箒の魔女迎撃戦② -vs魔術師の軍勢-
――口論は敵地のど真ん中で。
あまねく銃口に狙われていることを知ってか知らずか、魔女もどきの少女は仲間を引き止めるため、説得を続けていた。
「……で、ですから、トロイメライ様を煩わせたくないって気持ちは同じですけど! だからって生身でのこのこ出ていかなくても! まずはわたしが、この“ジムノペディ”がゴウレムを呼びますから! 皆さんは一度退がってください」
「……ペディ様。魔術師の先行突入はすでに決定事項なのです、お心遣いは有難く。されど我らもこの役目には誇りを持っておりますゆえ」
そう言って背を向けようとした魔術師のローブを掴み、尚もジムノペディは引き下がらない。
「ず、ずるいですよそんな言い方! そもそもこの部隊の魔女はアタシなのに……ま、魔術師のくせに! 魔女のいうことが聞けないって言うんですか?」
「……ペディ様。貴方は魔女“見習い”でしょう、未だ心もとない貴方の魔力を浪費せぬよう、我々が露払いをしようというのです」
そう言ってジムノペディを振りほどくと、彼女を遠ざけるように、魔術師の周囲に灼熱の炎が幕をなす。
「ま、待ってください! それならわたしも……!」
「御心配なさらず、我らには炎の加護があるのですから。この場が危険だと思うなら、ペディ様こそお戻りください。我らはこの身をもって、蛮族どもをおびき出して見せましょう」
――立ち昇るゆらめき、魔術師たちは5人一組で炎幕を纏い、市街地を分かれて進み始める。と、その矢先、まるで示し合わせたかのように、光々と灯っていた市街地のすべての明かりが消失した。
――突然の全暗黒。家々街灯すべての明かりが落とされて、旧市街は一瞬にして無光の闇に包まれた。
「ど、どうしたんですか!」
「……奴らの仕掛けでしょう、これはまた陳腐な手を……この程度で我らの視界を奪ったつもりか。全隊、慌てず目を凝らせ! どこに奴らが潜んでいるやも知れんぞ!」
それでも、魔術師の軍勢がさほど取り乱さなかったのは、彼らを護る炎幕の明かりが、目先の距離までをゆるく照らしていたから。
――そう。全暗黒の市街地で、彼らの炎幕だけが闇夜に浮かび上がっていたのだ。
――続いて響いた、身も竦むような轟砲。
まるで黒雷が落ちたかのような無光の轟音は、肉が飛び散るような鈍い音を残し、闇の中に何かが倒れる。
「ど、どうした、何処からだ、何が起こった!」
――距離感の掴めない四方暗黒のいずこから、再び放たれる轟砲。
今度は呻きと骨が飛び散り、闇の中、次々と人が撃ち抜かれていく。
「ね、狙われています! 何処かから、闇の中から敵の銃撃が……!」
「……馬鹿な、我らの炎幕が撃ち抜かれているのか……? 魔術師5人分だぞ! ……な、ならばダミーだ! ダミーの使い魔を放て!」
合図と同時に、闇夜に浮かぶ魔術師たちの炎幕が、それぞれ無数に分裂する。
――散り散りに分かれた火の玉の正体、それは闇夜に羽ばたく、火の玉を纏った黒鳥カラスの使い魔の群れ。
「炎幕の明かりを頼りに狙っているなら、これで見分けはつくまい。……今の内だ、一度合流するぞ! 炎幕を解き、闇に紛れるのだ!」
命綱でありながら、全暗黒では目印にもなる炎幕を解き、体勢を立て直そうとした魔術師の軍勢。
――その瞬間、闇に乗じたはずの彼らに、市街地方々から一斉に砲火が上がった。
途切れることのない連続砲火、そこから放たれる銃弾はまるで無慈悲に、正確に、魔術師だけを撃ち抜いていくのだ。
「……ば、馬鹿な! 夜目も効かぬこの闇夜でこれほど正確に……何故だ! やつらには何が見えている!?」