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のうぜんかつらの咲く頃に。

作者: 柳田陽

かつて祖父には祖母がいた。

父には母がいる。

小栗旬には山田優がいるし、林家ペーにはパー子がいるのだ。

同じように僕には彼女がいる。


 運命の赤い糸などという世迷いごとを言うつもりはさらさらないのだが、この組み合わせが全くの偶然とは思わない。

しかし解明に乗り出す程の知恵も探究心も持ち合わせていない僕は、やはり今回も途中で放り投げてしまうのだ。

「まあ多分なんかあるんだろう」と。


 会社から帰路につく夕方過ぎ、見慣れた駅で彼女を見かけた。

彼女はすぐさま僕を見つけ駆け寄ると「ご苦労様」と僕の一日の仕事の疲れを労う言葉を発し、それと同時に二つの買い物袋を僕に持たせた。

買いすぎた食料品の重さを嫌がり僕の帰りを待っていた・・・多分そんなとこだろう。


 やたらと坂の多い家までの帰り道、ヨタヨタと歩く僕の横を彼女は両の手を大げさに振って歩く。

「なんだね君!元気がないぞ!!」そう言いた気にわざとジグザグ歩行を繰り返す彼女に、僕は「車に気を付けなさいよ」と声をかけ、置いていかれないように最後の力を振り絞る。

今日はビールが旨そうだ。


 汗をかきながら坂を上りきると彼女はジっと立っていた。

彼女の視線を追うと大きな家の垣根から垂れる花にぶつかった。

夕焼け色に溶け出しそうな鮮やかなオレンジの花。

「もうそんな季節か・・・暑いわけだ・・・」

額の汗をぬぐいながらそう言った僕の方を振り返り、彼女は目を輝かせながら言う。

「いつかこんな家を建てて同じ花を植えましょうね」

指差された家の立派さに僕は苦笑いを浮かべながら、ここからは買い物袋を一つづつ持ってあまった手をつなぎ我が家へ向かうのだった。


 あれから長い年月が経ち、遠ざかっていく豆腐屋のラッパの音をBGMに、彼女と並んで我が家の垣根から垂れ下がる夕焼け色の花を見ている。

残された2人の時間をかみ締めるでもなく、味わうのでもなく、ただ淡々と過ごす。

幸せとは傍目には得てして地味なものだろう。


 だが遠い昔にみんなの前で自信満々に誓った約束は、いつか破られるに違いない。

僕が君を思い出すのか、君が僕を思い出すのか、

出来れば後者でお願いしたい。

のうぜんかつらの咲く頃に・・・


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