ちょっと! お父さんもお母さんも、ケンカしないでよ。僕がわざわざダンスのパートナーを代わってあげたのに」
「全部お前が原因なんだよ!」
みんなの心と声がそろった。
「余計なことすんな!」
まで。うん、みんな思いは一つだ。
「だいたい、コースケもコースケだよなあ。カン違いもはなはだしいよ」
肩をすくめるナルさん。
「あんなに女の子が委縮しちまうようなダンスの教え方をするヤツに、愛なんかあるか。最初ロボットとダンスしてるみたいだったぞ」
スミマセン、ロボットダンスで。確かに愛はなかったけど。
そして、その脇でいじける先輩二人。
「すみませんね経験値少なくて」
「悪かったね、だから僕はこの女大キライなんだってば」
なんかもう……後の方のヒトについては段々ツッコむ気がしなくなってきた。
礼子さんが不思議そうに王子先輩を見る。
「アンタ、あたしと踊った時はあんなに優しかったのに。ステップなんか気にしないで、僕に合わせて楽しく踊ってくれればそれでいい、って」
そんな優しいことを!? 誰ですか、その王子様みたいな人は!
王子先輩は少し赤くなった。
「それは……。お母さんとクズひまは全然違うから。同じように扱ったりなんて出来ないよ」
そして何ですか、その少し恥らったような、照れたような顔は! そんなカオ初めて見たよ。私の前で見せる顔って言ったら、それはもういつも鬼のようなカオばっかりで。
「お前な。それはフツウ、ヨソの女の子の方に対して見せるカオだ」
ナルさんが呆れたようにツッコんでくれた。
「ウルサイな! いいでしょう、僕はお母さんより好きな女なんかいないんだから!」
と、真剣に反論するマザコンひとり。
いや。礼子さんが本当のお母さんじゃないなら、マザコンじゃないのかな。
でも、客観的に言って今の状態、やっぱりマザコンにしか見えない。
「イヤそれ威張って言うことじゃナイ。二十を過ぎた男が堂々と言うことでもナイ」
ツッコむ坊ちゃん先輩。礼子さんも深いため息をつく。
「これだからアンタ、マザコンって言われるのよ」
そしてアタシはマザコン男の母と言われるのよ、と付け加える。
やっぱりマザコンという解釈でいいらしい。




