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未亡人を守ると決めた異世界転移の微能おじさん……突きだけ得意  作者: めのめむし
第2章 決闘

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第40話 セリーヌ・レイマー

 ギルバート・レイマー男爵


 彼の邸宅は男爵邸にしては規模が大きい。

伯爵邸ほどの大きさがある。


 横長の3階建ての建物には部屋数もあり、幾つもの部屋に何人もの愛人を住まわせている。


 男爵という下級貴族の立場で、このような生活を送れるのは、王都でドラゴンを単独討伐をしたこととは別に、この城砦都市ナカマラスにおいてある利権を手に入れることができたからだった。


 そして、利権の管理は全て夫人と執事長に任せて、自分は囲っている愛人を愛でるか、街に出て女性を物色するかのどちらかであった。そして、いい女を見つけては口説き落とす、その過程を楽しみ、それが叶わないとなればエリシアの時のように強硬手段に出る。いい女は屋敷で囲いそれほど興味なければ、一度でポイ捨てするタチの悪い女好きであった。


 それでも、最低限の訓練は怠らない面がある。

それは、ドラゴンスレイヤーとして勇名を馳せた以上、再び国から依頼をされる可能性があるためで、なかなかに抜け目ない面もある。


 ただ、伊吹に関しては完全に舐め切っていた。

それは、一度斬り合った時に伊吹の技術があまりにも稚拙で、伊吹の頼みの突きもギルバートの本気を出していない身体強化で十分避けられたところから来ている。


 だから、彼が伊吹対策で訓練をすることはない。


 ほとんど毎日、この大きな屋敷で女を抱いて楽しんでいた。


 女を侍らせて、庭園の東屋でくつろいでいたところ、夫人が訪ねてきた。


 彼女はセリーヌ・レイマー男爵夫人でギルバートの唯一の夫人だ。

美しい金髪碧眼の女性で、かつては社交界で非常に人気のあった人物である。


「旦那様、お聞きしたいことがありまして、伺いました」

「ちっ。なんだ、言ってみろ」


 セリーヌはギルバートの舌打ちを気にしない。

なぜなら、すでに夫婦関係は冷え込んでいて、第一子の長女パトリシアが生まれてから、指も触れられていないのだ。

嫌われているのは十分理解している。


(嫌われていても、パトリシアのためにここに残ると決めてからはなんとも思わないわ。私が憎んでいたとしても)


 セリーヌは元伯爵令嬢だ。元はセリーヌ・リュシアンと言う。

ギルバートは平民で伯爵家の下男だった。

才能を見出されたギルバートは幼い頃からリュシアン伯爵家の剣術指南役に剣の手解きを受けていた。


 リュシアン伯爵はゆくゆくはギルバートをセリーヌの護衛騎士にするつもりでいた。

下男であったギルバートは前途洋々だった。


 しかし、事件が起きる。くだらない事件だ。


 美少女として知られていたセリーヌに憧れていたギルバートは、思春期の衝動でセリーヌの着替えを覗いていた。

それを見つかり、投獄される。

 

 だが、リュシアン伯爵は、セリーヌの護衛騎士には流石にできないが、伯爵家の騎士団に配属できるように取り計らうつもりだった。

 

 念の為伯爵家で余罪を調べたところ、着替えどころか入浴も頻繁に覗いていて、セリーヌの下着も盗んでいた。

 

 目をかけていたリュシアン伯爵は失望したが、処刑をするのは忍びなく思い、ギルバートを気持ち程度の鞭打ちの上、放逐した。


 しかし、ギルバートのリュシアンに対する逆恨みは激しかった。そして、セリーヌに対する執着も強いものとなった。


 5年後、戦闘の才能があったギルバートは、冒険者としてメキメキと実力をつけ、5級冒険者=上級冒険者へと上り詰めていた。

そして、王都騎士団の主力が王都を出払っている時に、運悪く現れたレッサードラゴンをギルバートは単独討伐した。


 レッサードラゴンとはいえ、かなりの強さがある。

当時バリスタなどの防衛設備がメンテナンス中だった上に、有力魔法使いを含めた王都騎士団が国境まで遠征中で、その上有力冒険者も従軍していたので、王都の被害は甚大なものになった。

被害はどこまで拡大するかわからなかった。


 それを単独で討伐することができたギルバートは王都で英雄扱いされた。


 王国としても、救国の英雄として扱わなければ国の威信に関わる。


 ドラゴンスレイヤーの称号と男爵位、それに加えて多額の金品を与えられた。


 ギルバートは一躍時の人となった。

王都民からの人気と国に対する影響力は絶大になった。


 そんな時に、甘い言葉を囁く貴族が現れた。


 貴族はリュシアン伯爵の政敵で、リュシアン伯爵が不利になるように法廷で嘘の証言をすることで、伯爵を破滅させて積年の恨みを晴らそうというものだった。

 その暁には娘のセリーヌを娶ることができるように取り計らうとの約束と、ナカマラスの伯爵邸と伯爵の持つ利権の一つを融通するといわれた。


 ギルバートは二つ返事でそれに応じた。


 リュシアン伯爵は公明正大の人物で、決して陥れられるような人物ではなかった。

また、罪をなすりつけられても、誰も信じることなどはなかったはずだった。


 しかし、ドラゴンスレイヤーの英雄が下男をやっていた時に、リュシアン伯爵が他国に情報を流していたと証言したのだ。

さらに、先の王都騎士団の遠征は他国の侵攻だったのだが、その時に捉えたスパイが持っていた書簡がリュシアン伯爵と手引きをしているという内容が示唆されているものだった。


 もちろん、これは他国とリュシアン伯爵の政敵の共同の陰謀だったが、法廷はギルバートの証言と書簡の内容だけでろくに調査せずにリュシアン伯爵を断罪してしまった。


 リュシアン伯爵の一族はセリーヌを残して族滅された。


 セリーヌは伯爵の不正を暴いたギルバートに手柄として与えられた。

約束通り屋敷と利権の一つも付いた。


 文字通りの乗っ取りだった。

リュシアン家の使用人たちはそのまま雇い続けていた。


 かつて、自分の同僚だったものがいるが、それをアゴで使うことに快感を覚えたため、解雇しなかったのだ。


 そして、セリーヌとはすぐに婚姻を結んだ。


 しかし、あれほど焦がれて執着していたセリーヌを手に入れて、抱いてみたら、情熱が消えてしまった。

セリーヌには興味がなくなってしまう。

手に入れたことで恨みの感情が晴れ、性的興奮さえもなくなってしまったのだった。


 そして、さらなる刺激を求めて様々な女を漁って今に至っている。



 セリーヌはギルバートに聞いた。


「なんでも四日後に決闘をするとか」

「ふむ、お前の耳にも届いたか」

「財産の全てを賭けたとか」


 ギルバートは苦々しい顔をする。

それと同時に御使い小桜美羽の恐ろしい気配を思い出して身震いする。


「だからどうした」

「もしあなたが敗れたら、パトリシアはどうなるのですか?」

「俺が負けるわけねえだろ! 俺を誰だと思ってやがる!」


 ギルバートはセリーヌを睨みつける。

しかし、セリーヌは目を逸らさずに続ける。


「万一ということがあります。財産がなくなってしまえば、パトリシアを養うことができなくなります。

今からでも決闘の条件をーー」

「うるさい!」

 

 セリーヌにワイングラスを投げつける

グラスはセリーヌのドレスにあたり、落ちて地面で割れ、セリーヌのドレスに赤いシミを作る。


 ギルバートがツカツカとセリーヌに歩み寄り、セリーヌの顎を乱暴に掴んで上を向かせる。


「このドラゴンスレイヤーのギルバート様に万一があるか! しかも、やつは微能おじさんと揶揄されている男だ。

二度とふざけたことを言うな! わかったな!」

 

 セリーヌは顎を掴まれたまま、ギルバートを冷めた目で見つめる。

ギルバートはこのセリーヌの目が腹立たしい。


「貴様! なんだその目は。貴様と貴様の娘は誰のおかげで生きながらえていると思っているんだ。言ってみろ!」

「……ギルバート様です」


 セリーヌは表情を変えずに手を握りしめて答える。


「そうだ、俺だ。俺がいなければ生きていけないお前が、生意気に俺に指図するな。わかったか!」

「……はい、申し訳ありませんでした」


 ギルバートは掴んでいるセリーヌの顎を後ろに突き飛ばすように押し出す。

セリーヌは仰向けに倒れそうなところをかろうじて尻餅をつくことで凌いだ。


「消えろ!」


 ギルバートに言い捨てられて、セリーヌは立ち上がり頭を下げて下がる。


 セリーヌは庭園を戻りながら、尻餅をついた痛みに顔を顰める。

それは自分と娘のパトリシアの境遇に対しての表情でもあった。


 しかし、セリーヌは考える。

 

(でも、あの人が負けることになったら、私たちはどうなるのかしら? もしかしたら、すごくいい人だったりして)


 しかし、自分の考えにセリーヌは首を振る。

 

(そんなことがあるわけない。私は世の中に何も期待しない。ただ、あの子を無事に育てるだけ)


 セリーヌは憂いた目で屋敷を見上げると、パトリシアが窓からのぞいて手を振っていた。

彼女はギルバートには一切見せなかった優しい微笑みで手を振りかえす。


(でも、もしかしたら……)


 強い風が吹き抜ける。

セリーヌは目を細めて呟いた。


「微能おじさんか……どんな人なんでしょう」


 そのつぶやきは風に消えていった。

 

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