第49話 ファイアストーン
「貴様! どうやったか知らんが逃げられると思うなよ!」
ギルバートが伊吹が立っている方へレッサードラゴンの大剣を振るう。
しかし、すでに伊吹は『居つかぬ足で』移動し、ギルバートは空間を切り裂くだけだ。
『流突き』
ドン!
ドン!
ドン!
伊吹が回り込みながら、『流突き』で肘、脇の下、脇腹と的確に突いていく。
しかし、その全てをレッサードラゴンの鎧が弾く。
この鎧に関節の隙間などの弱点はないようだ。
伊吹は落ち着いていた。
この一週間の修行で冷静に相手の弱点をつく癖がついていたので、今も常に動き回りながら、ギルバートに有効な攻撃を行なっている。
対して、ギルバートも自分の鎧にダメージが通らないことから、冷静になり始めた。
「ハハハ、フクヤマイブキ! 貴様の攻撃は俺には届かないようだな。そして、貴様の脆弱な装備など俺の一撃で粉砕できる。しかし、それでは面白くない。観客の期待にも応えられない。だから、まずは貴様のそのチョロチョロした動きを止めてから、なぶってやろう」
「……」
『身体強化』
『反射強化』
『感覚強化』
ギルバートの体の周りに白っぽいモヤのようなものが見える。
(さっきのあの動きで身体強化を使ってなかったのか。気をつけないーー)
伊吹が考えていた一瞬のうちにギルバートが迫っていた。
『認識ずらし』はきいていて、伊吹の右1メートルに斬撃を落とし、地面を割る。
伊吹が一瞬反撃をしようとした瞬間に、ギルバートが反応する。
「そこだ!」
ギルバートの横薙ぎは伊吹が実際にいるところを正確に捉える。
伊吹はかろうじて槍をまっすぐ縦にして、受ける。
しかし、伊吹の槍術は微能の域を出ていない。
能力の高い上に身体強化をしたギルバートの一撃を受け流すこともできずに衝撃をモロに受けて吹き飛ぶ。
伊吹は10メートルも吹き飛ぶが、すぐに槍の石突を地面に突き立てて、回転しながら体勢を立て直す。
これは、ダンジョンで転んで止まると電撃が流れる修行のおかげで、意地でも転ばない習慣がついていたからだ。
「ほう、あれを受けて倒れないで立て直すか。微能のくせに生意気だーーなっ」
ギルバートが斬撃を見舞ってくるが、それは『認識ずらし』と『居つかぬ足』で躱わす。
『ファイアストーン』
ギルバートの手から、高速で火をまとった石が飛び出してくる。
ギルバートの火と土の混合魔法だ。
炎の推進力で石の威力を引き上げ、当たった時に石の衝撃に加え、炎で被害を広げる。
伊吹はギリギリで躱わすが、頬が焼ける。
ファイアストーンは壁にぶつかり、激しく砕けながら炎を撒き散らす。
「おお、あれを避けるとはやるじゃないか。貴様如きなら、一発で頭蓋骨は砕けて火だるまになってあの世行きのはずなんだがな」
(確かに、あれを食らったら、ひとたまりもなさそうだ。)
「あんたは俺の即死をご希望か?」
そう言われて、ギルバートは目を丸くし、笑い出した。
「あっはっは。そうだよ。その通りだ。頭を狙っては良くなかったな。貴様が即死をしてしまう。次からは気をつけるさ。
なあに、手に当たっただけで骨は砕けて、その上大火傷さ」
「怖いな。でもーー」
『閃歩』
伊吹が一瞬でギルバートと距離を詰めて、突きを繰り出す。
ギルバートはギリギリのところで受け流し、すぐさま袈裟斬りを仕掛けてくるが、そこに伊吹はすでにいない。
『ファイアストーン』
すぐにギルバートはファイアストーンを放つが、放ったところにも伊吹はすでにいなかった。
『居つかぬ足』ですでに大きく避けていたのだ。
「ーー当たればって、条件付きだろ」
移動、特に横の移動は伊吹がギルバートを凌駕していた。
しかし、ギルバートが防御力、攻撃力ともに大きく上回っている。
ドラゴンスレイヤーなのだ。一撃の破壊力が大きいのは当たり前だった。
決闘はこう着状態になった。
ギルバートの大剣での攻撃、魔法攻撃を伊吹が躱し、隙をついて伊吹が流突きを行う。
ギルバートの攻撃は当てられていないし、伊吹の攻撃は当たってもダメージに繋がっていない。
この状態がしばらく続いた。
「あいつ、微能おじさんだろ。全然ドラゴンスレイヤーの攻撃が当たらないな」
「ドラゴンスレイヤーは何やってるんだ」
「微能おっさんくらいすぐに捕まえろよな」
観客たちは勝手なことを言っている。
それが聞こえてきているのか、ギルバートのイライラはピークに来ていた。
「フクヤマイブキ! いい加減チョロチョロと逃げ回ってんじゃねえぞー」
『ファイアストーンフルバースト!』
伊吹のいる方向に対して、点ではなく面で無数のファイアストーンを放ってきた。
これではなかなか避けきれない。
(来た!)
しかし、伊吹もこの大技を放った時の隙を見せるタイミングを待っていた。
『閃歩突貫』
伊吹は自在槍を前に構え、魔力を自在槍に集中。
目の前のファイアストーンだけを破壊しながら、一瞬でギルバートに接近。
そして、強烈な突きを放った。
ギルバートの鳩尾に突きは当たり、ギルバートが10メートル先まで吹き飛んだ。




