話を聞いてみる
すうっと息を吐いてから、私の質問を聞いた女性が口を開いた。
「桜井麗子。地球では、そう名乗らせてください。」
「へっ!?」
私は、素っ頓狂な言葉を出してしまった。
地球では?
名乗らせてください?
普通の自己紹介ではない。
「それじゃあ、答えになっていません……。」
私は、恐る恐る言った。
「…………。」
私達は、目を合わせた。
本当に綺麗な瞳だ……。
日本人じゃないみたい。
年は、二十歳かそこそこに見える。
その目が、少し伏せられたかと思うと、麗子さんははっきりとした口調で言った。
「私は、地球とは別の星『ストーン星』というところから来ました。その星の人々は、皆超能力が使えます。私が失礼ながらも優子さんの御自宅に入ってこれたのも、『あの曲』を歌えたのも、全ては超能力を使ったからです。」
ペラペラと信じられないことばかりを言われたので、頭が混乱してきた。
「ま、まさかぁ……。私が小学生だと思って、お姉さんからかって……。」
今時、10歳児でもこんなファンタジックなこと信じない。
私は、今12歳。
もう、おとぎ話は卒業したのだ。
でも……。
「とても素敵な曲を作られますね?」
麗子さんがにっこり笑った。
そうだ、あの曲……!
私が初めて作った、オリジナル曲だ。
「どうして?」
どうして、家族しか知らない私の曲を知ってるの?
「全ては、超能力です。」
麗子さんはきっぱりと言い放った。
「超能力……。」
「…少し、調べさせていただきました。あなたのお父様は、日本で有名な音楽家桜井秋一さんですね?あなたは、幼い頃から良い音を聞いて育った。だから、お父様の見様見真似で曲を作ることもできた。あなたは、いつしかお父様と同じ道を進みたいと思うようになった。」
す、すご…!
ここまで調べつくされたのなら、もう信じるしかなくなってくる。
でも。
「間違っています。」
麗子さんは、ぱちくりと大きな目を瞬いた。
私は、音楽家など目指していない。
さっき、麗子さんは、私の曲を「素敵な曲」と言ってくれたが、あの曲は私が小学生作曲コンクールに出しても、入賞さえしなかった曲だからだ。
父が有名な音楽家だからと、私は驕っていた。
自分にも素晴らしい才能があるはずだと。
私は、あの時の落選の悔しさを思い出して目に涙を浮かべそうになった。
すると、ふ…、と頭に何かが触れた。
麗子さんが頭を撫でてくれていた。
「専門家に認められることが、『良い曲』の定義ではありませんよ。私は、優子さんの曲、大好きです。思わず歌いたくなるほどに。」
「……っ!」
その日、私は見知らぬ異世界人の前で、涙を見せてしまった。
温かな感情を感じた。
この人を信じてみようと決めてから、私の「ストーン星」行きの計画がちゃくちゃくと進められていった。
私に与えられたものは、3つ。
一つは、超能力が使える小さな球体状の「石」。
見た目は赤い宝石に見える。
ペンダントになっていて、常時身に着けていて欲しいと麗子さんに言われた。
「あなたの髪の毛の色と一緒で、綺麗な色をしていますね。」
「うん。お姉…ちゃん。」
次に、与えられたのは、「お姉ちゃん」という存在。
麗子さんは、地球上で「桜井麗子」と名乗り、私の側にいることになった。
同じ苗字だったのは、ここで私の姉として暮らすためだったらしい。
そして、3つ目。
「優子ちゃん!」
元気で明るい友達。
「おはよう、彩香ちゃん。」
私は、ホームルームが終わった後、彼女に話しかけてもらったので、朝の挨拶をした。
「おはよう!ねぇ、今朝教育実習生としてウチの学校に来たのって……。」
「うん、私のお姉ちゃんだよ。」
私は、麗子さんに言われたとおり、彼女を姉として紹介する。
「そうなの!?じゃあ、優子ちゃんも……?」
「?」
そっと私の耳に、顔を近づけてきた彩香ちゃんは、とんでもないことを言った。
「優子ちゃんって、『ストーン星』の人なの?」
私は、目を丸くした。
彩香ちゃん……ストーン星のことを知ってる?
「違うけど……。どういうこと?」
今度は、私が質問してしまって、私達は混乱した。