私の役目
その日、彩香ちゃんが麗子さんに出会った時のことを話してくれた。
彩香ちゃんと麗子さんは、初対面では「子供の宝石店」での店員と客だったらしい。
麗子さんは自らを「ブライティン」と名乗った謎の老婆で、顔は見えなかったらしい。
そこで、彩香ちゃんは「石」を買った。
宝石店に売ってあったのだから、「宝石」と呼ぶ方がふさわしいかも知れないが、それは小学生の小遣いで買えるほどの低単価のものだったらしい。
なので、私達はそれを「石」と呼んだ。
私に与えられた石は、赤い小さな球体状であったが、彩香ちゃんが持っていたものは、青い勾玉状だった。
「色と形は違うけど……。似てるね、この二つの石……。」
私達は、教室の隅で各々の石のペンダントを見せ合う。
「ね、彩香ちゃん、さっき言ってた『ストーン星』って……。」
私が小声で質問しようとすると、後ろでガラッと大きな音が聞こえた。
黒縁の眼鏡をかけ、短くサッパリと切り揃えた髪の毛の若い男性が教壇に立っていた。
担任の先生だ。
「じゃあ、皆!そろそろ授業が始まるから、席に着いてください!」
私達は、また後で話す約束を短く交わし、自分の席に戻って行った。
「ただいまー!」
小学校から帰宅した私は、今日は父も母も出かけている日だと気付いた。
そういう日なら、いつもは鍵を開けて家に入るのだが、最近は麗子さんがいる。
「おかえりなさい、優子さん。」
「うん、お姉ちゃん。」
この人をお姉ちゃんと呼ぶのも、大分慣れた。
桜井家では、まるで最初から二人姉妹だったように、麗子さんが父と母と私の輪に溶け込んでいた。
意識操作も、超能力の内なのだろう。
「……今日は、緊張しました。」
「えっ!?」
いつも穏やかで余裕のあるお姉ちゃんといった感じの麗子さんが、意外なことを言ったからだ。
「教育実習ですよ。ストーン星は、科学の星とはいえ、地球の方にそれを教えるとなると、また勝手が違いますからね。」
ふぅ、と麗子さんは溜め息をついた。
「そうなの?全然そんな緊張してる風に見えなかったですけど……。あっ!そういえば。」
私は、今日一日中気になっていたことを聞いてみることにした。
「彩香ちゃんが…私のことを『ストーン星の人なの?』って聞いてきたんですけど……。あの子も、私と同じようなペンダントを持っていたんです。それって、彩香ちゃんもストーン星と関係のあるってことなんですか?結局、今日は朝以外話せる機会が無くて。」
麗子さんは、私の話を聞くと私がこう質問するのを待っていたかのように、言葉を発した。
「あなたは、『選ばれた人』なんです。」
「『選ばれた人』?」
私、桜井優子と西村彩香ちゃんは運命共同体。
地球とは違う世界である「ストーン星」から来た超能力者、麗子さんことブライティンによって、それを告げられる。
彩香ちゃんは、ストーン星の「石」の効果を試すために「選ばれた人」。
私は、石の効果を試す地球人を補佐するために「選ばれた人」。
もうすぐ夏休みだ。
「石」の超能力を使ってストーン星に旅行してほしい。
そこには、観光エリア・宇宙学習エリア・政治エリア・自然エリアと4つの区域に分かれているから、そこでストーン星のことを知ったり、学校の自由研究を共同でやればいい。
その日、こういったことを、私と彩香ちゃんはブライティンから聞かされたのだった。