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大学構内を、友達とおしゃべりしながら歩いていたら、突然すごい力で腕をつかまれた。
「いたっ?」
ビックリしたのと痛いので、反射的に腕を確認する。白くて大きな手が、私の腕をつかんでる。
手から手首、手首から腕、腕から肩……と、たどっていくと。最後にとんでもなくキレイなお顔にたどりついた。
色白で女の子よりきめの細かい肌。彫りの深い整った顔。色素の薄い茶色の目と、天然茶髪のやわらかそうな髪。
「王子先輩?」
なんと、学内で知らない者のない、とっても美形でとってもカッコいい王子先輩その人が、なぜだかとってもコワイお顔で私をにらんでる。
「何、やってるんですか」
思わず聞いてしまうと、先輩は余計に不機嫌そうな顔になって、
「何じゃない。サッサと来い」
と言って、私を引きずって歩きだした。
すごい速足で、私はついていくのが精一杯。
突然の出来事に、みんな呆然としているのか。一緒に歩いていた友達でさえ、追って来てはくれなかった。
ああ。
また、学内でヘンな噂が立つ。
想像しただけで泣けてくるけれど、もう遅い。
一般人の私に出来るのは、諦めて受け容れることのみ。
でも。せめてもう少し目立たないように。
人として最低限の気遣いを。
求めることは出来ないのだろうか。
私を校舎裏の駐車場まで引きずってきた王子先輩は。
「ほら」
と。なんか、ヘルメットを渡してきた。
「何ですか、これ」
「そんな物も知らないのか。かぶるんだよ」
いや、それは知ってるんですけど。
「どうしてですか」
「はあ? 何言ってるんだよ。かぶらないと、僕が減点されるだろ!」
先輩はイライラした調子で言った。
「減点ですか。でも、この辺に現場とかないですし」
先輩が建築学科の学生だったことを思い出して、現場にでも連れて行かれるのかと私はキョロキョロする。
「久住ヒマワリ。ふざけるな!」
先輩は、私のフルネームを呼んでキレた。あ、ヤバい。
この流れは、相当怒ってる。
「ここにある僕のバイクを、お前は何だと思ってるんだよ。これに乗れって言ってるんだ!!」
「乗れって。いや、私、無免許ですし」
「誰もお前に運転しろなんて言ってない! 僕の後ろに乗れ、って言ってるんだ」
「え。イヤです」
私は反射的に断った。
「バイクの二人乗りは、事故率高いですし。それに、王子先輩の運転とか」
正直、コワイ。コワすぎる。
「僕の運転が何だって」
王子先輩はものすごく低い声で言った。
「いいから、乗れ。乗らなきゃ、ここでひき殺す。どっちにする?」
目がマジだった。
王子先輩とタンデムとか、あらゆる意味でコワすぎるのだが。やはり私には拒否権はない様子だった。




