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未亡人を守ると決めた異世界転移の微能おじさん……突きだけ得意  作者: めのめむし
第2章 決闘

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第41話 VSダークナイト

 ダンジョンの14階層『暗い森』を伊吹は軽快に走っていた。

あたりは鬱蒼と茂る森があるが、きちんと道もあり、走るのに苦労はしない。

 

 目の前に炎を纏ったファイアハウンドが6頭の群れで迫ってくる。


 『閃歩』


 昇華した摺り足で一気にファイアハウンドに距離を詰め一頭を串刺しにする。

急停止した他のファイアハウンドがこちらを向くよりも早く、『居つかぬ足』で回り込みながら、串刺しにしたファイアハウンドを抜く。


「ガルル」


 ファイアハウンドが伊吹の喉仏に向かって噛みつく。噛みつかれたように見えたが、ファイアハウンドはすり抜けて反対側に着地した。なぜすり抜けたのか混乱している。


 そこに、今まで何もなかった空間から槍がつき出てきて、ファイアハウンドの眉間を貫く。


『認識ずらし』だった。


 そして、残りの足が完全に止まっている4頭に『居つかぬ足』で周囲を移動しながら、突きを放っていく。

これは『止まった状態での突き』を走り続けなければならない伊吹が『居つかぬ足』と『摺り足』を合わせて工夫した技法だ。

 これを伊吹は流れるような動きの中で突きを放つところから『流突き(りゅうづき)』となづけた。


 流突きをされると、上体を全く動かさず前後左右に動かれるので、相手は動きが読みづらくなり、動くのに一瞬躊躇する。そこを動く気配のない姿勢から突きが繰り出されるので、反応できずにくらってしまう。


 ファイアハウンドたちも予測が全くできず3頭まで一気に殺されてしまった。


 残り一頭が一度離れて、伊吹に向かって口を開ける。


 ファイアブレスだ。


 ファイアハウンドの口から激しい炎が伊吹の進行方向に向かって迫ってくる。

伊吹は自在槍に魔力を込める。

 すると、自在槍が薄く青色に光った。そのまま伊吹は『閃歩』と呟くとファイアブレスに突っ込んでいく。


 自在槍がファイアブレスに接触する側からブレスは散ってしまい、無防備なファイアハウンドを串刺しにした。

6頭ものファイアハウンドの群れをあっという間に倒してしまった。


 「おおー、やったぞ。アイ、見たか。あんなに苦労したファイアハウンドを完封だぞ」


 伊吹は喜びの声をアイに伝える。……足を止めて。


 ピシャーン!

「うぎゃああああ」

 ドサッ……。


 伊吹が電撃に打たれて倒れた。

伊吹は強くなってもやはり伊吹であった。


 アイがやれやれといった具合に頭を振って回復ポーションを伊吹にかけた。

よく気を抜いて電撃に打たれる伊吹にいつものこととばかりにアイがポーションをかける。


 パシャ。


 回復ポーションがかかり、体に染み込み、伊吹が上体を起こす。


「うおおおおお、危なかったあああ」


 危なかったではなく、すでに電撃を受けたのである。

こういうことだから、いつも気を抜いて最後の最後で電撃を受けるのだ。

と、ゴーレムのアイは言いたかったが、口がないのでいうのを諦めた。


 伊吹は再び走り出していく。


 すると、前方に漆黒の騎士が立っていた。


「あれがダークナイトか」


 美羽からもらった知識によれば、ダークナイトは14階層では単体で現れる魔物であり、剣術が得意なのと漆黒魔法を使ってくる。大抵、漆黒魔法『闇縛り』で体の自由を奪ってから斬りかかってくるそうだ。


 対剣術の修行相手にはぴったりの相手らしい。

ちなみに20階層にいくと、ダークナイトは騎士団として出てくるので、今の伊吹がいくと瞬殺されるらしい。


 今回の修行の最終目的がこのダークナイト単体の余裕を持った討伐だった。


「修行を始めて二日目の夜からここに入って3日、ようやく目的の魔物に到達だな」

 

 伊吹は走り込みながら、ダークナイトに向けて雄叫びを上げた。


「うおおおおおお」


 伊吹のあからさまな雄叫びにダークナイトが気がついた。その瞬間……、


 バターン。

伊吹は思い切り倒れた。


 ピシャーン!

「うぎゃあああ」


 と、同時に電撃で伊吹は気を失った。


 パシャ


 回復ポーションが伊吹にかかり、上体を起こす。アイがかけた。


「おお、今のはなんだったんだ!」


 足元を見ると、ダークナイトの『影縛り』によって足が地面に固定されていた。


 ダークナイトがこちらに向かって走ってきている。


「やべえ」


 自在槍に魔力を込めて『影縛り』をつくと、魔法は四散した。

すぐさま伊吹は立ち上がり、『居つかぬ足』と『認識ずらし』で横に動いた。


 ガーン!


 今いた地面がダークナイトの大剣でえぐれている。


「あっぶねええ」


 あっぶねええじゃねえよ。なんでわざわざ雄叫び上げて近づくんだよ。影縛りがあるって知ってただろ。なんで無警戒なんだよ。私がいなかったら、何度死んでるかわからないじゃないか。それが自分の役目だとはわかってるけど、自分からやられに行くアホに付き合っているこっちの身にもなってくれ。


 と、ゴーレムのアイは思ったが、喋れないので諦めた。


 ちなみにいうと、このゴーレムは伊吹が作ったから、スペックは低いのだが、コアは美羽が作ったものだ。

美羽は簡単に魔法生物を生み出すことができる。その美羽が作ったものだから、思考や意思はかなりのハイレベルなのだ。

そんなゴーレムのアイから見た伊吹は文句を言いたくなるくらい、どうしようもなく愚かで低能なのだった。


 空振りをしたダークナイトは兜の中の赤い目で周囲を伺う。

そして、伊吹のいる場所に対して、横なぎに薙ぎ払ってきた。


 伊吹はさらに斜め後ろに下がる。

今までいたところに音を立てて大剣が通り過ぎる。


「おお、こいつ。認識ずらしが効いてねえ」


 伊吹が思わず声を出してしまったことでダークナイトが明確に伊吹を見た。


「やべ」


 伊吹は声を出すという自らの失態に気づき、アイは俯き気味の額に手を当てて頭を振っている。


 次の瞬間、ダークナイトが伊吹の移動先に間合いを詰めて切り掛かってくる。


 『閃歩』


 それを伊吹は後ろに閃歩をする事でかわす。


 ダークナイトの攻撃は止まらない。


 次から次へと間合いを詰めて、斬り掛かってくる。


 『認識ずらし』が完全に見切られてしまっていた。


 伊吹の微能ではこのレベルの剣術と打ち合うことはできない。


 伊吹はひたすら避けて、突きを狙うしかなかった。


 『居つかぬ足』で斬撃をかわし、間合いを詰められすぎたら『閃歩』で間合いをとる。


 時折くる影縛りを神経を集中して跳んだり、閃歩で避けたりする。


 この状態がすでに60分は続いている。


 完全な防戦一方になっている。

 

「くっそ、これじゃあジリ貧だ」


 しかし、ジリ貧とはいえ、伊吹はここ数日で休まずに走り続け回復ポーションで超回復を繰り返してきた。

体力はすでに普通の人間から見たら驚異的なものになっている。それに回復ポーションもある。


 だから、ダークナイトの攻撃を観察する余裕はあった。

そもそも美羽が伊吹にダークナイトと戦わせようと思ったのは、すぐに撃破するためではなく、相手の攻撃をかわし、観察して、その上での撃破をさせようという考えの上だった。


 伊吹が攻撃を交わしているだけなのは予定通りなのだ。


 ともあれ、伊吹は全く反撃ができずに体に傷が増えていく。

しかし、この傷もルルから言われている完全に避けようとしたら、避けきれない斬撃を最低限しか避けず自分から斬られることで、致命傷を避けているものだ。


 

——————————————————————————

「おお、伊吹避けてるねえ」

「はい、美羽様の考え通りになっているかと」

「そうだね、避けることと避け続ける体力さえあれば、いつか勝てる目が出てくるからね」

「そうですねぇ。自分の能力を総動員して避け続けるこの方法はいろんなことが微かに能力がある伊吹さんには、すごくあってますね」

「うん、微能の本領ってところじゃない?」


 美羽とリリとルルが豪華なソファーセットのある部屋で、美羽の神具『スクリーン』で見ている。


「それでは、今回のダンジョン行きの目的は概ね果たせたと」

「うーん、人間相手だったらそこまで火力はいらないから、これでもいいんだけど、せっかくだから期待しちゃうよね」

「例のものを使った高火力の一撃ですか?」


 ルルの質問に美羽が満面の笑みで返す。


「うん。それで決めてくれれば万々歳かな」


——————————————————————————



 伊吹は、下がりながらも『流突き』を返すことができるようになってきていた。

しかし、ダークナイトはそのことごとくを弾き返して、斬撃を繰り出してくる。


 このダンジョンでは魔力が供給され続けるためにダークナイトは戦い続けられる。


 驚異的な体力に加え回復ポーションを使う伊吹と実質無尽蔵の魔力のダークナイトの戦いはすでに6時間を超えていた。


 当初避け続けていた伊吹は互角に撃ちあえるまでになっていた。

 

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