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未亡人を守ると決めた異世界転移の微能おじさん……突きだけ得意  作者: めのめむし
第1章 異世界転移

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第11話 初心者講習

「いかがでしたか? 適性検査は?」


 先ほどの受付嬢が伊吹を見るなり微笑んで聞いてきた。

 

(さっきまで緊張していたせいか、気が付かなかったけど、この人の笑顔は素敵だな)

「私にとってはまずまずと言ったところだと思います」

「そうですか、それならよかったです」

「おう、これが適性検査の結果をメモしたものだ。記録しておいてくれ」


 ピーターが受付嬢に結果を書いたメモを渡すと受付嬢はそれを見るなり、目を丸くした。


「ピーターさん、こちらは」

「おう、突きに関しては公式の記録にはできないが、備考にでも記録しておいてやってくれ。イブキ、すまないな。突きだけの項目がないんだ。ただギルドには記録として残しておくからよ」

「はい、無理にお願いしたのはこちらですので、それで構いません」

「それで、伊吹は冒険者になるのか?」

「はい、なろうかと思います。戦えるかはまだわかりませんが」

「おお、いいじゃないか。それならこれからもよろしくな」


 そう言ってピーターは去っていった。

なかなかの好人物であったと伊吹は思った。


「イブキさん、冒険者になるのでしたら、登録を済ませてしまいますね」

「はい、よろしくお願いします」

「何でも屋の方はいかがしますか? こちらは登録にお金はかかりません」

「おお、お金がかからないのですか」

「はい、孤児の子やお金に困っている方がなることが多いので、ハードルを下げさせていただいています。

ただし、最初の基本講習を設けさせていただいています。その結果次第でお断りさせていただくこともあります。

尊大な態度の人などは何でも屋には向きませんし、手グセの悪い人も割といますので、そういう方がお断りの対象です」

「とりあえず、何でも屋は保留でお願いします。今お世話になっているうちのお手伝いもできたらと思っていますので」

「どちらにお世話になっているのですか?」

「薬師のエリシアさんのお宅です」

「ああ、エリシアさんなんですね。当ギルドにもポーションを卸していただいています。エリシアさんも色々大変だと思うので、ぜひ力になってあげてくださいね」


 受付嬢の言い方に引っかかったが、まだ知り合ったばかりのエリシアのことを本人の知らないところで噂するのは気が引けて、それ以上尋ねるのはやめておいた。


 話している間にもテキパキと準備をしてくれていたらしい、受付嬢はドッグタグくらいの大きさの木のプレートと小銀貨5枚を出してきた。


「はい、こちらは検査でお預かりして、相殺した分の残り5000シリルと冒険者プレートです。10級からスタートになります」

「ありがとうございます」

「申し遅れました。私は冒険者ギルドナカマラス支部チーフアドバイザーのシェリアと申します。よろしくお願いします。フクヤマイブキさん」

「はい、何でも屋のことなんかも質問とかあるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」


 それから、冒険者についての活動や注意点などを一通り聞いた。


「そうだ、これを受け取ってもらえますか?」


 伊吹は、盗賊に襲われて亡くなった者たちのタグをシェリアに渡し事情を説明した。


「そんなことがあったのですね。ギルドの方でそちらに調査に行きますので、発見されたら少ないですが、金一封も出ます。

 そして、盗賊の情報にも盗賊次第で褒賞が出ることがあります。すこしあとになりますが」

「期待しているわけではないので、いつでも大丈夫です。今日はありがとうございました」


 シェリアにお礼を言って離れた。

シェリアは笑顔で見送ってくれたので、伊吹は気分よくその場を後にした。


 シェリアの話によると、掲示板の一角に冒険者の各種職業の初心者講習についての案内が張り出されているらしい。


(どんな職業がいいかな? 体力不足だし、走り回る斥候とかは向かないかな? でも、戦士って柄でもないし)


 すると、明らかに伊吹の噂を話している声が聞こえてくる。


「あ、あの人が?」

「ああ、そうだ。微能おじさんだな」

「でも、少し能力あるんでしょ」

「って言っても、あの歳で初心者だったら、少しくらいの能力あってもな」

「確かに。まだ職業も決まってないみたいだし、今からじゃあね」


 他のグループからもこんな声が上がっている。


「お前んとこのパーティーで微能おじさん入れてやれば?」

「勘弁してくれよ。これから鍛えたって、使える頃には引退だろ。そういうお前のところが入れてやれよ」

「うちは若いパーティーだからな。弱いおじさんは間違いなく浮くって」

「そりゃそうだな。うちだって若いぜ。微能おじさんと比べればな」

「「はははははは」」


 そこかしこでこう言った声が聞こえる。

伊吹は人知れずむすっとした表情を作る。

 

(暇人かよ。パーティーに入れたくないなら、ほっといてくれ……しかし、この様子だとパーティーの一員っていうわけにはいかないんだろうな。じゃあ、職業は何にすればいいか。ソロでも活躍しやすい職業でもあればいいんだけど)


 掲示板を見ると、さまざまな職業が募集していた。

戦士、魔法使い、盾士、弓士、探索士、採取士、サポーターなどがあるが、伊吹が目に止めたのは、


「探索士なんかどうだろう。魔物の分布を調べたり、遺跡、洞窟の調査なんかだな。数人で組むのが望ましいけど、ソロでもできるみたいだ。それと、相性が良さそうな採取士も学べば、結構仕事になりそうな気がする」

「探索士と採取士か?」


 不意に声をかけられて、振り向くと歳のころは自分と同じ35歳くらいの中年の柔和な男性がいた。


「あ、独り言聞こえちゃいましたか?」

「バッチリね。それより君より年上はあまり多くないから、敬語は使わなくていいと思うよ」

「あはは、慣れない土地なので、下手に出たいなと思いまして」

「ああ、そういうこと? でも、あまり下手に出るのは相手につけいらせてしまうから、おすすめはできない戦略だね」

「なるほど。おいおい直していきます」

「おっと、自己紹介がまだだね。私はドノヴァン。こう見えて戦士だよ。もっとも君が興味を持った探索士も兼任しているけどね」

「福山伊吹です。伊吹と呼んでください。この辺には昨日来たばっかりです。ドノヴァンさんはランクはどれくらいなんですか?」

「私のランクは5級だよ」


 ランクは10級〜9級が下積みで8級が初心者、7級と6級が中堅、5級から上級層と言われている。

ちなみに1級の上に特級があるが、ほとんどいない。ただ、特級の中でも強さが大きく違うためにその時に応じて新しいランクが作られる。


 話を戻すと、ほとんどの冒険者が中堅の6級か上位の中でも下部の5級までで冒険者としては打ち止めになる。

これは、だいたい6級5級くらいまでで冒険者としてのピークを迎えてしまうからだ。


「おお、5級ということは上級冒険者なんですね」

「ははは、上級の中でも末端だけどね。一応そう言われているよ」

「いや、すごいじゃないですか。上級なんて」

「うーん、君はなんで5級からが上級って呼ばれているか知ってるかい?」

「いえ、知りません」

「冒険者ギルドの上級依頼は5級から難易度が急に上がるから6級と5級の差はかなりあるから、そこを中堅と上級の境目になってるんだよ。

それでも5級と4級、4級から3級、3級から2級、2級から1級、そして特級はそれぞれかなりの壁があるんだよ。それこそ一つランクが上がる依頼は下位のものでは達成不可能って言われるくらいにね」

「なるほど、上級の依頼が恐ろしいものだということはわかりました」

「そうだね。だから5級の私は上級でも末端というわけだよ」

「そうなんですね。なんだか雲の上の話です」

「ははは、始めたばかりではそう思うのは当然だよ。ところで、探索士と採取士を考えていたようだけど、それはパーティーを組めないことを見越してかい?」

「そうですね。年齢と能力でついた俺の異名みたいなのはすっかりギルド内で広まってるみたいで、明日にはもっと広まるでしょう。

そうすると、誰も組んでくれない可能性は高いと思うんです。でも、なんとかして生きていかなければならないので、一人でやっていけるものを選ばないといけないと思って」

「なるほど。そう考えれば、その選択はいいと思うよ。でも、一人でやるなら、他の職業も満遍なくやっておくべきだと思うよ」

「どうしてですか?」

「たとえば戦士の素養があれば、探索士や採取士の仕事中にバッタリと魔物に遭遇した時に生き残る可能性が上がるからね。他のものも同じような理由かな。もっとも急に全てをやっても身につかないから、順番でいいと思うけどね」

「なるほど。じゃあ順番に受けてみますね」

「お金に余裕はあるかい? 生活費っていう意味で」


 そう言われると、35歳の伊吹はバツが悪い。

苦笑いをしながら答える。


「実は、ある人のお宅で居候をさせてもらいながら、仕事をする予定ですので、普通よりはかからないで済むと思いますので、生活費には手持ちで余裕があります」


 伊吹は盗賊に襲われた人が隠していた金貨と、襲ってきた盗賊から奪った財布がある。

それがあれば、エリシアに生活費や家賃を払ってもそれなりに保たせることができる。


「そうかい。それなら講習は戦士を受けて、探索士その次に採取士の順で受けたほうがいいよ。他は好きな順番でいいよ。あ、弓士は早いほうが狩りが楽になるよ」

「どうして戦士が先ですか? あまり戦う気はなかったのですが」

「戦いは待ってくれないからね。いつ何時、想定外の強敵に出くわすかわからない。探索士でも戦いの仕方は学ぶが、戦士ほどじゃない。最初に戦士を受けておけば、生き残る可能性が上がるってことさ。」


 伊吹は探索士と採取士だけ受ける気でいたから、こういうアドバイスはありがたい。

素直にお礼を言う。


「アドバイスありがとうございます。戦士から受けますね。本当に助かりました」

「いやいや、下積みの人に教えるのも上位者の義務みたいなものだよ」

「そう言ってもらえると助かります。35歳の下積みですけどね」

「ははは。その年齢で始めることには敬意を払うよ。じゃあ、私は行くよ。頑張ってな」


 ドノヴァンと伊吹は握手をして別れる。

彼は足早にギルドを出て行った。


(忙しいのに教えてくれたんだろうな。いい人に会えてよかった。エリシアさん母娘、美羽さん、ピーターさん、シェリアさん、そしてドノヴァンさん。この世界に来てからいい人にしか会ってないな)


 そんなふうに思う伊吹の脳裏に盗賊の恐ろしい顔や朝イチのスキンヘッドの冒険者、野次馬たちが思い浮かぶ。


(いやいや、あれはカウントに入れないよ)


 伊吹は頭を振って余計なことは忘れようとする。


 そして、シェリアのところに再び行った。


「あら、伊吹さん。どうしたんですか?」

「シェリアさん。明日、戦士の講習があるみたいですね。それに参加できますか?」

「ええ、できますよ。8時からになりますので、それまでに訓練場に集まってください。講習費は5000シリルになりますので、当日講師にお支払いください」

「おお、良心的な金額ですね」

「ええ、この講習はギルドの補助事業になってます。多くの人に受けてもらうことで、死亡率を下げることを目的にしてますので。」

「助かります。そうだ、この街に来たばかりなのですが……」


 シェリアは話しやすくて、伊吹はギルドに関係ないことまで話した。

シェリアにとっても伊吹は物腰がよく話しやすいために他に並んでいる人もいないために話した。


 その二人の打ち解けた楽しそうな姿を、珍しいものを見る目で眺める人々がギルド内にいた。

伊吹は知らないのだが、シェリアは普段話し込むことはほとんどない。それが見慣れない新人らしい中年の男と話しているのだから、目を引いた。


 シェリアは冒険者に人気が高い。それだけに二人を見る目に嫉妬の視線も混じっているのだった。


「さて、長く話してすみません。そろそろ行きますね」

「いえいえ、私も楽しかったです。伊吹さんはこれからどうするんですか?」

「採取の依頼をしようと思っていたのですが、明日の戦士の講習を受けてからの方がいいかなと思いまして」

「金銭的に余裕があれば、その方がいいですね」

「だから、街を見学しながら帰って、エリシアさんのお手伝いがあればやろうかなと思います」

「ああ、それでしたら……」


 そこで、シェリアはおすすめの店を教えてくれて、エピソードなども楽しく話したので、結局それから15分くらい余計に話すことになった。シェリアファンにはヤキモキする時間であった。


「それじゃあ、シェリアさん」

「ええ、またお待ちしています」


 シェリアはとても柔らかい微笑みで伊吹を見送った。

その様子を見ていたものたちはシェリアの普段見せないその表情に驚いた。


 シェリアはギルドのドアが閉まるまで伊吹を見送った。


「シェーリア」

「きゃ」

 

 両肩にポンと置かれた手に驚くシェリア。その手の正体は同僚の受付嬢ドナだった。


「何よ、ドナ。びっくりするじゃない」

「ふふふーん、先にびっくりしたのは私だよ」

「何をびっくりしたの?」

「ふーん、気が付いてないんだ。あの微能おじさんに対して普段しない笑顔だったよ」

「微能おじさん?って、イブキさんのこと?」

「今、話題になってるよ。冒険者の中で。才能が微かにしかないおじさんで微能おじさんだって」

「そんな言い方やめてよ。イブキさんに失礼でしょ」

「はーい。でも、やっぱりシェリア肩入れしてるね。イブキさんに」

「そうかな?」

「そうよ。あの笑顔と今のやり取りだけでわかるよ」

「ドナ、呼ばれてるよ」

「あ、やば。じゃあね、シェリア」


 ドナが去るのを見てシェリアはふーっと息を吐く。


「全くもう」


 シェリアは、ドナに言われたことを考える。

肩入れをしている気はないが、普通の冒険者と違う伊吹の物腰は心地いいものだった。


(不思議な人だったな)



 伊吹はギルドを出たが土地勘がまだないために、あまり色々なところにはいけない。

だから、シェリアが教えてくれたところに行くことにした。


(せっかく教えてくれたんだしな。あとでまた話題になるし)


 聞いた道を歩いていると、割と大きな建物が並んでいる。

5階建ての建物は割と普通にあるのに驚いた。


(そういえば、シェリアさんが魔土っていうのと土魔法っていうのを使えば、割と大きな建物が作れるって言ってたな。

この建物は土魔法なのかな。マンションみたいに人が住んでるのかな? 水はどうしてるんだろう。それにしてもカラフルだよな。地球でもこういう色使いの街あったな。歩いていると楽しくなる)


 色々と興味の尽きないカラフルな建物の間を歩いていると、不意に左右に人の雰囲気を感じた。


 いつの間にか、冒険者らしき男に左右を挟まれている。


 伊吹の頭の中では警鐘がなった。


(なんかまずいぞ)


 すると、すぐ後ろで声がした。


「微能おっさん! ちょっとツラ貸せや」

 

 



 

 

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