表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

魔術師との遭遇戦

――ビルへと磔にした三頭のケルベロス。

その巨大な召喚獣から朱い光が漏れだすと、ナナト機がその場を飛びのくよりも早く、周囲を巻き込む大火を巻き上げ、ケルベロスの骸が炸裂した。


――吹き飛ばされた衝撃に、つんのめって肺が詰まる。

突然の爆風に、廃ビルもろとも突き飛ばされた“機体”。

ナナト機はつんのめってたたらを踏んで、道路を根こそぎめくり上げて、どうにか踏み止まった。


「痛ったぁー......くっそ、近江! 本部の近江! ちょっとコレ通じてんの!?」

『......ガガ、落ち着...け...ガ、通じ...ガガガ...いる』

「通じてないじゃん! もろすぎるんだよ無線機のくせに! くっそスペア! どこかにスペアがあぁぁぁ!」

『......落ち...ガガ...け、ナナト』


――各所で爆音が上がり、まるで鳴り止まない銃撃の渦中。

中破した機体を乗り捨てたナナトは携帯無線を耳に、廃ビルの影へと潜りこむ。


「これでどうよ近江! 近江ディンク! さっさと出ろ!」

『……聞こえているし通じている。どうしたナナト、大型(幻獣級)は仕留めたのか? 仲間とは合流出来たか』

「どーしたもこうしたもない、とっくのとんまだ! こちとら非番で、制服でスカートだってのにぃぃぃ!」

『落ち着けナナト、……その音、まだ交戦中なのか? 敵はどっちだ“術師”か“魔女”か』「わっかんないよ! 分かんないからこうやって連絡して…………いっ!?」


――突如、ナナトの視線の先に投げ込まれたのは、荒削りな“朱い宝石”。


カラコロ転がる赤透明の玉石は、やがて“朱色の光”をあわく漏れ出すと、散らつき走る鋭い火花に、ナナトは声を張り上げた。


「ふざっ……けんなよ“爆縮魔石ボムジェム”だ! 全員離れろ!!」

――叫びあげ、飛びのくと同時。

空気を押しつぶすような衝撃波が音を吹き飛ばし、爆炎を上げ、コンクリートの路面に大穴を穿った。



「……くっそがぁぁぁ! 全員、無事だろうな!」

「ナ、ナナト准尉! 二名負傷、ですがそれより……機体が大破! 右腕部脱落!」

――地盤すら突き破る爆発に、命だけでも助かったのは“朱い魔石”が乗り捨てた機体目掛けて投げ込まれたから。それでも土煙と炎熱が立ちこめ、ナナト達は廃ビルの陰から燻りだされた。


「クソッたれエネミーどもがぁぁぁ……! 常識がおかしいんだよ! 市街戦に爆装ばっかりとかぁぁぁあぁームカつく!」

『……だから敵なんだナナト、奴らの編成は分かるか? 大型の数と“装備”は』

「あいつらまるで偵察ついでの格好じゃないんだ! “不壊のローブ”に“鋼の大杖”だぞ!? こっちはお情け程度の携行武装だってのにぃぃぃ!」

『鋼……? つまり“魔女”はいないのかナナト、敵の数は』

「大型は潰した! 他は目視だけでも4! こんなの相手してらんないから、退がるよ近江! いいよね!」

『……ああ、偵察任務は中止だ、部隊と共に撤退しろ。迎えを出す、俺も行く』


通信機を肩ではさみ、マガジンベルトから新たな弾倉を装填したナナトは、周囲の仲間にがなり上げる。

「全員聞こえたな! 撤退だ! 殿しんがりは私がやってやるから、負傷したやつ! ECM撒いたらさっさと退がれよ!」

「し、しかし准尉! さすがにお一人では」

――その身を案じる仲間の声は、地響きのような崩落音に呑みこまれた。


土煙を上げ、崩壊を始めた廃ビル。

ナナトが背にするその土煙から、敵影が飛び出したのだ。


――あまりに突然の奇襲、敵は“鋼の大杖”を槍のように突き出し、まるで放たれた弓矢のようにデタラメな速さで、ナナトへ突貫する。

「ナ、ナナト准尉!」


振り返り、飛びのく間もない“チャージランス”

しかしナナトは、突き出された穂先をわずかにかすらせて回転、刀身を滑るように致命傷を避けると、そのまま敵の臓腑を蹴り込んだ。


――呼吸を枯らし、膝から崩れ落ちる敵。

うめき、立ち上がるよりも早く、背中を踏みつけたナナトが銃口をむける。

「……調子に乗りすぎなんだよ魔術師ごときが。“魔女”さえいなけりゃお前らなんかなぁ……また制服をボロボロにしやがってぇぇぇ!」

制服の布地を抉られ、素肌が晒け出されたわき腹を押さえながら、ナナトは対人スタン弾をマガジン二本分撃ちこむと、敵はピクリともせず沈黙した。


「……で、一人が何だって?」

「い、いえ! ナナト准尉、総員撤退開始します」

「さっさとそうしろ! 忘れるなよECM散布! これでウザったい“魔法”も、霞みがかるな魔術師ども!」

腰のマガジンベルトから取り出した“ECMスモーク”のピンを抜き、煌めく金属片混じりのスモークがあたりに立ちこめ始めたころ。

――後退していく仲間を背に、その両脚で廃屋を蹴り登ったナナトが高みに姿をさらした。


「近江、近江! 一人捕えた、これから敵の目を引く。やつらの姿もよーく見える」

『……待て待てナナト! 調子にのるな、機体もないのに! 制服ぐらいまた買ってやる』

「そ、そんなんじゃないよ! ……け、けどまぁ。今日の穴埋めくらいはしてもらうからな、覚悟しておけよ近江!」


――やがて市街を見下ろす高さから、ナナトの目に見えてきたもの。

それは荒れ果てた旧市街地のさらに先、郊外の“主戦場”付近に降り注ぐ、まるで信じられない光景だった。


「……な、なんだアレ? ……近江、近江!」

『どうしたナナト、いいから早く戻ってこい』

「……だ、だってアレ、ほしが……空から“星”が! 落ちてきてるんじゃあないのか? 近江!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ