第35話 ゴーレム
「ダンジョンはやっぱりあるんだなぁ」
異世界といったらダンジョンだ。
伊吹も人並みにラノベを読んでいることもあった。
その中で異世界もので定番中の定番がダンジョンだった。
異世界からダンジョンをとったら、異世界とは言えない気もする。
だから、異世界にダンジョンはあるべきなのだ。
「異世界=ダンジョンだよな。異世界に来た気がしてきたなぁ」
しかし、いざ自分が行くとなると怖いのではないか?
作品によって、ダンジョンの仕様は様々だ。
洞窟と大差ないダンジョンから地底に空があるような不思議なダンジョンまで。
そのどれにも、強力なモンスターが出てくる。
自分がそれらと対峙することを考えると恐怖でしかない。
大体自分は戦いに向いていない。
戦いの覚悟もセンスもどれもこれも中途半端なのだ。
そんな自分がダンジョンに入って生き残れる気がしない。
「そうだ、俺はダンジョンに入ってはいけない人種なんだ」
伊吹は美羽に向く。
「美羽様」
「却下」
「いえ、まだ何も」
「ダンジョンは向かないので、辞退させていただきます。とか言うんでしょ」
「心を読まれたかー」
「いや、読まなくても、口に出てたよ」
「そ、そうでしたか。ダンジョンの衝撃に口走ってしまっていたか」
「いっておくけど、ダンジョンは辞退させないよ。あなたを一週間でギルバートに勝てるようにするっていう約束があるでしょ」
「いや、ダンジョンじゃなくても……」
「最善よ」
「いや、それは」
「控えろ、きさま〜。美羽様の言うことに文句があるのかぁ?」
リリが剣を伊吹の喉元につけて脅してきた。
「あ、はい。ダンジョンに行かせていただきます」
伊吹はあっけなく折れた。
美羽に逆らったら、リリが本当に殺してきそうだ。
あと、どこにもいなくなったルルが、伊吹の隣で気配を全く感じさせずに双剣を構えて立ってそうな気もする。
こちらの方が怖そうだった。多分、美羽のことになると、危険なのはおっとりしているルルの方だ。
「まあ、イブキさんはしばらくうちに帰ってこれないと言うことかしら」
「ええ〜、そうなの? 寂しいな〜」
(おお、エリシアにティナ。なんとか上手く美羽様を説得してくれ)
伊吹はダンジョンに行かないですむ一縷の望みを二人にかける。
美羽が申し訳なさそうにエリシアとティナに話す。
「ええ、しばらくダンジョンに入ってもらうから、帰って来れなくなってしまうの。ごめんなさいね」
「それは、必要なことだってミウちゃんが言うなら仕方ないわ」
「ミウお姉ちゃんが言うんだもん。仕方ないね」
あっけなく、二人は折れてしまった。
美羽に対しての信頼は強い二人だった。
期待外れの結果に伊吹はガックリと肩を落とす。
(二人が説得してくれれば、美羽様も考えを変えたかもしれないのに)
その背後からいつの間に移動した美羽の声が聞こえてくる。
「残念だったね」
「ヒィィィィ」
伊吹は毛を逆立てて叫んだ。
いつまで経っても美羽が考えを読むと言うことを学ばない伊吹であった。
「それで、ダンジョンだけど、基本的に一人で行ってもらうことになる。流石にリリとルルにつきっきりでダンジョンに入らせると甘えが出るからね。ただ、その代わり、これの作り方を教えてあげる」
そういって、美羽はどこから取り出したのか、手のひらに乗るくらいの大きさの石で組み上がった人形を出した。
「美羽様、これは?」
「これはゴーレムだよ。これは石でできてるけど、木でもできるし土でもできるし鉄でもできる。基本何ででもできるよ」
ゴーレムは、歩き出したと思ったら、ブレイキンを踊り出した。
小さいゴーレムがブレイキンを踊るのは可愛いが、動きがキレすぎていて、少し引いてしまう。
(最後に腕組んでるし……)
「どう? よく動くでしょ」
「これの作り方を教えてくれるんですか?」
「うん。と言っても、一番重要なコアをあげるから、簡単にできるよ。程度を気にしなければね」
「ちなみに、これをいただくことは?」
ポーズを決めているゴーレムを指差して言う。
自分で作るよりも、これを使わせてもらう方が確実だろう。
ゴーレムがこれ扱いする伊吹に中指を立てて、こちらを睨んでる。
「だめ。これは私が作ったから、この世界では完全にオーバーテクノロジー。これ、ドラゴンも倒せるよ。
それじゃあ伊吹のためにならないからね」
「こんな小さいのに、ドラゴンを倒せるんですか?」
「ファイアドラゴンくらいなら余裕よ。どっかのドラゴンスレイヤーよりも強いよ」
「これが、あのギルバートよりも強いのか」
ゴーレムがサイドチェストを決めている。
落ち着きがないのかアピールしているのか、先ほどから何かしら動いている。
「なるほど、それで、コアをいただけると言うことですが」
「コアはこれよ」
美羽がピンポン玉くらいの大きさの赤く光る球状の物を渡してきた。
素人目にもすごいエネルギーを感じる。
「じゃあ、後で変えることができるから、この薪でウッドゴーレムを作ってみて?」
美羽に部屋の隅にあった薪を渡される。
「コアを木の中心に近づけてゴーレムの完成形をイメージするの。そして、自分の魔力を流して。その時、『ゴーレム錬成』って言ったほうがあなたはやりやすいと思うわ」
伊吹は薪が木のゴーレムになっているところを想像し、そこに魔力が流れ込んでいくところをイメージした。
『ゴーレム錬成』
すると、伊吹から魔力が流れていき赤いコアが薪の中に吸い込まれていく。入ったら薪ごと光って、光が消えた時に人型のウッドゴーレムが出来上がっていた。
美羽も一度で作ってしまった伊吹に驚いた。
「すごいね、これだけ簡単にできるとは思わなかった。流石になんでも覚えるのが早いだけあるね」
「ありがとうございます」
「何か、命令してみて」
「よし、それじゃあ、後方宙返りしろ」
ウッドゴーレムが前傾になり、背中を逸らしながら斜め後ろに飛び上がり……。
そのまま、後頭部から床に落ちた。
ウッドゴーレムはぴくりとも動かなくなった。
一瞬、全員が言葉を失う。
やがて……。
「ぷ」
誰かが吹き出した。
「「「「「あははははははは」」」」」
女性陣が全員笑い出した。
「ええー、ここはうまくいくところでしょー」
伊吹は真っ赤な顔で、自分のゴーレムに突っ込みを入れた。
「あははは、ゴーレムは製作者本人の能力に影響を受けるからね」
「ふははは、伊吹殿の後方宙返りのイメージは自爆なのだな」
「うふふふ、伊吹さん後方宙返りの訓練もしないといけないね」
「あらあら、伊吹さんったらお茶目さんね」
「キャハハ、おじさんおもしろーい」
美羽、リリ、ルル、エリシア、ティナの順に伊吹を揶揄う女性陣。
皆、目に涙を浮かべて笑っていた。
「あ、あはは……」
(ま、まあ、みんな喜んでくれたから、いいか)
伊吹は疲れた顔をするが、ウケたのでよしとした。
美羽は気を取り直して、説明を続ける。
「このコアもオーバーテクノロジーなんだけどね。コアだけならいいでしょ。もう伊吹の所有になってるから、ゴーレムを壊されても、コアだけは伊吹のところに帰ってくるよ。盗まれてもね」
「それはすごい。でも、そんなにすごいもので作ったら、強くなりすぎないんですか?」
「あはは、作った人の技量によって能力が変わるでしょ。やってみたばかりじゃない。微能の伊吹が作ったら、ゴーレムも微能にしかならないよ」
「そ、そうですか」
恥の上塗りになってしまい、涙が出てくる伊吹であった。
「おじさん、いいじゃない。微能でも、ゴーレムが作れるんだもん」
ティナが慰めてくれる。
(いい子だぁ)
ティナの優しさにまた泣けてくる。
「そうだね。普通の人にはコアがあってもゴーレムなんて作れないよ。10000人に1人も無理かな」
「そっか、そうなんだ。ははは」
褒められることがあまりない伊吹は、思わず笑いを漏らしてしまう。
「あらあら、伊吹さんったら、嬉しそう」
「よかったね、おじさん」
エリシアとティナの親子がニコニコしている。
2人も伊吹が特殊なことが嬉しいのだ。
美羽が収納から槍の穂先のようなものを出す。
柄もついているがやたら短い。石突もついている。
「伊吹、これをあげる」
伊吹は受け取るが、どう使うものなのかがわからない。
「それはね、自在槍って言って、魔力を入れると伸縮する槍だよ。
どれくらいで伸び縮みするか、どれくらいまで伸びるかはその本人のポテンシャルによるけどね」
「おお、伸び縮みするんですか。どうするんだろう?魔力を込めて『伸びろ』」
すると、槍が伸び始める。しかし、ものすごくゆっくりだ。
「また、微妙な……」
伊吹がそのあまりのもゆっくりな伸び方にがっくりとくる。
「あらあら、でも伊吹さん、持ち運びする時には短くできるのは便利ですよ」
エリシアが槍のいいところを見つけて、伊吹を励ます。
「そうだよ。しかもこの槍、不壊とまではいかないけど、耐久性はかなり高いよ。
しかも、自動修復までついているから切れ味も持続する。その上、魔法の付与はしやすい上に魔法耐性もかなりある。魔力を込めれば、魔法だって切れるんだよ。その上に投げたり盗られたりしても念じれば戻ってくる。破格な性能なのに、自分の能力が足りなくて伸び縮みがゆっくりなだけで落ち込むの?」
「そうだ、貴殿がいらなければ、ぜひ私がいただきたい一品だぞ」
美羽が性能を説明しつつ、伊吹の不満の不当性を指摘する。そこにリリが本音を言う。
「あ、すみません。本当にありがたいです。ゴーレムコアだけでなく、こんな性能の槍をいただいていいんですか?」
「いいよ。この槍は私が5本作ったその中の1本なの。人にあげるために能力は落としてあるから、問題ないよ」
伊吹は、通常では手に入れられないものを二つも無償で手に入れた。
そのことにありがたいことだと思う。
「美羽様、ありがとうございます」
美羽は笑顔で応える。
「うん、頑張ってね」




