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ちょっと私の話を聞いていきませんか?

作者: ゆうこ

 短いのでさらさらと読めると思います。読んでやるぞという方はどうぞ進んでください。

 私は珍しくそわそわと浮足立っていた。それは何故かというと………なんと、前からしたくて堪らなかったデートが明日あるからだ!


 …おっと、これじゃ何がなんだかわからない。先ずは彼の事を紹介しよう。


 彼の名前は賢弍という。最初の出会いは町中だった。私はその時、賢弍の前の恋人を亡くしてしまい、なにか胸にぽっかり穴が空いた感覚でいた。大切な存在を失った喪失感は何にも埋められないものだった。そう、思っていたのだ。


 でも、私は賢弍と出会った。


 彼を一目見た瞬間にピーンと私の中の何かが反応した。そしてわかった。彼は私の運命の相手なんだ、と。


 私はすぐさま彼にアタックした。どうしても、彼を他の人には渡したくなかったのだ。私だけのものにしたいと、心から思った。


 彼はそのアタックを快く受け入れてくれた。つまり、私たちはその日の内に恋人同士になったのだ。


 私は嬉しくて堪らなかった。あの時行動を起こしていて本当に良かったと思う。とても彼は格好いいから、私以外の誰かにもう取られていても不思議ではなかったのだ。


 勿論、私は彼の格好だけが好きな訳ではない。一目惚れ的な要素がなかったとは言えないが、今では内面も全部好きだ。


 彼は賢弐という名前に違わない賢明で利発的な人だった。事の折々で私の知らなかったような事を教えてくれて、そんな面にも惹かれていた。


 そうそう、私が見知らぬ場所へ迷子になってしまって途方に暮れてしまった時、彼はそんな私を見かねて君の行きたい所はあっちだよって導いてくれたりもした。


 あの時は彼がいてくれて本当に良かったって泣きそうになっていた。彼がいるだけでこんなに頼もしいんだってしみじみ思ったりもした。


 最初からそういうことにならない内に彼に頼れば良かったのに、私一人で行けるんだから!と変な見栄を張ってしまっていた私。今では学んだ教訓から、地理に強い彼に力を借りている。


 目標としては、いつか彼の助けなしで迷わずに町を歩くことだ。やはり頼ってばかりだとみっともないし、見返してやりたいのだ。


 そういえば言ってなかったが、私と彼は二人で同棲している。最初の頃は戸惑っていたが、今では慣れたものだ。生活の食い違いもないし、順調な二人暮らしを送っていると思う。


 不満は特にないが、一つだけ挙げるとしたら家デートが大半になってしまっているという事か。…まぁ、今それは置いておくとしよう。明日はその念願の外デートなのだから!


 外デートという言葉を頭で反芻する度、脳内にお花畑が咲き乱れる。


 あそこのカフェでまったりして、…いや、あの本屋で本を選んで行くのもいいかもしれない。そんな思考がぽんぽんと浮かんでくるが、ハッと思って頭を振った。


 今はその事を考える時ではないのだ。とりあえず明日の準備しなくては。


 私は意気込んで、鼻歌を歌いながら軽い足取りで準備にとりかかった。





 よし、これでいいか。


 そう思い、先程まで力を入れていた身体から力を抜いた。

ふと思いついて、明日のために用意したものを頭の中で巡らせてみた。


 雨が降った時用に傘と、お出かけに必須なお財布、店頭でもらったクーポン券と…


 一つひとつ指折り数える。それを二度三度繰り返し、忘れ物がないか最終確認をした。


 私は恥ずかしながらどこか抜けていて、忘れ物をする事がしばしばなのだ。いつも注意を払っているつもりなのだが、どうにもこうにも上手くいかない。


 この前は外食をしようと外に出たのだが、肝心な財布を家に置いてきてしまい、会計の際にあたあたと慌ててしまったことがあった。


 外出する前に財布の中のレシート類を整理してしまったことが悪かったらしい。


 何故あのタイミングで整理をしてしまったんだ…………!と強く悔やんだが、後悔は先に立たず。

私のところに財布が突然ぽんっと出る訳はない。

私はすっかり参ってしまった。


 でも、そんな時も彼が助けてくれた。俺が払うよと会計をさっと済ませる彼。私はそれを見て彼の優しい気遣いを感じて、もっと彼が好きになった。


 …あ、いけない。過去の想い出に浸っていたらもう寝る時間になってしまったようだ。


 私は急いで寝る支度を整えると、ベットに潜り込んだ。隣には彼のぬくもりを感じる。なんだか幸せで、顔が自然とほころんだ。


 明日は思いっきり楽しもう。


 おやすみ、私はそう呟いて眠りに落ちていった。






 何かが、私の心地良い眠りを妨げようとしていた。一体誰だそんな事をする輩は、と眠いながらも眉根を寄せる。私の安眠を邪魔しないでもらいたいと切に思い、手元にある布団を頭の上から目深に被った。


 しかし、その邪魔者は諦めない。私は痺れを切らして、布団をばさっと取り払ってその邪魔者に向き合った。寝ぼけた半目で正体をみつめる。



 彼だった。



 ……どうやら、かなり深い眠りに落ちていたらしく、起きる予定の時刻より30分も遅かった。


 彼はずっと起こしたのに起きなかったんだよと言っていた。せっかく起こしてくれていたのに、寝ぼけていたとはいえ邪魔者呼ばわりして申し訳ない…。そんな後悔に浸りながら、せめて準備をしようとベッドから起き上がった。


 まずは朝食だ。彼は私が寝ている間にもう食べ終えているようだった。彼はどうやら私が食べるのを見守るのが好きみたいで、いつも別々に食べている。


 私は出来る事なら彼と一緒に食べたいが、彼が別に気にしていないので私も気にしないことにしている。


 私自身「絶対一緒に食べてくれなきゃ嫌!」というタイプではないので、慣れた今では日常の一部になっていた。


 トントン、と軽やかに音を立てながら野菜を切っていく。そうしてトマトを切り終えると、食パンを手元に寄せた。食パンの上にキャベツを置き、さっき切ったトマト、ハム、スライスチーズを乗せ、その上からまたキャベツを乗せてもうひとつの食パンで蓋をする。そして包丁で食パンを斜めに切る。


 これでサンドイッチの完成っと。


 手際良く出来たことの満足感で顔がにやけてしまった。


 このサンドイッチは、実を言うと彼が教えてくれた料理だったりする。彼が料理が出来無い私のために懇切丁寧に教えてくれたのだ。生活能力ゼロの私に色んな事を教えてくれた彼にはお礼を言っても言い切れない。


 他にも色んな事を教えてもらった。お洗濯、洗い物、効率のいい買い物の仕方等など。こう書くとお母さんみたいだが、私の大好きな彼氏なのだ。


 お母さんは料理などを教えてくれなかった訳ではないのだが、随分と感覚的な料理法をしていた。感覚的な料理法というのは「ザーッと入れてジュー!!って焼いて出来上がり!」…と言った感じだ。その説明を聞いた時には頭の中でクエスチョンマークが跳ねまわっているようだった。私にはそういう擬音を用いた説明は難しく、母の言うとおりにしてもしょっぱすぎるとか味が薄すぎて素材の味しかしかないという結果になってしまったことを覚えている。


 母には悪気がないのだが、やっぱり料理のタイプの差なんだろうなぁと思っていた。あるいは、私は一人暮らししたらレトルト生活になるんだろうか、とも。


 でも、それは違った。彼のおかげで私はレトルト漬けにはならずにちゃんと自炊していけている。


 後ろから彼がもうすぐ出る時間だぞ、と急かした。


 大変だ、早く食べて着替えないと!とテーブルの方にさっき作ったサンドイッチと野菜の余りで作った簡易サラダを持っていった。


 そしてさっき作り上げたサンドイッチやサラダをいつもより早めに平らげていき、ご馳走様と言って片付ける。


 ここからは流れ作業だ。洗面所に言って顔を洗い、昨日準備した服に身を包んだ。鏡の前で自分とにらめっこをして、…準備完了!


 まだテーブルの近くにいた彼にお待たせ!と声をかけて手を取った。彼の手は昨日と同じく、安心させてくれるような暖かさだった。





 私は、彼と手を繋ぎながら町中を歩いていた。何処かに行く予定があるのではなく、ただただ、散歩していたのだった。


 何か気になる本屋があったら入り、中で本を眺めて自分の気に入った物があったら買う。隣に雑貨屋もあると、ついでに中に入って商品を見る。そんな風にデートをしていた。


 元々、私は行き当たりばったりのデートが好きで、外デートと言ってもそんなに趣向を凝らしたものをしたい訳ではなかった。


 賢弍と普段通りに街を歩くだけで、私は満足なのだ。わざわざレストランを予約したりするのも嫌いではないのだが、自然体ではない気がして、そのようなデートはしていない。気楽に練り歩くようなデートが私には合っているのだ。


 …でも、付き合ってくれている彼はそんな気持ちかはわからない。

 彼は必要以上の事を言ったり、表現しない人なのだ。

 愛情表現も、私の方からの方がずっと多い。


 しかし、それでいいのだ。今は彼が隣にいて、ぬくもりを感じていられるだけでいい。

 それにもし彼が嫌なら、今も私に付き合ってくれていないだろう。


 私は彼の手を取って、街のまた奥へと進んでいった。




 しばらく歩いて、どちらとも程よく疲れた頃合いになった頃、私達はカフェに入ることにした。


 カウンターで注文して、品物を待つとすぐに出てくる。その品物を落とさないように、そっと受け取った。私はココアを頼んだのだが、彼はあまり喉が乾いていないらしく注文しなかったようだった。

彼は私よりしっかりしていて、その上更に燃費もいいらしい。


 神様は不平等に作り過ぎなんじゃないだろうかと内心思っていた。


 私はココアを飲みつつ、彼とこの先に何処に行くか話し合った。私が落ち着ける場所がいいと主張したところ、ここからだと図書館とか、ネットカフェかなと彼が答えた。


 ネットカフェか……


 そう思いつつココアを啜る。


 今まで行った事はなく、しかも落ち着ける場所というし、いいかもしれない。


 ということで、彼とのデートの次の行き先は初ネットカフェとなった。




 ココアを飲み干してカフェを出てから、私達はネットカフェに向かった。カフェから数分歩いたところにそれはあった。


 ちょっと、怖いな…と思って彼を見ると、怪しい店じゃないから大丈夫だよと言ってくれた。


 恐るおそる階段を上り、扉を押した。カランカラーン、と鈴が鳴る音が聞こえる。店内に足を踏み入れると、薄暗く、周りは漫画に取り囲まれており、奥には個室が連なっているようだった。辺りには煩すぎない程度に当たり障りのないしっとりとしたメロディが流れている。


 …なんだか、静かで不思議な空間だった。


「いらっしゃいませ」


 私達に店員さんが声をかけてくれた。


 部屋は開いているだろうかと聞くと、今は18番の部屋しか空いてないんですけど…、と申し訳なさそう答える。私も彼も何処でも構わなかったので、じゃあそこでお願いしますと店員さんに後は任せた。


 少しすると18番とプリントされたレシートのようなものを渡された。そこからはもう自由だった。


 18番、18番……あ、ここだ。


 18、とあるステッカーが貼られている部屋の前についた。


 店内の雰囲気には、部屋に来るまでの道のりである程度慣れていた。


 入ってみると、…やはり狭い。それに、部屋というよりかは上が抜けている箱のような印象を受けた。その中に黒い合成皮であろうソファがひとつ置いてあり、その前にはパソコンやテレビ、ヘッドフォンが置かれていた。


 そろそろと音を立てないようにドアのようなものを閉める。そしてその奥のソファーに、彼と腰掛けた。


 …距離が、近い。


 やはり、一人用のところに彼と座るのは無理があったようだ。座れなくはないが、とても平常心でいられる距離ではなかった。


 寝るときは一緒に寝ているが、いつもとは状況が違う。外で、こんなに密着しているのだ。


 どきどきと、胸がいつもより激しく鼓動を打つ。


 彼に、聞こえてしまっているだろうか。そしたら何て恥ずかしいんだろう…と思うと、顔がどんどん熱くなった。


 そんな自分の顔を見られる訳にはいかず、彼の顔も見れないままでいた。


 しかし、彼の体温は確かに伝わってくる。


 …彼も…、いつもより熱い気がする。


 そんな風に思ったが、自分の勘違いかもしれなかった。それか、そうであって欲しいという希望か。


 私は、彼の表情を伺いたくて、自分の顔を見られてもいいという思いで彼の方を振り向いた。そして、彼の顔をこちらに手で向ける。


 やっぱり、アツい。


 手で無理やりこっちに向かせて引き寄せたせいで、彼がバランスを崩して私の上に位置する形になってしまった。


 こ、の体勢は………


 …私は、さっきよりずっと真っ赤になっていたことだろう。


 私も、アツい。彼もアツく、熱さが混ざり合って、なんだか心地良い気持ちになった。


 彼の身体に、私の顔を擦り寄せる。暖かさを奪い奪われ、丁度いい温度になる。


「けん、じ………私は………」


 ぼうっとした頭で、そう呟いた。何を言いたかったのかはわからなかったが、勝手に口が動いていた。


 ふっ、と彼の顔を改めて見る。


 彼は……………寝てしまっていた…………。


 私は、周りにいる人の迷惑にならない程度にひとしきり笑って、彼が起きるのを待った。


 今日は動きっぱなしだったし、疲れが出たのだろう。私は愛しい彼の顔をするすると撫でた。


 こうして、彼と私のデートは幕を閉じた。






 最後に、私は皆様に言わなければならないことがある。皆様は読んでいて何か違和感を感じなかっただろうか。


 実は…私は男で、描写が極力少ないのはそれを隠す為なのだ。


 ………というのは大嘘で。


 いや、しかしあり得なくはない。ここまで私が男だと想像して読んだ方もいらっしゃるかもしれない。


 だが、申し訳ないが私は男ではなく女だ。何よ!BLとして読んでたのに!と思う方がいたら申し訳ない。ここで謝罪させて頂こう。


 では、私が話そうとしていることは何なのか?と考えている人もいるだろう。


 そう、私は本当の事を言わなければならない。


 実は…私の彼は携帯なのだ。


 勘付いていた方もいるだろうか?いるならば、私はその方を褒め称えよう。そして同時に自分の力量の無さを悔しさと共に噛みしめよう。


 一応、解説をしておくと、私の恋人賢弍は携帯でありスマホだ。ついでにいえば前の恋人と言っていた人もスマホのことだ。本編では出ないが一郎という名前にしていた。


 私に道案内やら料理やらしてくれたというのもマップ検索やレシピを検索して出してくれていただけだし、ネットカフェでの件も私がただ単に携帯相手に戯れていただけだ。


 これ以上のことは自分で相手が携帯なんだと当てはめるだけでわかるので控えておこうと思う。


 それでは皆様、また機会がありましたらお会いしましょう。


 お付き合い頂き有難うございました。

 ここまで読んで下さって有難うございます。駄文ですが、読んでくれて嬉しいです。


 またこの子を主体にして書くかどうかはわかりませんが、気が向いたら書こうと思います。


 では、ここ辺りで失礼させて頂きます。本当に読んでくれて有難うございました。ご縁があれば、またお付き合いください。


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