第51話 万策尽きたか
(大丈夫、まだ足がある。足があればなんとか戦える。体のダメージが抜けたら、すぐに動けばいい)
伊吹は、この状況から抜け出すチャンスを待った。
しかし、ギルバートは伊吹の様子を見てまだ何かを狙っていると気がついた。
「貴様、抜け出そうとしているだろ。確かに貴様の足は少々厄介だ。
それでは両足も潰しておくか」
ギルバートは大剣を抜き、伊吹の両足の前に行く。
伊吹はまだ動かない。
審判席の横ではエリシアが今の伊吹の状況を青い顔で見つめている。
手を合わせて祈るように呟いた。
「イブキさん、逃げて」
エリシアの祈りも虚しく、ギルバートは大剣を振り上げた。
ギルバートはニヤリと笑う。
「これで、両足もらった」
ドガン!
ギルバートが大剣を振り下ろし、伊吹の両足は切断されたかに見えた。
が、そこに伊吹はいなかった。
「な!? いないだと」
ギルバートの顔が驚愕に染まる。
伊吹は、『認識ずらし』によってすでに離れていたのだ。
伊吹は右手に刺さった短剣を引き抜いて捨てる。
そして、左手を落としている自在槍に向ける。
「自在槍!」
伊吹の声で、自在槍が青白く光って伊吹に飛んで戻っていく。
『閃歩』
伊吹は、槍が手元に戻る前に閃歩で、ギルバートに向かって動き始める。
そして、その途中で自在槍が追いつく。
刺された右手が使えないため、左構えで槍を受け取り右手は添えるだけにする。
そして、驚愕しているギルバートに狙いを定める。
『閃歩突貫』
今度は顔を狙った。
唯一、ドラゴンの鱗で守られていないからだ。
しかし、ギルバートは顔に槍が届く寸前に、顔を下に向けて兜部分で自在槍を受けた。
ガン!
今度もまた、レッサードラゴンの鱗に阻まれて、貫くことができなかった。
ギルバートは衝撃で上体は浮き上がったが、備えていたことと、伊吹が左手での突きだったことで、吹き飛ばなかった。
ギルバートは頭を戻しながら、ギロリと睨む。
そして、頭に突きを入れて浮き上がった伊吹に潜り込むように、体勢を低くして伊吹の前に出ている右足を切断しにいった。
ブシュ!
伊吹はすぐに『居つかぬ足』で避けようとしたが、間に合わずに右の脹脛を深々と切られてしまった。
数歩下がったところで、伊吹が尻餅をついて倒れてしまう。
ギルバートがゆっくりと低い姿勢から起き上がり、伊吹を見る。
「まさか、あの状態からまだやってくるとはなぁ。痛ぶりが足りなかったか」
ギルバートが歩いてくる。
その顔には嗜虐心が溢れている。
伊吹はすぐに左足だけで立ちあがろうとする。
ザシュ!
「ぐあっ」
しかし、ギルバートに左の腿を切られて倒れてしまう。
ドカン!
倒れた伊吹をギルバートが蹴り上げる。
伊吹が数メートル転がる。
伊吹は血まみれになりながら、離れようと動く。
「ああ、お前左手でも突きができるんだな。じゃあ、潰さないとなぁ」
ギルバートは、落ちていた短剣を拾い、伊吹に近づくと、伊吹の左手ごと地面に突き刺した。
「ぐああああ」
「これで、今度こそ槍を握れなくなったし、正真正銘お前は終わりだ。
あとは俺になぶられて死ぬだけだぞ、お前。ハッハッハッハー」
ギルバートが嬉しそうに高笑いをしている。
(くっそ痛え。刺されたところも全身も痛え。もうどこがどう痛えのかわからねえ。
なんとかしないとマジで詰む。でも、どうする?
回復ポーションさえあれば。でも、修行中回復ポーションを使った時の魔力の流れ方を辿って、治癒魔法に応用できないか試したことがある。回復ポーションは散々使ったから、流れはわかったんだよな。あれを体現できれば……でもダメだ。俺の魔力では足りなさすぎて、一度気を失って常走のネックレスの電撃に打たれたっけ。くそ、万策尽きたか)
笑い終えたギルバートは考え始める。
伊吹の顔に自分の顔を近づける。
「お前が一番苦しむ姿を見たいぞ。なあ、お前は何をされると一番辛いんだ?」
「……」
「アーン? 答えないのかぁ? それなら、とりあえず目でも抉ってやろうか」
ギルバートは大剣を鞘に収めて、伊吹の左手に刺さった短剣を引き抜く。
そして、倒れている伊吹の髪の毛を掴み短剣を右目に近づける。
「これで、抉ってやるよ。でも、片目だけな。両目見えなくなったら面白くねえもんなぁ。少しずつ体がなくなっていく様を見ているんだなぁ」
そして、緩慢とも言える動きで伊吹の右目に近づけていく。
伊吹の右目の黒目と短剣の鋒が触れるか触れないかのところまできた。
そこでギルバートはわざわざ止めて楽しむ。
「ほーら、俺がくしゃみでもしたら、目に刺さるぞ。俺次第で貴様の目は無くなるんだぞ。どうだ、気分は?」
「……」
(くっそう! 打つ手がない。こいつには敵わないのか)
その時、目が抉られるのを固唾を飲んで見守っていた観客席の方から声が聞こえた。
「もういいわ! イブキさん! 降参して!」
エリシアだった。
この状況を見るに見かねて叫んだのだった。
しかし、ギルバートは苛立ちながらエリシアを見る。
「エリシア! 俺の伴侶になるお前がなんでこんなクズみたいな男を庇うんだ」
しかし、エリシアは堂々と言い返す。
「ギルバート! あなたは救国の英雄でしょ。それがこんな酷いことをしていいの? もう勝負はついたじゃない。あなたの勝ちよ。それでいいじゃない。イブキさんを解放して」
あくまでも伊吹を庇うギルバートに苛立ちをますます募らせるギルバートだったが、
「エリシア……」
伊吹のエリシアを呼ぶ呟きを聞いて、ギルバートは閃いた。
「はあはあはあ、なるほどなぁ」
「何がだ」
ギルバートの意味深な言葉に嫌な予感がした伊吹が聞き返す。
「お前がどうしたら、より苦しむかがわかったぞ」
その言葉に、伊吹がぞくりとする。
恐る恐る確かめる。
「何を考えている!?」
「まあ、待ってろ」
そういうと、エリシアのいる審判席の横に向かって、ギルバートが走り飛んでエリシアの前に降りる。
「エリシア、来い」
そして、エリシアの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「きゃああ」
「エリシア!」
エリシアの叫びを無視して、ギルバートが伊吹のところに戻った。
そして、伊吹の目の前にエリシアを放り投げた。
「きゃあ」
尻餅をつくエリシア。
這って、エリシアに近づく伊吹。
「大丈夫か? エリシア」
「ええ、大丈夫。それよりもあなたすごい怪我よ。手当しないと」
「いや、大丈夫だ。それよりもーー」
伊吹はギルバートを睨んだ。
ギルバートはニヤニヤしている。
「なんのつもりだ」
「なあに、大したことないさ」
そして、会場中に聞こえるような大声で叫んだ。
「フクヤマイブキはもう終わりだ! よって、エリシアは俺のものになる。俺がどう扱ってもいい俺の所有物だ。
今から、このエリシアをここで犯す」
そして、呆然とする伊吹にいやらしい顔を向けてくる。
その表情はこの世のおおよその悪意を詰め込んだかのような笑顔だった。
「嬲りながらな。
貴様はそこで見てろよ。エリシアが犯されるのを。俺に逆らったことを後悔しながらな」




