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「フン。貧乏くさい部屋だな」
アパートの部屋にズカズカ入ってきた王子先輩は、新婚家庭をチェックする姑のまなざしで室内を眺め、そうコメントした。
「悪かったですね」
なんていうか、やっぱり引き止めるべきではなかっただろうか。
たとえ明日以降、毎日毎日イヤミを言われることになったとしても、さっきあのまま帰らせていたら……。いや、それもイヤだわ、やっぱり。
王子先輩は黙ったまま、自分のシャツの胸元を引っ張って風を入れている。
「どうしたんですか? 先輩」
「汗で服が体にくっついてキモチ悪い。まさか、お前があそこまでド下手くそとは思わなかったから。今日はテストだけのつもりだったんだけど」
王子先輩は深い深いため息をついた。
「こんなことになるなら着替えを持ってくれば良かった」
あー! やっぱりなんかイラつく!
「どうもスミマセン! 私がダンス下手くそなせいで、王子先輩にご迷惑をおかけして!」
教えてくれなんて、一言も頼んでないけどね!
王子先輩はもう一度ため息をついた。
「もういいから。サッサとお茶淹れて。サッサと飲んでウチに帰って、お母さんの顔を見てシャワー浴びて着替えて寝るからさ」
お母さん、まだ起きてるかなあ。眠っちゃってたらサビシイ……とか呟いている。
そう言えば説明をしていなかったが、王子先輩は大したマザコンである!
「お母さん思いの優しい子」とか、そういうレベルじゃないよ? 親孝行とか、そういう問題でもない。
正真正銘、ガチのマザコン。
どのくらいガチかと言うと、
「この世で一番清らかで美しい女の人は僕のお母さん」
とか大真面目にほざくレベルのマザコンなのである。
そもそも、普通の人、特に男の人は二十歳を越えて自分の母親のことを人前で「お母さん」とか言わない。おかん、オフクロ、母親……そんなところが妥当だろう。堂々と「お母さん」呼ばわりしている時点でヤバい。そう思う。あえて好意的に解釈すれば、「ママ」でないだけマシだった。
まったく、何で深夜にこんなヒトの面倒を看なくちゃいけないんだろう。
ようやくお湯が沸いたので、そそくさと紅茶を淹れる。緑茶もあったのだけれど、王子先輩の顔を見るとやっぱり紅茶じゃないといけない気がする。せめて少しでも楽しいティータイムにしよう、と、お気に入りのクマさんのペアカップを使った。
「何だ、このダサいカップはああ?!」
カップをテーブルに置いた途端。悲鳴にも似た叫びが上がる。
「ハイ? カワイイでしょう? クマさんのペアカップ」
私はニッコリ笑って言う。どんなイヤミを言おうが勝手だが、このクマさんの可愛さを本気で否定できるならやってみろ。私は勝負を受けて立つ。
あと、何度も言うけど深夜なんだから大声はやめてほしい。
「カワイイ?! どこがだ! キモチ悪いよ!」
見ろ! って、袖をまくり上げて自分の腕を見せてくる。
何なんだ、と思ったら。アラ。鳥肌?
うーむ。本気で気持ち悪がっている様子。
「何でこんな生首みたいなのでお茶を飲まなきゃならないんだ?!」
な、生首!? 言うに事欠いて、生首!?
「やめて下さいよ!せっかくお気に入りのカップなのに。私までキモチ悪くなっちゃうじゃないですか!」
「違う! 元々そのデザインがキモチ悪いんだよ!」
王子先輩はわめき散らした。
「そして、そんなカップを選んで買うお前がもっとキモチ悪い!!」




