猫の売春 ~床夜の随に~
夜の帳に響く甘い嘆きは、発情期のそれではなくこの界隈を統べる彼女の使役によるものだ。彼女は一夜の献身を代償に、雄達の縄張りを手に入れる。彼女は今や殆どの雄を掌握していたがしかし、雄達が命懸けで獲った陣地など露程の役にも立たなかった。
なんという空しさだろう、手に届くもの、目に見える場所は須く我がものだというのに。この身を埋めるのは一時の交接と刹那の快楽だけなのだ。雄のそれが弾ける瞬間、より一層膨張する。同調した彼女はただ、受容する。意識が、爆ぜる。
数多の個に愛されるということは、同時に孤高でなくてはならない。目的が手段に取って変わった遣る瀬なさをひっそり胸に沈め、彼女は今宵も床夜を彷徨う。
<了>