第42話 宙写
ダークナイトの袈裟斬りをわざと最小限のダメージで切られるようにする。
すると、切った後のダークナイトの防御が薄くなる。
『流突き』
ガンガンガンガン!
右手首、胸、左肩、背中に移動しながら突きを放つ。
全て命中した。
「いよっし! 俺の攻撃が当たってるぞ。……でも効いてねえな。なんだよガンって音は。硬すぎるにも程があるだろ」
パシャ
ゴーレムのアイが回復ポーションをかけてくる。
あっという間に、袈裟斬りで切られた箇所が治っていく。
「サンキュ、アイ。それにしても、ボロボロだな」
伊吹の着ているものはすでに服の体裁をとどめていない。
度重なるダークナイトの斬撃にボロボロなのだ。
「まあ、奴を倒したら、着替えるか」
そう言っていると、『闇縛り』が足元に現れる。
伊吹は、それを『居つかぬ足』で難なく避ける。
「もう、闇縛りは攻略済みなんだよ。ダークナイト」
事実、伊吹は8時間に及ぶダークナイトとの死闘の中で、闇縛りの出現タイミングを感覚で掴んでしまっている。
そして……。
『闇縛り』
今度はダークナイトが闇に縛られ動けなくなる。
そして、伊吹が接近し、流突きでダークナイトの体の8箇所に当ててくる。
そう、この8時間の死闘の中で伊吹は持ち前の学習スピードの速さで『闇縛り』を完全に盗んでいたのだ。
闇縛りは漆黒魔法に適性がなければ使えないが、伊吹の微能(微かな才能)は、普通の人間では持ち得ない、漆黒魔法の適性まで持っていた。
ダークナイトは大剣で闇縛りを破壊し、一直線に走ってくる。
伊吹は円を描くように左回りで距離を取るが、そこにダークナイトが『ダークボール』を5連射してくる。
ダークボールはすでに伊吹の行き先を読んでいたように、先回りして飛んできた。
このままでは直撃を免れない伊吹は右手を前に出す。
『ダークボール』
ヴォンヴォンヴォンヴォン……
ダークボールが十発飛び出し、双方ぶつかり、相殺する。
そう、伊吹はダークナイトの使ってきていたダークボールまで学習していた。
最も威力は微能の伊吹では、本家のダークナイトに劣るので、五発に対して十発返すことでなんとか相殺できているのだが。
伊吹はこのダークナイトとの戦いで飛躍的にスキルを高めているが、中でも上達したのは攻撃法ではなく魔力を増やすためにルルから教わった『魔周天』であった。
これは、魔力を体内で循環させて総量を増やしたり魔力感覚を磨くための修練法だが、戦いながらこれを行うことで、頭脳が明晰になり、咄嗟の判断や相手の使う魔法の勘所などが的確に判断できるようになったのだ。
もちろん、これを始める前よりも魔力の総量も増えているし、魔力の運用もかなり上達しているし、魔力の流れも読めるようになってきている。
さらに2時間が経過して、戦い始めてから10時間が経過した。
「しかし、あいつは全然焦らないし、弱らないし、変化ないなぁ」
伊吹は『居つかぬ足』で移動しながら、愚痴を吐く。
すでに互角以上に戦えるようになっているのに、全く倒せる気配がないのだ。愚痴も言いたくなる。
「もっと、俺の閃歩突貫が威力が出せればな。でも、俺にはさっきのが限界なんだよな」
実は少し前に『閃歩突貫』を仕掛けている。
これは、『閃歩』の力を爆発的に高めながら、力を突きに乗せて相手を撃破する一撃必殺の技だ。
しかし、それもこの無尽蔵に魔力が供給される空間では、ダークナイトに大した傷を与えられなかった。
「突出した才能がないってこういう時弱いよな」
伊吹はダークナイトの『ダークボール』を交わし、その直後に来たダークナイトの斬撃を避ける。
もう、ダークナイトの攻撃はほぼ見切っている。自ら斬られにいく戦法も必要なくなった。
しかし、決め手がない。
「どうするか、流石に回復ポーションだっていつまでもあるわけじゃないし、すでに訓練って感じじゃなくなってるしな」
伊吹がいうように、ダークナイトを相手で学べることはほぼなくなっている。
これ以上は時間の無駄になってしまう。
そこで、肩に乗ったゴーレムのアイが「はぁ」という感じで肩で息を吐いている風の仕草をした。
そして、伊吹の顔をペシペシと叩いた。
「いて、なんだよ、アイ」
アイに顔を向けるとアイが上を指差している。
そして、伊吹に向かって指を下ろしてきた。
「なんだよ。それ。空か? 待てよ。宙……『宙写』か!」
アイは満足そうに頷いている。
「そうか、宙写なら一時的に魔力を爆発的に増やせる。それで閃歩突貫をすれば」
そうまで言って、伊吹は気落ちしたように言う。
「でも、俺。宙写を今まで一度も成功してないんだよな。しかも走りながらでできるとは思えないんだよな」
すると、アイが伊吹の横顔を殴ってきた。連続で。
「いてててて、何すんだよ」
しかし、アイは殴り続ける。
流石に伊吹もなぜ殴られているか気がつく。
「わかったよ。ごちゃごちゃ言ってる暇があるんだったら、試してみるよ」
アイは殴るのをやめた。正解だったようだ。
『閃歩』
伊吹はダークナイトから距離を取る。
そして、集中できるようにゆっくりと居つかぬ足で動き続け……。
「ここは成層圏。清浄な魔力がある。10キロ四方の空間を切り取る。今から私にこの空間の魔力が全て入る。」
伊吹は、天に指を指し、自分が成層圏にいるイメージをして、ルルがいっていた通りに詠唱をする。
『宙写』
シーン……。
しかし、何も起きなかった。
「ほら、やっぱりだぁ。俺にはできないんだよ。伝授してもらったら、できるようになるって、先生は言っていたけど、ダメなんだよ」
伊吹が情けなく嘆く。
バコーン!
アイが伊吹の頭を思い切り殴った。
木でできているアイの一撃は意外に痛い。
「いってぇ、何すんだ! このクソゴーレム!」
伊吹が口汚く罵ると、アイは伊吹の肩で腕を大きく開いていたのを小さくする。
そして、伊吹を指差した。
「ん? 大きいのを小さく? 俺?……ああ、そうか。ルル先生の使ったのは10キロ四方の魔力か。
俺がいきなりそんな大きな範囲の魔力を使えるわけがないよな」
伊吹は素直なのだ。
再び天に指を指し、成層圏にいる自分をイメージする。
「ここは成層圏。清浄な魔力がある。200メートル四方の空間を切り取る。今から私にこの空間の魔力が全て入る。」
指をひたいの位置まで下ろしながら詠唱した。
『宙写』
その瞬間、宙が降ってきた感覚がして、200メートル四方の魔力が伊吹の中に余さず入ってくる。
「うおおおおお」
無理に押し込まれる感覚に思わず苦悶の声を上げてしまう。
しかし、それはほんの一瞬のことだった。
その後には溢れるような魔力が体をまとっていた。
「おお、すごいぞ! アイ! よく気がついたな」
アイは「はぁ」とため息をつくようなそぶりをするが、内心喜んでいるようだった。
伊吹の異変にダークナイトも気づいた。
『影縛り』に『ダークボール』を連続で出しくるが、伊吹が全てかわすと、一直線にこちらに向かってくる。
「おう、初めて焦ってるじゃねえか」
伊吹は凶暴な笑みを浮かべる。
「だが、もう遅いぜ」
伊吹は居つかぬ足で横移動していた動きを一瞬止め、ダークナイトに向かって『閃歩』を使って一瞬で距離を詰める。
そしてそこから
『真・閃歩突貫』
伊吹が青白く光り、魔力の奔流が生まれ爆発的に突進し、同じく青白く光る自在槍を突き出す。
ダークナイトが振り下ろしてくるが、その大剣を自在槍が砕き、ダークナイトの胸部に刺さる。
そのまま、ダークナイトの体が魔力の爆発で吹き飛んだ。
伊吹は通り過ぎて片足を軸に回転して止まり、ダークナイトの残骸を見る。
伊吹は10時間に及ぶ死闘の終わりに歓喜して叫ぶ。
「やったぜーー」
ピシャーン!
「うぎゃああああ」
バタン……。
伊吹は足を止めたことで「常走のネックレス」に電撃を喰らって倒れた。
やはり成長しても伊吹は伊吹だ。
アイがその肩の上でやれやれと頭を振っていた。




