第52話 誓い
ギルバートがエリシアの上着を引き裂く。
「きゃああ」
エリシアの肌着と白い腕が出てくる。
彼女はしゃがみ込み両腕で体を隠すようにする。
「あははは、たまらないなぁ。どうだいフクヤマイブキ。エリシアが一枚ずつ脱がされていく姿は」
「やめろ! ギルバート! 彼女に手を出すな!」
伊吹は、倒れたまま叫ぶが到底止まるわけがない。
ギルバートがエリシアを押し倒す。
「エリシア!」
押し倒されたエリシアと伊吹の視線が交差する。
エリシアは精一杯の優しい笑顔を作り言った。
「イブキさん、もうこうなった以上は、あなたが死ぬ必要はないわ。降参して。そうすれば、あなたは助かるから」
エリシアは伊吹を守るためにすでに覚悟を決めていた。
「エリシア! だめだ」
「あはははは、泣かせるじゃないか。エリシアはどうせ犯されるなら、君の命が助かる方がいいってさ。
まあ、当然ーー」
ギルバートが醜悪な笑顔になる。
「貴様が降参したら、エリシアをもっと惨めで悲惨な犯し方をするがな。
貴様はエリシアが犯されるのを最後まで見てから、俺に殺されるのが妥当なんだよぉ」
「ギルバートォォォォ」
「あはははは、凄んだからって、今の貴様に何ができるっていうんだい? そもそも貴様の攻撃は何も通っていないんだぞ。貴様はそこで惨めに殺されるのを待てばいいんだよ。でもいいだろ。死ぬ前にエリシアの犯される姿が見れるんだ。
俺に感謝しろよ。微能おじさん」
「ギルバート! 貴様!」
伊吹は、怒りのあまり立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
(どうする、このままじゃあエリシアが。俺はどうなってもいい。エリシアだけでも助けないと。
怒りに身を任せていたら、助けられるものも助けられない。冷静になれ。冷静になれ)
「お母さん!」
観客席ではティナが悲痛に叫ぶ。
そして、リリとルルを見て懇願する。
「リリさんルルさん、やめさせて! このままじゃあお母さんが」
「ああ、潮時だな」
「大丈夫よ。ティナちゃん。すぐにあいつを切り裂いてあげるから」
リリとルルが立ち上がる。
リリとルルといえども、神気契約書によって行われている決闘に水を刺すことはできない。
邪魔をしようものならリリとルルに神罰が降る。
それを覚悟の上でリリとルルは動き出そうとする。
「待ちなさい」
そこに鈴を鳴らしたような、穏やかな声が響き渡る。
リリとルルは顔を確認するまでもなく誰かに気がついた。
「美羽様。しかし、このままでは……」
美羽は宥めるように言ってきた、リリの反論にもあくまでも穏やかに答える。
「もう、リリとルルったら。神界でフィーナちゃんと見ていたのに、二人が神気契約に介入しようとするから、きちゃったじゃない」
「ミウお姉ちゃん! ママが」
「大丈夫だよ。ティナにそれからリリとルル。神気契約書が判断したのなら、問題ないから見てなよ」
リリとルルはその言葉に納得したが、ティナは不安そうな顔をする。
「お母さん、おじさん……」
エリシアはギルバートに乗り掛かられているが、全く抵抗する様子がない。
伊吹に声をかける。
「イブキさん。早く降参して。そして治療して。血が流れすぎちゃうわ」
慈愛のこもった声で息吹に語りかける。
まるで今まさにギルバートに犯されようとしていることなど、気にも止めていないように。
「エリシア! 俺はエリシアを今もこの先も守り抜く!」
エリシアのその優しい表情を見て伊吹の心が決まリ守り抜く誓いを宣言した。
たった今、伊吹はエリシアの守護騎士になったと言える。
「うふふ、ありがとう。嬉しいわ」
エリシアが花の咲いたようなふわりとした笑顔になった。
その笑顔と決まった覚悟で伊吹は今まで止まっていた思考が動き出す。
「気に入らねえぞ、エリシア! なんで泣き喚かねえんだ」
ギルバートはエリシアにのしかかりながら、エリシアの笑顔に見惚れていた。
だから、その笑顔を自分に向けさせたくて言った言動だった。
エリシアは伊吹に向けた温かい笑顔とは対照的な冷たい顔でギルバートを見る。
その表情にギルバートは怯む。
「ッ!?」
「あなたは可哀想な人。きっと、本当の愛情なんて知らないのでしょうね。
だって、本当の愛情は、あなたのやっていることからは一番遠いことなのだから。
それでも、あなたは愛を求めてたくさんの人を犯してきたのでしょうね」
「う、うるさい! 俺にそんなものは必要ない!」
「じゃあ、どうして、あなたは女性を手に入れるときは、最初はきちんと口説こうとするの?
自分を見てもらいたいからじゃないの?
でも、見てもらえないから、いつか自分に向いてくれることを期待して、暴力や権力を使って、女性を手に入れる。
それで、本当に愛してくれた女性はいた? いなかったのでしょ。
だから、今も私を無理やりに手に入れようとしている」
ギルバートは紅潮して、叫ぶ。
「うるさいぞ! お前は今から俺が犯してやるんだから、泣き喚いていればいいんだよ」
「どうぞ、お好きに。そうして、またあなたは愛から遠ざかるのよ」
「ッ!? うるさいって言ってるんだ!」
ギルバートが拳を振り上げる。
そこに、伊吹の声が聞こえてきた。
「ここは成層圏。清浄な魔力がある。200メートル四方の空間を切り取る。今から私にこの空間の魔力が全て入る。」
伊吹は倒れたまま空を指さしていた。
ギルバートはハッとして叫ぶ。
「おい! 貴様、何やっているんだ!」
「もう遅い」
伊吹はギルバートを見てニヤリとする。
『宙写』
指を自分の下腹部に向けて下ろした。
ズウン!
すると、天が抜けたように落ちてきたと錯覚するような魔力の塊が降ってきて、伊吹の体に凝縮されながら入ってきた。
伊吹が青白い魔力に包まれる。
『治癒』
その瞬間、伊吹の体が光り傷が塞がっていく。
「治癒魔法なんて学んだこともないし、想像でやったから、動ける程度にしか治らないけど、今はこれで十分だ」
そう言いながら、立ち上がる伊吹。
「貴様! 何をした」
伊吹の変ぼうに動揺するギルバート。
慌てて立ち上がる。
「治癒魔法を無理に使ったから、かなり宙写の魔力も使ってしまったが、貴様を倒すには十分だ」
「なんだと、貴様!」
ギルバートは伊吹の状態を理解できない。
得体の知れないものを見ている恐怖を感じている自分に焦りが募る。
『自在槍!』
自在槍が青白く光りながら伊吹の手に戻る。
そして、伊吹が構えた。
「さあ、終わりにしよう。エリシアを巻き込んだことを後悔して死ね」
エリシアを守ると決めた伊吹の目に、迷いは一切なかった。




