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南へ

 寮にユーズがやって来て、その後の報告をしてくれた。


「マナミリュ殿下から伝言を言付かっております。サール様のお言葉通り隠し棚があり、そこからケンブルドン侯爵の横領の証拠が出ました。その為に陛下もマナミリュ殿下も多忙になり、こちらに顔が出せない状況でございます」


 ユーズはこの間の人達のようにレオンに対して話すのではなく、サールの目を見て話している。

 だからサールが返答した。


「大変ですね」


「ええ。何しろ王族の血を引く者の大罪ですから……派閥も大きいですし。ああ、この間ここに同行した部下も捕らえました。財務官僚もかなりの人数を捕縛しましたので、例の契約の件はかなり待たせしてしまう事になります。申し訳ございません」


 ユーズは深く頭を下げる。


「ええと、あの人に陥れられて冤罪を被った人が多数います。南に一人、東に二人、東南にも一人。経歴を辿れば誰か分かるので、その人達を呼び戻せれば王宮の財務部署の混乱はマシになると思います。告発しようとして排除された有能な人達です」


「なんと」


 思わぬ言葉にユーズは目を丸くする。そして更に深く頭を下げた。


「重ね重ねの助言、ありがとうございます。大変助かります。すぐに捜索してこれまでの冤罪を明らかにし、潔白を示したいと思います」


「ええと、僕の契約は南の方に頼もうと思います。ですが少し事情がありそうなので、直接訪ねてみます。急いだ方がよさそうなので、学校を休んで向かいます」


「え? じゃあ私も行く」


 弾かれたように顔を上げたレオンに、モルフが口を挟む。


「レオン様、少々お待ちを。卒業式がもうじきなので今季の授業は残り僅か。すぐに長期休暇に入ります。レオン様には必ず帰るよう本国から連絡が来ていますよね?」


 モルフの元にも同様の手紙が届いていると、レオンに釘を刺す。

 レオンは分かりやすく目を泳がせた。


「ええと……今回は帰らなくてもいいんじゃないかなぁ~? 別に用事もないし」


「魔法について報告するように、私宛てに『陛下直筆』の手紙が届きました。『陛下直筆』ですよ? 絶対に逃げられませんからね?!」


「うん、分かった。今回は諦める」


 今回は帰省せずにこちらにいようと目論んでいたレオンは、渋々了承した。

 モルフの口撃は、部屋の隅で呑気にお茶を飲んでいる老人にも向けられる。


「キンバーン様もですよ? こちらも一度も帰るようにと『陛下』と『宰相』様連名の手紙が届いております。私は初耳でしたが、キンバーン様には何度か帰国命令が出されているとか? 呑気にレオン様の教師をしている場合ではないのではないでしょうか? しかも何故私宛てに強めの文言の手紙が届くのでしょう? 手紙では埒が明かないと判断されたのか、昨日は魔法道具の小鳥が飛んで来ましたよ? あれは緊急性の高い案件しか使用許可が下りないと聞いておりますが? 国でやきもきしている方がいらっしゃるのではないですか?」


 魔法道具の小鳥は以前、サール捜索の時に使われた物だ。あの時はレオンの容態が悪く、緊急性が高かったので使えていた。


 老人はモルフの追及に、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと笑った。


「さあて。何でしょうな? 老いぼれはもう引退するというのに」


「その引退とやらが本当なのか、国の者が納得しているのか非常に疑わしいですが。ともかくレオン様と一緒に帰国して頂けますね?」


「分かりました。レオン様の側近は流石に有能ですのう」


 老人はレオンと一緒なら帰国するのは問題ないらしい。すんなりと了承した。


 一方、レオンはサールの契約に前のめりになっている。


「モルフ、その前にサールの用事を済ましてからだ。南に行くぞ。長期休暇は長いから間に合うだろう」


「間に合いますか? 南に向かって用事を済ませてから、国を縦断して本国に戻るのですよ? 結構な移動距離になりますが」


「キンバーン先生がここにいらした時、移動手段があると仰った。『星の力』とやらを授かった私も、そのような魔法を使えるかもしれない」


「おお、そうですな。老いぼれ一人では心許ないですが、レオン殿下のあり余る魔力を使えば旅程を早められるかもしれません」


「教えて下さいっ!」


「やりましょう!」


 レオンと老人が意気投合し、やる気に満ち溢れている。

 こういう時、振り回される予感がひしひしとするモルフは、不安そうに二人を見詰めていたが、サールはその様子を微笑ましく見守っていた。


 ユーズは恐れながら……と申し出た。


「南への旅には私も同行させて貰えないでしょうか」


「え?」


「冤罪で追放された元官吏に事情を説明しなくてはいけませんし、皆様に何かあっては一大事です。仰々しい護衛を嫌がられるかもしれませんが、何もせずにトマリーナ国の方々だけで送り出す訳にはいきません。せめて私だけでも同行する許可を頂けないでしょうか」


「いいよ」


 あっさりレオンが許可を出した。


「マナミリュ殿下に報告しないといけないし、この国の方がいてくれた方が話が早い」


「ありがとうございます」


 そしてユーズは細かな日程の打ち合わせをしてから王宮に帰って行った。


 出発までの短い期間で、レオンは老人から移動時間を短縮する魔法を幾つか習う。

 方法は幾つもあり、多才な老人に舌を巻いたのだった。

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