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どんぐりが知る平和の意味            (最後は人の心が決める)

作者: 沢 一人

これは、世界の運命が、たった二粒の小さな種に委ねられた夜の物語である。

私たちの生きる世界は、常に危うい均衡の上で成り立っている。人々は、ミサイルの数や経済力といった、目に見える「力の論理」こそが平和の唯一の防壁だと信じて疑わない。そして、その冷徹な論理に従う指導者こそが、賢明なリアリストとして称賛される。

物語の舞台は、まさにその均衡が崩れ落ちようとしていた、ある年のクリスマスの朝。

大国の指導者である宰相は、自国の利益のため、国際的な秩序を覆す「冷たい決断」を目前に控えていた。

彼の前にあるのは、確実な勝利と、その後の血塗られた混乱。彼は、感情や理想を排し、冷徹な計算のみを信じる人物だった。

しかし、その硬い机の片隅に、世界平和を願う芸術家夫妻から贈られた、二粒のオークの種が置かれていた。

この小さな種は、決して指導者に向かって「戦争をやめろ」と叫びはしない。

彼らはただ、静かに、「未来」という時間の重みと、「人の心に宿る優しさ」の存在を、その沈黙で訴えかける。

力とは、破壊のためのものか。それとも、この小さな種が大木となるまでの「時間」を守るためのものか。

強大な力を持つ指導者が、世界中の誰もが知る「力の均衡」という現実を前提とした上で、それでもなお、自分の心の中の良心に耳を傾けるという、最も非合理で、最も尊い決断を下すまでの、一夜の物語である。

この物語は、あなたの心に問いかける。

——平和は、最新鋭のミサイルによって保たれるのか。それとも、未来を信じるたった一人の指導者の決断によって守られるのか。そして、その最終的な選択は、誰に委ねられているのだろうか。


第一章:選ばれた夜の旅


クリスマスの前夜。窓の外では雪が降り、世界は重い沈黙に包まれていました。


芸術家夫妻の、あたたかい部屋のテーブルの上。二粒のどんぐりが、やさしいリボンに包まれていました。彼らは、「平和のねがい」を運ぶ、ちいさな使者です。


一粒目のどんぐりが、ささやきました。「ねえ、相棒。僕たち、これから誰のところに届くんだろう?」


二粒目のどんぐりが、静かに答えました。「世界じゅうで、一番重い決断をしなければならない人のところだよ。僕たちのねがいが、その人の心を、少しでも軽くできるように」


二人の「やさしい芸術家」は、どんぐり達に願いを託しました。どんぐりの夢は、雪と星空の下を、遠く、遠く、旅を続けました。


第二章:あたたかい決断と、植えられた願い


どんぐりは、大国の指導者、宰相の執務室の机の隅に置かれました。彼は、未来を壊すかもしれない決断を迫られていましたが、クリスマスの朝、どんぐりから届けられた良心によって、平和な道を選びました。


宰相は、自らの冷たい鉄の壁のような心を打ち破り、「力の使い方」を変えるという、勇気ある決断をしたのです。


決断を終えた宰相は、すぐに庭師を呼びました。


「この種を、私の目の届く、最も陽当たりの良い、豊かな土に植えてくれ。この木は、私の心の新しい約束だ」


そして、クリスマスの午後。雪が溶け始めた土の上に、二粒のどんぐりは、丁寧に、優しく植えられました。


宰相は、世界中の指導者たちにも、メッセージを送りました。それは、「力は、壊すために使うのではなく、平和な時間を守るために使いましょう」という、あたたかいメッセージでした。


第三章:平和の成長


その日から、平和な日々が続きました。


世界中の国々が、宰相のメッセージに応え、対話のテーブルに着きました。人々は、もう誰も、いつ世界が壊れるかという恐怖に怯えることはなくなりました。


春が来て、夏が過ぎ、秋が深まる頃、宰相の庭のどんぐりは、芽を出しました。


それは、まるで宰相の「良心」が、ゆっくりと、確実に、大地に根を張ったかのようでした。


宰相は、毎朝、その若木を見つめることを日課としました。そして、木が少しずつ背を伸ばすたびに、彼は、「力とは、未来を守り育てるためのものだ」という、新たな哲学を深く心に刻みました。


最終章:世界を覆うオークの影


何十年もの歳月が流れました。


宰相はすでに引退していましたが、彼の平和を重んじる決断によって築かれた世界は、安定し、豊かになっていました。


そして、あの二粒のどんぐりは、今や、宰相官邸の庭にそびえ立つ、巨大なオークの木となっていました。その力強い枝は、争いのない平和な空を抱きしめていました。


宰相の庭の木だけではありません。世界中、あの芸術家夫妻からどんぐりが贈られたすべての国々で、同じ願いを託されたオークの木が、立派に育っていました。


対立していた国の官邸の庭にも、紛争が絶えなかった地域の広場にも、人々の優しさという名の土壌を得て、平和の木がそびえ立っていたのです。


どの国の木も、同じように力強く、どの国の木も、争いから人々を守る静かなシンボルとなっていました。


人々は、クリスマスの時期になると、このオークの木の下に集まり、語り合います。彼らは知っています。


強大な力(均衡)が世界を守るとしても、最後は、たった一人の指導者の、あたたかい「良心」が下す決断が、この平和な未来を、この大きな木々を、つくりだしたのだ、ということを。


そして、オークの葉が風に揺れるたび、それは、「いつまでも、心を大切に」という、芸術家夫妻からの、永遠のクリスマスの願いをささやいているようでした。


この物語を書き終えるにあたり、私たちの胸に残るのは、宰相が下したあのクリスマスの朝の「決断」の重さでしょう。

私たちは日々のニュースの中で、「力の均衡」や「戦略的抑止力」といった言葉を耳にします。それは、世界を混沌から守るために必要な、冷徹な現実です。

しかし、この物語が問いたかったのは、その現実の防壁の内側、すなわち、人間の心の領域です。

指導者がどれほど強大な力を手にしようとも、核のボタンを押すのも、平和的な対話を始めるのも、最終的には一人の人間の意志に委ねられています。

私たちを救うのは、最新鋭の兵器ではなく、あのオークの木が象徴する「未来への責任感」と、「他者の苦しみを想像する良心」です。

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが贈ったどんぐりは、決して世界を変える魔法の種ではありませんでした。

彼らが本当に贈ったのは、「立ち止まり、考え直す時間」そのものだったのです。

この物語のハッピーエンドは、戦争が永遠に消滅したことを意味しません。そうではなく、世界中の指導者の庭に根を張ったオークの木が、次の世代、さらに次の世代へと、「力の正しい使い方」と「良心の重要性」を語り継ぐ、生きた誓約となったことを意味します。

あなたがこの物語を閉じるとき、どうか、あなたの心の中にも、あの二粒のどんぐりがそっと置かれたと感じてください。

平和とは、どこか遠い国の指導者の手に委ねられたものではなく、私たち一人ひとりの心の中で、毎日、静かに育まれるべき「希望の種」なのですから。

願わくは、この小さな物語が、あなたの日常の小さな決断の積み重ねが、やがて世界を覆う大きな平和の木に繋がることを、そっと教えてくれますように。

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