尋問2
「ふむふむ。ではお嬢さんは何年も前から、今日、王都の上空に隕石が現れると分かっていたのだな?」
「そうよっ!」
「それを誰にも言わなかった」
「言ったって誰が信じるの?!」
「……まあ、そうだな」
実際にマナミリュ殿下が国王に進言したが、取り合って貰えなかった。
「どっちみちワタシが『星の力』で何とかするからいいのよ! 災害は未然に防ぐんだから!」
「そうですか。でも実際に隕石を破壊したのはお嬢さんではない。『星の力』とやらが宿ったのは、どうやら彼のようだ」
老人が示した先にレオンがいた。だいぶ弱まったが、レオンはまだ黄金色に光っている。
「あの光! ワタシの『星の力』!」
弾かれたように顔を上げた男爵令嬢が足を踏ん張ったので、護衛が慌てて腕に力を込めて押さえつける。
「あんたが! あんた留学生ね! どうしてワタシの邪魔をするの!!」
「黙れ!」
レオンをあんた呼ばわりする男爵令嬢を、マナミリュ殿下が怒鳴りつける。
でもレオンがそれを止めた。これまで知り得なかった男爵令嬢の情報を、この際、全部知っておこうと思ったのだ。
「もう少し彼女に喋らせよう。冷静になって口を噤む前に」
レオンが耳元で囁くと、マナミリュ殿下はハッとして了承した。
老人が続ける。
「お嬢さんは乙女ゲームのシナリオに沿って行動してきた。それは殿下を含む、高位貴族の子息達と恋愛を楽しむためだった」
「そうよっ。でも全然シナリオ通りじゃない! 上手くいかないの! どうして王子に会えないの! イベントの日に待ち伏せても来ないし、秘密の息抜きの場所に押しかけても逃げられるし!」
だからあの奥庭を知っていたのか……とマナミリュ殿下が小さく漏らす。
「王子は親友の隣国王子を亡くしてるから、そこを優しく慰めれば簡単に落ちる筈なのに! その話すら出来ない!」
突然の不穏な言葉に、さすがに老人の顔も強張った。
マナミリュ殿下は言わずもがな。この国の護衛達までビシリと固まっている。
サールもアルデもあまりの事に言葉を失い、モルフは激怒のあまり前に出た。
レオンがそれを止める。苦笑していた。
老人が視線でレオンの様子を確かめてから、ゆっくりと確認するように尋ねた。
「この国の王太子マナミリュ殿下は、隣国トマリーナ国の第一王子と友人だった。それはシナリオがそうなっていたのかね」
「そうよっ。幼い時に一度しか会ってないけど親友になったの。でも向こうの第一王子は生まれつき病弱で助からない命だった。だから王子の胸の中には大きな穴が空いているのよ。表には出さなくても親友を失った絶望があるの!」
「なるほど。ではお嬢さんはその悲しみのマナミリュ殿下を慰めて恋仲になるのだな?」
「そうよっ。それが王子ルートのシナリオのキモだもの。それに駄目押しの隕石イベントで、王都を救ったワタシは聖女になって結婚するのよ。王妃になるの!」
マナミリュ殿下は苦い表情だ。
これが王妃だなんてとんでもない……と、どこからか聞こえてくる。
「お嬢さんはマナミリュ殿下の側近達を侍らせていたそうだが。魅了や洗脳をした覚えはないのかな?」
「何度も聞かれたけど、ワタシにそんな力はないわよっ。ただ個人情報を知っていただけ。好感度を上げる為に必要だもん」
「なるほど。王子ルートを狙ったが、上手くいかないので側近達を狙った。知っていた情報を元に、彼等の弱いところを突いた」
「味方は多い方がいいじゃないの。ワタシは可愛いから他の女達から目の敵にされるのよ。それにここは乙女ゲームの世界なのよ? 恋愛こそ全てじゃない! 何が悪いの?!」
「ほうほう」
とんでもない事を曝露している自覚がない男爵令嬢は、すぐ隣にマギオンがいるのを失念しているようだ。彼の顔は青を通り越して白くなっている。
「魅了とか洗脳とか。ワタシは何もしてないけど、シナリオの強制力が働いたんじゃないの?」
「強制力……?」
「シナリオからずれたら、それを戻そうとする力よ。本当にそんな物があるんなら王子ルートをどうにかしなさいって話よ、全く!」
なるほど。そういう力があるのか。
レオンとマナミリュ殿下は目を見交わして頷いた。
トーヤが洗脳じみた見えない力に苦しんだのはそのせい。女子生徒に効かないのは恋愛対象ではないから。
その横でサールは愕然としていた。




