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9センチ バタークッキー

蓮と結安。

何を話していたんだろう。

委員会が終わって通学路を一人で歩いてると二人のことばかり考えてしまう。胸が苦しくて辛い。優しく笑い合う二人の表情を思い出すとわたしの心に黒い曇りが作られる。わたしはわたしの感情を覆うような曇り空に隠してる。考えるのをやめたくなるけどそんなのはダメだ。隠して、また中学の時みたいな、まるでどしゃぶりのような大失敗はしたくない。

今日の夜にでもLIMEを入れよう。明日、話したいことがあると。だけど学校だと話しづらい。


翌日の土曜日、今日も結安に遅れるとLIMEを送信した。一人で電車に乗って登校した。土曜だけど混んでいる電車で小さい結安が困ってないかと心配してしまう。

ホームルームが始まる前、廊下でクラスの女子から噂話を聞いた。昨日の放課後。蓮と結安の二人だけでショッピングモールで買い物をしていたと。まるでデートみたいに楽しそうだったと。


もしかして二人はもう付き合ってるのかもしれない。そう思うと蓮と結安の顔を見れなかった。学校で話をするのが怖かった。二人から交際を始めたという言葉を聞きたくなかった。

逃げるように学校から飛び出した。だけどこれ以上逃げるわけには行かない。約束通りに結安と話さないと。


午後を利用して結安にわたしの家まできてもらった。二階にあるわたしの部屋に上がってもらってクッションをポンポンと叩いて「どうぞ」と座ってもらう。


「おじゃましまーす。おお。こまりちゃんの部屋かわいい」

「へへ。これでも乙女だからね」


わたしの部屋はかわいいうさぎのキャラグッズであふれてる。ベッドには大きなぬいぐるみがたくさんあって抱き枕がわりにするくらい。

学校ではかっこいい女子として認定されているわたしだけど、ほんとはかわいいと言われたいしかわいいのが好きだ。だから小さくてかわいい結安がかわいいしうらやましい。


「ごめんね。足が痛いのにきてもらっちゃって」


結安の膝には大きめの絆創膏が貼られてる。50m走で転んだ時の怪我。


「ううん。公園まで迎えにきてくれてありがとう」

「あの公園は蓮とよく遊んだところなんだ。結安の家とうちの真ん中くらいにあって待ち合わせにちょうど良かったよ」

「こまりちゃんの家がうちからこんなに近いとは思わなかったなあ。それにお隣の中村くんの家もね」


う。結安の口から蓮の話題が出るとやっぱり二人がいい感じになってるのかと思ってしまう。


「ほんとだね。距離的には結安が使ってる駅の方がうちも近いくらいだけど、歩くの好きだから学校に近い駅を最寄り駅にしたんだ」


今日はお互いの家の真ん中くらいにある公園で待ち合わせをした。それぞれが利用している駅もほんの数分という近さで降りる方角も一緒。スマホで確認したら家と家が歩いて行けるくらいに近かった。電車を使うよりも歩いたほうが早いし、結安に電車賃を使わせたくないから良かった。


「トロフィーがいっぱいですごいね。全部バレーボールだ」

「あ、これね。優勝するとお父さんが買ってくれるの。大会とかじゃ個人一人一人にはもらえないから」


本棚の目立つところにトロフィーをいくつか飾ってある。


「へー。お父さん優しいね。こっちは写真もある。こまりちゃん、かっこいい!」

「うわ! 片付けるの忘れてた!」


フォトフレームにわたしがスパイクをしている瞬間の写真も飾ったままだった。プロのカメラマンから好意でもらったもの。


「渡合くんと中村くんに聞いたけどこまりちゃんてすごい有名な選手だったんだね」

「へ? 渡合くん?」

「うん。渡合くんも中学の時にやってたんだって」


そうなんだ。結構がんばってたのかな? それならわたしのことを知ってるか。普通は興味なければ知らないよね。


「……わたしね。すごいがんばってたんだ。将来はプロの選手になりたいくらいに」

「おお。プロってすごい」

「うん。なれたらすごいと思う。けどやめた。肘と膝に大きな怪我をしたから。ほら。わたしの手、少し震えてるでしょ?」


結安の手に触れると、心配そうにわたしの手を両手で包んでくれる。わたしは結安の顔を見たくなくて避けていたのに、わたしなんかと違っていい子だなあ。やっぱりちゃんと話したい。話さなきゃ。


「うん……初めて握手した時にも震えてた」

「あ、気づいてたんだ。怪我のせいで神経を痛めてるとかで震えちゃうんだ。良かったら聞いてくれるかな?」

「うん。聞く」


真剣な顔で頷いてくれた。ありがとう、結安。


「……わたし、お医者さんの言うことも聞かずに怪我のことをチームのみんなにも監督にもずっと隠してたんだ。痛み止めを飲んで無理して、隠して隠して、隠し通して。最後の大事な試合でとうとうわたしの体が使い物にならなくなっちゃったんだ」


結安が静かに聞いていてくれるから話を続けよう。


「もちろん、わたし一人がいないからってダメになっちゃうようなことはないんだよ。チームのみんなもすごいからね。しっかり全国優勝した。だけどね。わたしの隠していた怪我がその試合でバレちゃったんだ。こんな怪我をしたらもう一緒にプレイできないじゃんって泣かせちゃったんだ。みんなに怒られた。隠していたことを。チームを信じなかったことを。わたしね……自分が無理をしてもがんばればいいと思ってたんだ。みんなの気持ちより自分の気持ちしか考えてなかったんだよ!」


涙がぼろぼろとこぼれて止まらない。手で拭うこともできないくらいに体が固まってる。膝にぼたぼたと流れ落ちる。


「わた、わたし。チームのみんなを裏切っちゃったんだ。大事な仲間だったのに。みんなで力を合わせてがんばろうって言ってたのに。ちゃんと隠さずに言わなきゃいけなかったの!」


震える肩が止まらない。嗚咽がひどい。こんなわたしの告白を聞かせてしまってごめんね。

わたしの肩と頬にぬくもりを感じた。結安が膝立ちになってわたしの肩と頭を抱えてる。


「こまりちゃん、がんばったんだね。こまりちゃんは明るくてかっこよくてすごいヒトだと勝手に思ってた。だけどほんとはわたしと何も変わらない女の子なんだね。わたしはスポーツとか必死に取り組んだことはないからよく分からない。けどね? 裏切ってなんかないよ。こまりちゃんはがんばってチームのみんなと一緒にいたかったんだよね。わたしはとっても偉いと思うよ?」


「うん……もうあんな大失敗はしたくない。大事な友達を失いたくない。わたし、結安に言わなきゃいけないことがあるの。聞いてくれる?」

「うん。ちゃんと聞くよ」


見上げるとわたしの瞳を結安が真っ直ぐに受け止めてくれている。同じ人を好きになったことで結局友達でいられなくなってしまうかもしれない。だけどわたしのやきもちで結安を避け続ける方が嫌だ。

はっきり伝えなきゃ。


「わたし、蓮のことが好きなの。小学生の時からずっと好きで好きでしょうがないの」


「中村くんのこと? こまりちゃんが中村くんのことを好きなのはもちろん知ってるよ?」

「え? 結安は蓮のことが好きなんだよね?」

「え? 中村くんは友達だよ?」


拍子抜けするくらいにきょとんとした結安の顔。


「だって。蓮と見つめ合ってたり、買い物デートしてたって」

「ええ!? してないよ! あ、買い物は確かにしたけど帰り道がてら一緒に行っただけだし」

「そうなの? じゃあ蓮のことは……」

「うん。わたしは中村くんのことは友達として好きかもしれないけどそれだけだよ」


わたしの勝手な思い込みと噂を間に受けただけ……ってこと。


「わたし、結安と蓮が仲良くしてるのをみるのが辛くて二人から逃げてたの。ほんとダメだよね。わたし自分のことばっかり考えて」

「そんなことないよ。だって、隠さないで話してくれたんでしょ? こまりちゃん、わたしのことを大事に思ってくれてありがとう」


結安のことを? わたし、自分のことだけじゃなくて結安のことを大事に思えてたのかな。だとしたらうれしい。


「結安。ずっと避けててごめんね」

「うん。寂しかった。だけど仲直りだね」


結安が微笑んで涙を流してくれている。ほんとにごめんなさい。


「わたしたちずっと友達だよね?」

「不束者ですがよろしくお願いします」

「あはは。それなに? わたしも不束者ですがお願いします」


二人してギュギュッと抱き合う。あったかくて気持ちいい。純粋な結安といるとほんとに癒される。わたしの大失敗を受け止めてくれてありがとう。


「バタークッキー作ったの。仲直りのお祝いに食べよう」

「結安の手作りお菓子!」


さっくりしてるのに口の中でほどける食感とバターの香りと甘味がわたしの心をまろやかに溶かしてくれるみたいだった。ほっと一息つける結安のお菓子が魔法みたいだった。わたしのために作ってくれたのかな? お嫁さんになってほしい。

や。わたしは蓮のお嫁さんになりたいわけだけど。

この日は学校や勉強のこととか、好きな歌とかマンガとか他愛もない話をして終わった。夕日が沈む頃、待ち合わせをした公園まで見送って家に帰る。最後の曲がり角で手を振ってくる結安がかわいかった。


「今日はちゃんと話せて良かった」


なんとなく夜空が見たくなってベランダに出た。


「仲直りできて良かったな」


わたしの大好きな声に心臓が跳ねる。

ベランダの向こうから声がした。

蓮の笑顔がまだ低い月明かりに照らされていた。












※代表選手とスポーツ障害について

インターネットで調べた範囲でとどまっております。間違いなどありましたら申し訳ございません。

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