ブライティン
私はその日の夜も夢を見た。
夢の中には小学6年の時の友人、西村彩香ちゃん。
彼女と私は、クィナットさんも住む、「ストーン星」に来ていた。
帽子を深々と被った謎の老婆、ブライティンに連れられてだ。
そこでクィナットさんと出会った。
……サラッと述べてしまったが、あの頃の私達は、超能力が使えた。
と言っても、私も彩香ちゃんも、ブライティンに会うまでは普通の小学生だったので、超能力者ではない。
地球に住む、ごく普通の女の子だった。
最初に超能力を使えるようになったのは、彩香ちゃん。
宇宙のはるか彼方「ストーン星」からやってきたブライティンが作り上げた宝石店に立ち寄った彼女が手に入れた「石」が、その始まりだった。
「石」は、超能力が使える不思議な代物だった。
彩香ちゃんは、ブライティンから自分が「選ばれた人」だと告げられ、その石を使って少しずつストーン星のことを知っていく。
そして、それから間もない内に私の元にもブライティンがやってきた。
私が初めてブライティンに出会った時、その美しさに圧倒された。
艶やかなブロンドの髪、大きな少し釣り目がちな目、口元は今で言うアヒル口、とでもいうのだろうか。
「モ、モデルの方ですか?」
自宅の玄関のチャイムが鳴らされたので扉を開けると現れた女性に、私は思わず尋ねてしまった。
「いえ、あなたを迎えに来たんです。」
涼やかな声だった。
しかし、私はその女性の目の前で、扉をバタンと閉めてしまった。
とても綺麗で若い女性が現れて見とれていたけど、急に変なことを言い出したからだ。
「迎えに来た」?
それって……、誘拐される!?
当時の私は、まだ小学生だ。
その時の恐怖と心細さったらない。
ピンポーン!
玄関のチャイムがまた鳴らされた。
恐る恐るインターフォンで出てみると、そこから戸惑ったような声が聞こえてきた。
「すみません、自己紹介が遅れました。私、桜井麗子と言います。扉を開けてはくれませんか、優子さん?」
桜井!?
桜井は、私の苗字だ……。
そして、私の名を知っている。
ということは、親戚だろうか?
いやいや!親戚にあんなに綺麗なお姉さんがいたら、忘れるはずがない……。
自問自答していると、背後に人の気配を感じた。
「ルー♪」
まるで、チューニングをしているかのように、人の歌っているような声が聞こえた。
「ラララーラ、ラーラ、ラッラー♪ララーラ、ラーララー。ラララーラ、ラーラ、ラッラ♪」
静かで、でも伸びの良い声だった。
私は、後ろを振り向けずにいた。
女の人が歌っている……。
しかも、鍵をかけたはずの家の中でだ。
私は、固まってしまった。
単に、恐怖心だけではない、何か別の感情が浮かび上がっていた。
……感動だ。
「――ラララ、ラーララ、ラララ―ラーララ……。」
女性の歌声が終わると、私はゆっくりと振り返った。
そこには、先程玄関前に立っていた人。
私はもう、どうやってその人が家の中に入ってきたかだとか、何故急に歌い出したのだとか、そんなことはどうでも良かった。
ただ一つ、尋ねたいことを口に出した。
とてつもない感動を私に与えた女性。
「…あなたは、何者なんですか?」