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未亡人を守ると決めた異世界転移の微能おじさん……突きだけ得意  作者: めのめむし
第2章 決闘

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第43話 美羽からのご褒美

 パシャ。

ゴーレムのアイが電撃で倒れた伊吹に回復ポーションをかけて目をさます。


 そして、起き上がったところに桜の花びらが散る空間の歪みが現れた。


 歪みから出てきたのは、桜色の髪と瞳を持つ御使い小桜美羽とその騎士リリとルルだった。


「あ、お久しぶりです。俺は走らないといけないので、それじゃあ」


 と、走り出す伊吹に対して、美羽はにこりと微笑み、開口一番、伊吹に言った。


「もう、走らなくていいよ。『常走のネックレス』の機能を止めたから」

「へ、止めた? あ、じゃあ」

「そう、ダンジョン修行は終わりよ。ダークナイト撃破おめでとう」


 伊吹は、安心してどっかりと腰をつく。

長かった3日間を思い涙腺が緩んだ。


「ああ、こうして腰を下ろすのも3日ぶりだぁ」


 そんな、伊吹を見て美羽は微笑むが、すぐに顔を顰める。


 伊吹は汗や泥や血で汚れて臭う上にボロボロの服を纏っている。


「お前、かなり臭いね。それにボロボロ。これじゃあ、エリシアのところに帰れないし。

魔法で綺麗にできるけど……、それじゃあ、日本人の伊吹に3日間頑張ったご褒美をあげる」

 

 美羽はそういいながら見たところに、突然5メートル四方で高さ50センチくらいの水の塊が現れた。

その上に50センチほどの水の塊が二つ浮いている。


 そして、それらの水の塊は湯気を立てている。


「み、美羽様。これは、まさか」

「これはきんちゃん風呂っていうの。私の相棒が私のために考えて作ってくれたんだよ。

そのまま、お湯に歩いていけば、入れるようになってるから。出るって意思がなければ、端っこにもたれかかっても大丈夫」


 伊吹は目を輝かせる。

その目は期待で満ち溢れていた。


「まさか、これに入っていいんですか?」

「だから出したんだよ。早く入れば」

「あ、えっと、裸にならないといけないので……」


 伊吹が少し赤くなりながら言う。

それで美羽が察してくれるかと思ったが、美羽は気にする様子もなく、


「当たり前でしょ。お風呂に服を着て入るなんて言語道断だよ。

早く服を脱ぎなよ」

「あ、いえ、年頃の美羽様に俺のようなおじさんの裸を見せてしまうのは、どうかと思いまして……」

「は? 何言ってるの? 私の知識には男の体も隅から隅まで入ってるし、伊吹の裸なんて伊吹の記憶を見てるから、とっくに見てるよ」


 美羽は伊吹に目の前で脱げと言っているのだ。

それには困惑する伊吹。絶世の美少女の前で裸になる勇気など伊吹にはない。

困っていると、思わぬ助け舟が入った。


「美羽様、お言葉ですがいかに知識があっても記憶があっても、やはり伊吹の裸を見てしまうと美羽様のお目が汚れてしまいます」

「リリ、何言ってるの? 記憶を見ているっていうことは体験したのと変わらないんだよ。伊吹が1人でーー」

「わーわーわー!」


 伊吹は美羽の言葉の続きに猛烈に不安になって、叫んで美羽の言葉をかき消した。


「あはは、声おっき。そんなに恥ずかしかった? 1人でーー」

「わーわーわー!」


 美羽の言葉を必死でかき消す伊吹。


「美羽様! 離れましょう! 美羽様の目に映したくありません!」


 今度はリリの目が座っていた。

流石に美羽も気圧される。


「あ、はは。わかったよ。リリはもう過保護だなぁ。大丈夫なのに」


 美羽はリリの頭を撫でる。

すると、リリが気持ちよさそうにしながら座った目がほぐれていく。


「じゃあ、伊吹。囲いを作ってあげるよ。その前に、教えておくと、汚れを落とさないでそのまま入っていいよ。

で、浮いているお湯の塊に頭と顔を別々でつけてみて。そうしたらわかるから。それじゃあね」


 伊吹が質問を返す暇もなく、伊吹ときんちゃん風呂を囲う土の壁ができた。


「美羽様って、魔法を使う雰囲気なく魔法を使うな」


 伊吹は風呂の淵に触れてみる。

ぷるんとゼリーみたいに震える。


「あったかいな。このまま行けばいいって言ってたな」


 早速伊吹は服を脱ぎ、風呂に向かっていった。

端っこのゼリー状のお湯は伊吹が進むとなんの抵抗もなく伊吹を受け入れた。


 伊吹が中程まで行き座ってみる。

一気に暖かさが体に染み込んでくるようだ。

体の疲れがまるでお湯に溶けていくような感覚になる。


「はぁ〜、気持ちいい〜」


 回復ポーションで回復を続けていたとはいえ、3日間用を足す以外、不休で走り続けていたのだ。

それに電撃に打たれたり、ゴブリンに殴られたり、四足の魔物に噛みつかれたり、ダークナイトと死闘を繰り広げたりしたのだ。知らないうちに精神的な疲労は溜まり、体の芯が硬くなっていそうな感覚はあった。


 それが今、ゆっくりとほぐれていく。


「こんな広い風呂に1人で入るなんて、贅沢だな。こんな風呂を一瞬で作ってしまうんだから、美羽様はすごい」


 伊吹の疲れがほぐれてきたところで、風呂のお湯が泡だってきて、水流が生まれる。

体が洗われているようだ。


「おお、全自動。気持ちいいし、楽でいいな。そういえば、この浮いている塊に頭を突っ込んだり顔を入れたりするんだよな」


 浮いている塊の一つに頭を入れると、塊のお湯が泡立ち回転して、頭を洗ってくれる。


「なんだこれは。最高かよ」


 頭を洗われた後、もう一つの塊に顔をつける。


 すると、よりきめの細かい泡が出てきて、水流で顔の汚れも落としてくれた。


 最後は端っこのお湯の壁にもたれかかって、全身の力を抜いてお湯を楽しんだ。


「おおー。体も心もさっぱりだー」


 伊吹がスッキリして、お湯から出るといつの間にかタオルと着替えが用意されていた。

伊吹がゴーレムのアイに預けていたものだ。


 伊吹はタオルで体を拭きながら、周りを見回すがアイの姿はない。


「どこいったんだろう。美羽様と一緒かな?」


 服を着て、外に出て、美羽にお礼をする。


「美羽様、こんなに素晴らしいお風呂、ありがとうございました。おかげで生き返りました」

「そう? それならよかったよ」


 美羽が笑顔になりながらそう答えると、一瞬でお風呂も壁も無くなった。


「あれはどこにいったんですか?」

「細かい粒子にしてこのダンジョンに馴染ませたんだよ」

「へ、へー。そうなんですか」


 美しく可愛いこの笑顔と裏腹にものすごいことを一瞬でやってのける美羽に、改めて恐怖を感じる伊吹だった。


 すると、伊吹のズボンの裾が引っ張られる。

下を見るとアイが何事か訴えている。

こっちにこいと言っているようだ。

 

 そちらにいくと、そこにはダークナイトの残骸がまとめられていた。


 そして、ダークナイトを指差して、自分を指すという仕草をしている。


 「?」


 伊吹が戸惑っていると、美羽が代弁してくれた。


「アイは、ダークナイトの残骸を使って自分を再構成してくれって言ってるんだよ」

「ええ、俺にそんなことできますかね」


 木や石と鎧では難易度がずいぶん違う気がする。

 

「普通じゃできないけど、宙写で魔力を引っ張ってくればできるんじゃないの? コツは最初にイメージの形を決めて、そこに宙写で魔力を直接入れる感じ。それでできるはずだよ」

「なるほど。じゃあ、早速やってみます。アイのゴーレムコアは抜かないといけないですよね」

「うん、一度アイを解体しないとね」


 伊吹はアイからゴーレムコアを抜き出すイメージをする。

すると、ゴーレムの形が崩れて、バラバラの木片に変わる。


 ゴーレムコアを手にとり、ダークナイトの残骸の上に置く。

そして、

(イメージ、イメージ。なんか、デフォルメされた3頭身くらいの騎士のような感じが可愛いな。よし。)


 イメージが決まったから、次は上空に指を向ける。


 「ここは成層圏。清浄な魔力がある。200メートル四方の空間を切り取る。今からこのイメージにこの空間の魔力が全て入る」

 『宙写』


 空を指していた指を、イメージに向かって指を指す。


 すると、200メートル四方の魔力が宙から降ってきて、一気にイメージに入っていく。

それが薄い青色に光る。


 そして、それが消えた時に、デフォルメされた3等身の騎士が立っていた。


「お、おお、お前はアイなのか?」


 伊吹が驚いて聞くと、驚いたことに……


「そうだよ、アイだよ。よろしく、マスター」


 元気な中性的な声で返してきた。


「アイが喋ったー」


 伊吹はものすごく驚いた。


「アイはもともとすごくハイスペックなコアだからね。宙写で良質な魔力が手に入ったのと、ダークナイトのいい素材のおかげで喋れるようになったんだよ」


 美羽が説明してくれたが、自分が作ったものが喋っていることに驚きを隠せない伊吹だった。




 —————————————————————————————


 ティナはテーブルでお茶を飲みながら、窓の外を見る。


「おじさん帰ってこないなぁ」


 そんな呟きに、エリシアも心配そうな顔をする。


「そうねぇ、もう3日になるしねぇ。睡眠も取れないって言っていたから、心配ね」

「うん……。」


 少し、暗い雰囲気になったので、それを吹き飛ばすようにエリシアが言う。


「伊吹さんが帰ってきたら、美味しいものでも作ってあげようか。ご飯も食べてないみたいだしね」


 ティナの顔がパァと明るくなる。


「お母さんの美味しいお料理を食べられたら、おじさん喜ぶよ」


 エリシアとティナは顔を合わせて笑顔になる。


 そこに、桜の花びらが舞い始め、空間に歪みが出る。


 「あ、もしかして!」


 ティナが期待に満ちた目で叫ぶ。


 空間の歪みが扉のような大きさになって、そこから人影が出てくる。


 伊吹だった。行きよりも顔が引き締まり精悍な顔立ちになったように見える。体も逞しくなったようだ。


「おじさん!」


 ティナが伊吹に抱きつく


「おお、ティナ。ただいま」


 そして、顔を挙げると、エリシアが美しいエメラルドグリーンの瞳を細めて笑顔で声をかけてくれる。


「お帰りなさい。イブキさん」


 伊吹は少し照れ臭そうに、笑顔を返す。


「ただいま、エリシア」

 

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