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未亡人を守ると決めた異世界転移の微能おじさん……突きだけ得意  作者: めのめむし
第2章 決闘

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第45話 翼の髪飾り

 色とりどりの5階建ての建物が並んでいる。

建物と建物の間をロープが渡してあり、そこに干された洗濯物が風に泳いでいる。


 建物の窓辺では隣の部屋同士で大きな声で話している女性がいる。

どの家の窓枠あたりにも植木鉢が置かれて色とりどりの花が咲いていた。


 ある窓辺に座る男性がギターのような楽器を鳴らしながら、美しい歌を披露している。

それを他の部屋の住人は聞き入っている。


 路上を元気な数人の男の子が走っている。

騎士の持つ剣にでも見立てているのだろうか、それぞれの手には棒を持っていた。


 女の子たちは人形を持って楽しそうにおしゃべりをしている。


 店は活気にあふれて、店主は気さくに通行人と話している。

買い物客はひっきりなしに往来を歩いていく。


 「この街は豊かなんだなぁ」


 伊吹は歩いているだけで元気が出てくるこの街が気に入っていた。

そんな思いを見てか、隣を歩くエリシアは微笑んで答える。


「そうねぇ、いつもみんな元気で好きよ」


 そうやって話す伊吹とエリシアは半身分隙間を空けて歩いている。

その距離感はこれくらいでちょうどいいというように、何かの拍子でどちらかが近づいても片方が自然に距離を空ける。


 伊吹はエリシアとの時間の中で心に重くのしかかっていた決闘のことが、気にならなくなってきていた。

エリシアもこの時間を大切にしてくれているのか、決闘のことなど、口にも出してこない。

自分が賭け物になっている以上、気になって聞いてきそうなものだが、そうしない気遣いがありがたい。


「ところでエリシア、申し訳ないんだけど、食事する店を選んでもらえないかな?

俺はまだこの街のレストランがよくわからないんだ」

「それだったら、最近王都から出店してきたハンバーガーなんてどうかしら?」

「ハンバーガーなんてあるのか?」

「あら、知っているの?」

「ああ、元の世界の食べ物だよ。肉とか野菜とかが丸いパンに挟んであるやつ」

「そうね。それであってるわ。っていうことは、ミウちゃんがレシピを広めたのかしら」

「そうかもしれないな。行ってみたいな」

「じゃあ、行きましょう」


 ハンバーガーショップに行くと、オープンカフェの形式になっていて、食欲をそそる匂いが漂ってくる。

店の名前は『チェリーバーガー』


 注文はカウンターへ直接注文するタイプで、カウンターに近づくと目立つところにさまざまなメニューと商品のイメージが貼られている。

 

 なんと、驚いたことにフライドポテトとコーラもあった。


 伊吹はミートソースとトマトのハンバーガーセット、エリシアはアボカドとトマトのハンバーガーセットを注文した。

注文した品は届けてくれるようで、先に席に座る。

 

「店の名前の感じとか、コーラがあるところとか、美羽様の商会でやってそうだな」

「そうなのね。美羽様はお金持ちね」

「御使い様だからな」


 注文した品が届くと注文したミートソースのハンバーガーとフライドポテトとコーラがのっていた。


「「いただきます」」


 最近、伊吹や美羽にリリとルルがいただきますをするので、エリシアもティナもすっかり真似をするようになった。


 伊吹は早速ミートソースのハンバーガーを手に取り食べてみる。ジューシーなハンバーグがミートソースの濃厚な味とトマトの酸味によって、さらに引き立てられて、とても美味しい。


(そういえば、エリシアは上手く食べられてるかな?)


 エリシアを見ると、両手でしっかりと持って、上品に食べている。

その姿に伊吹は思わず凝視してしまう。


(エリシア……美人だな)


 伊吹がじっと見つめているものだから、エリシアもその視線に気がつく。

食べているところを見られたので、頬が少し赤くなる。


 その様子が美人に可愛さも加わって余計に伊吹は目を離せなくなる。


「あら、何? 伊吹さん。そんなに私のハンバーガーを凝視して。食べてみたいのかしら?」


 イタズラっぽくエリシアがハンバーガーを差し出してくる。


 伊吹は反射的にエリシアのハンバーガーをエリシアの手から直接食べてしまう。


 エリシアは少し驚いた顔をするが、すぐにニヤリと笑う。


「あら、恋人同士みたいなことをするのね。伊吹さん」

「ハッ! い、いや、これは、その。ぼーっとみていたというか、いやそうじゃなくて、思わずって感じで」

 

 伊吹は、自分がやったことに驚きワタワタとする。

エリシアはニコニコしている。


「そんなに慌てなくていいわ。じゃあ、お返しをしてくれる? あなたのハンバーガーを食べさせて」


 伊吹が自分のハンバーガーの食べかけの部分を見て、エリシアを見てから、羞恥心が噴き出してきた。


(つまり、アーンするってことだよな。それに間接キスになる。恥ずかしすぎるだろ。そうだ、全部食べてしまったら、それができなくなる)


 伊吹が大きな口を開けて一口で食べてしまおうとすると……


「今から全部食べて、もう無くなったとかいうのは無しよ」


 エリシアはニコニコしている。しかし、圧力を感じる。


 逃げ道のなくなった伊吹はおずおずと、恥ずかしそうにハンバーガーをエリシアに向けてくる。


(そんなに伊吹さんが恥ずかしがると、私も恥ずかしいのだけど)


 エリシアは、銀色のサラサラとした髪の毛を右手ですくって耳にかけながら、口を開いてハンバーガーに近づく。

自然に伊吹にも近づいてくる。


 銀髪の口を開けた美人が近づいてくるのだ。伊吹の心臓は爆発しそうだった。

今すぐハンバーガーを引き下げたい衝動に駆られるが、流石にそれをするとエリシアに嫌われそうな気がする。

自分が嫌っているって勘違いされても嫌だ。


(なんで、勘違いされるのが嫌なんだろう。それは、同居している人に嫌われたくないからか)


 などと、心臓の鼓動を早くしながら考えていると、エリシアがパクリとハンバーガーを食べる。


 もぐもぐと食べながら、手を口に当てて、


「これも美味しいわ」

(伊吹さん、かなりドキドキしてるみたいで楽しかったわ。もっとドキドキさせてみようかしら)


 伊吹がエリシアの感想にホッとして見ていると、彼女の口の隅にミートソースがついていた。

それを指摘しようとすると、エリシアは気づいていたのか、舌を出してなめとった。


 エリシアの柔らかくて艶かしい舌が舐めとる様子に伊吹は釘付けになってしまう。

真っ赤になってしまったが、エリシアの顔を見て逸らさない。


(エリシア、美人で可愛い上にエロさまで……もう直視しているのが辛いのに、目を離したくない)


 一方でエリシアは、


(さすがに、はしたないわ。なんて恥ずかしいことをしてしまったの?)


 彼女は彼女で自爆してしまったことに、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

その可愛さが伊吹の心臓をさらに鷲掴みにする。


「……」

「……」


 2人はしばらく、真っ赤な顔をして硬直してしまう。

しかし、このままだと不味いと思った伊吹が口を開く。


「あ、あの!」

「は、はい!」


 エリシアが緊張して返事をする。


「た、食べよっか」

「……はい」


 2人はそのあとは黙って食べ進めた。


 しかし、しばらくして……


「うふふふふ」

「エリシア?」

「うふふふふ、私たち、何してるのかしらね」


 エリシアが楽しくいう言葉に伊吹はキョトンとするが、彼も笑い出す。


「あははは、本当だな」

「うふふふ」

(俺は本当に中学生みたいだ)

(私、少女みたいね)


 そのあとは、楽しく話しながら、食事ができた。


 バーガーショップを出たあとは、市場を見て回った。

さまざまな果物や食材、剣や防具に魔道具に古本など色々なものがあった。

 

 その中の一つの店が変わったものを扱っていた。

女性店主に尋ねてみる。


「お姉さん、それは何?」

「これかい? これは、ミスリルに特殊な加工をしてあるミスリル粘土っていうんだよ」

「ミスリル粘土?どうやって使うの?」

「こうして、魔力を込めると、好きな形にすることができる」


 女性店主は手のひらに乗せた粘土に魔力を流し込む。

すると雪うさぎのようなものが出来上がった。


「まあ、可愛い」


 エリシアが店主の手のひらを覗き込み喜ぶ。


「最後に形を固定するイメージで魔力を送ってやれば、形が決まって変化することはなくなるよ。

自分のオリジナルの贈り物として人気があるよ。ただし、練習が必要だから、贈り物をするなら、早めに買って練習するんだね。固定さえしなければ、何回でも形を変えられるから」

「じゃあ、やってみようか。いくら?」

「金貨一枚だよ」

「高いな」

「これはミスリルでしかも特殊な素材なんだよ。これくらい当然さ」

「そっか」


 伊吹は金貨一枚を支払うと、ミスリル粘土を一つ受けとる。

そして、イメージをして魔力を流し込む。

修行をしたおかげで魔力を絡めたイメージがしやすい。


「まあ、いきなりは無理だ。別嬪な奥さんも気長に待っててやんな」

「ブフォ!?」


 伊吹は店主の発言にむせてしまう。


「まあ、やだ。奥さんなんて。私たちそんな関係じゃないわ」


 対してエリシアは全く気にしていないようで軽く流している。


「そうなのかい? 私はてっきりーーおや?」


 店主が伊吹の手を見つめている。

伊吹も視線を自分の手に下ろしてみると、ミスリル粘土が形を変えていた。


 ウニのようにトゲトゲの物体ができていた。


「あちゃー、むせたときにそのイメージが変に伝わってしまったっていうことなのかな?」

「うーん、それにしても、最初から形ができるやつなんてそうは見ないけどね」

「そうなのか?」

「まあ、いいさ。何回でも変えられるからやってみな」

「あ、そうだ。エリシアはちょっと離れていてくれるかな?」

「あら、私に内緒なのね。いいわよ」


 エリシアが離れていくのを見ると、伊吹はもう一度集中した。

すると、するすると形が変わっていき、翼の形をした髪飾りができた。

ミスリルの薄青い色も相待って神秘的に見える。


「驚いたね、本当にできちまった。あとは魔力を注いで固定するだけだよ。

固定をイメージして魔力を入れるんだ。その時に使えれば魔法を入れることもできる」

(俺は魔法は使えないからな。でも何か入れてやりたいな。そうだ)


 伊吹は右の人差し指を上空に向ける。


 「ここは成層圏。清浄な魔力がある。200メートル四方の空間を切り取る。今からこの髪飾りにこの空間の魔力が全て入り、その形を固定する。そして持ち主を守る」


 伊吹は詠唱を変えて、髪飾りに向かって空をさした指を振り下ろす。

 

 『宙写』


 その瞬間、高高度の魔力の塊が落ちてきて、髪飾りに凝縮して入り込んだ。

髪飾りは青白く光りやがて収まった。


「ふぅ」


 伊吹は一息つくと店主から化粧箱をもらい、大切に髪飾りを入れる。


 その後、エリシアと合流して、小高い丘に登る。

丘は展望台になっていて、街が一望できた。

さまざまな色合いをした街が夕陽に照らされて、より一層美しく見える。

エリシアは展望台の手すりに手をついて、嬉しそうな顔で景色を眺める。

 

「綺麗ね」


 そういうエリシアの銀の髪は赤く染まり、普段とは違った美しさになっている。

その美しさに伊吹ははっと息を呑んだ。


(エリシア、美人すぎる。こんな美しい人と俺なんかが一緒に時間を過ごせることに感謝だな)


 伊吹は、先ほどの化粧箱を出して、エリシアに見せる。

 

「エリシア、君へのプレゼントだ。俺の世界ではエリシアという名は自由を表しているという意味があるらしい。

自由って言ったら、翼かなって思って、翼の形にしてみたんだ。エリシアを守るように魔力はいっぱい込めたんだ。役に立つかはわからないけどな」


 伊吹は照れ臭くなり、早口でエリシアに説明する。

エリシアは俯き気味で、その表情は読めない。


(いきなりミスリルのプレゼントなんて引いちゃったか? っていうか、この世界でミスリルって、贈り物にどういう意味になるんだ? もしかして失敗だったか……)


「エ、エリシア?」


 エリシアは顔を上げるが、少し不安そうな顔をしている。


「イブキさん、こんな高額のものを受け取っていいのかしら」

「あ、ああ、お金はまだあるし、それにエリシアの回復ポーションがなかったら、修行が成り立たなかったんだよ。そのお礼をしたかったんだ」


 伊吹は伺うようにエリシアを見る。


 伊吹を見つめる目はやがて笑顔になった。


「嬉しいわ。よく見せて。すごく綺麗。伊吹さんの世界では私の名前は自由っていう意味があるの? だから、自由に空を飛ぶ翼っていうことなのね。とても素敵。ありがとう」


 躊躇していたエリシアが喜んでくれたので、伊吹は内心ホッとする。


「ねえ、イブキさん。つけてくれないかしら」

「ああ、分かった」


 伊吹は少し緊張して、エリシアの右側頭部にそれをつけた。


 つけ終わると、エリシアはその場で一回転した。

そして、角度を変えたりして、伊吹に見せてくる。


 その姿は初めてアクセサリーをもらった少女のようだ。


「どうかしら? 似合う?」

 

 伊吹から見ても、普段のエリシアよりも浮かれているように見える。

喜んでくれて伊吹は嬉しくなった。

だから、つい口が軽くなった。


「ああ、とても綺麗だ。エリシア」

「え?」

 

 動き回っていたエリシアの動きが止まった。

伊吹は口が過ぎたことを悟った。


「あ、ああ、ごめん。よく似合ってるよ、エリシア」

「あら、さっきは違うことを言っていたような気がしたのだけれど」


 エリシアがイタズラっぽい顔で言ってくる。

その言葉に伊吹が返答に詰まる。

 

「そ、それは思わずというか、なんというか」


 エリシアはそんな伊吹を見て、ますます揶揄う。


「イブキさん、すごく顔が赤いわよ」

「え!?」


 伊吹は頬を両手で押さえる。


「あら、夕日かしら?」

「ッ!?」

「うふふ。冗談よ。でも、イブキさん……」


 エリシアは伊吹の耳に近づいてそっと囁いた。


「あなたに綺麗だって言われて、嬉しかったわ」

「ーー!?」


 伊吹はエリシアの言葉に夕日で照らす以上に顔が赤くなる。


 そんな伊吹をおいて。エリシアは手を後ろに組んで歩いて行ってしまう。


「おいて行ってしまうわよ。イブキさん」


 エリシアが少し振り返りながら、優しい笑顔で言った。

その顔が夕日で照らされた影響なのか、それ以外が原因か、赤く染まっていた。

 

 並んで帰る2人の距離は来た時よりも近くなっているように見えた。


「エリシア、俺を助けてくれてありがとう。心の底からありがたいと思ってる」

「ふふふ、どういたしまして」

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