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思いがけない人

「危険なので近づかないように」


 老人の言葉に、駆け寄ろうとした護衛達が足を止める。よく見れば焼けた石がところどころ赤く燃えて燻っている。

 元は隕石だった大量の岩石は、透明な膜に包まれてまとまっている。地面に接していないので、草が燃える気配はない。膜のお陰で熱くはないが、何が起こるか分からないので今は近付かない方がいい。


 終わったのかと空を見上げたサールは、思いがけない景色に息を呑んだ。

 細かな欠片が砂塵のように舞っていて、雲間から差し込んだ日光に反射してキラキラ輝いている。災害を免れたのを神様が祝福しているとも取れる、幻想的な美しい光景だった。


 ほう……と誰かが溜め息を吐いた時、それは起こった。


「え……?」


 戸惑いの声に目を向ければ、レオンの身体を縁取るように黄金色の光が放たれていた。全身から金粉が湧き出ていると錯覚してしまうほどキラキラ光っている。

 いつかの教室で光った時は白だったが、今回は黄金色。しかも光り方があの時よりも激しい。


「またですか。先生、これはっ?!」


「はて。何でしょうな、その黄金色の光は。強力な魔法使いが光るのとは、また違うような……」


 老人が不思議そうに首を傾げる横で、モルフが混乱していた。


「レオン様、異常はないですか? 痛みは?!」


「何もない。ただ光っているだけだ」


「魔力切れは? 頭痛は?」


「大丈夫だ。むしろ爽快で調子がいいくらいだ」


 モルフがホッと胸を撫で下ろす。

 レオンは自分の両手を見ながら老人に尋ねた。


「先生、あんなに派手に魔法を使ったのに全然疲れていません。何故でしょう?」


「確かに倒れてもおかしくないほど連発なさっていましたが。その謎の光のせいですかな?」


「光……」


「わしも初見なので何とも言えませんが……」


 老人がふと違う方向を見る。

 馬車を停めている道に、新たな馬車がやって来るのが見えたからだ。


 そして馬車から転がるようにして慌てて降りて来たのは、思いがけない人物だった。


「ちょっと! 何よ、これ! 何で終わってんのよーっ!!!」


 ピンク色の髪を振り乱した男爵令嬢だった。後ろにマギオンが続いている。

 乗り付けたのはマギオンの実家、公爵家の馬車のようだ。護衛と見られる使用人を何人か連れている。


 マナミリュ殿下は彼等を目にするなり怒りを露わにした。


「ここは立ち入り禁止だ!」


 マナミリュ殿下の護衛達が動き、若い二人を制止する。

 公爵家の使用人達は抗議の声を上げようとしたが、マナミリュ殿下の激しい怒気を感じて口を噤んだ。急いで草原に膝を突いて頭を下げた。


「マギオン! 何故ここへ来た!」


「で、殿下、それは……」


 久しぶりに見るマギオンはどこか窶れているように見えた。目に焦りの色が浮かんでいるし、以前の覇気がない。

 マナミリュ殿下が不審に思っていると、空気を読まない隣のピンク令嬢が叫んだ。


「このイベントはワタシのものなのにーっ! どうしてっ?! 何で終わってんの?! 誰よ! 横取りしたのは!」


「黙れ!!!」


 護衛が慌てて男爵令嬢を両側から拘束し、強制的に跪かせる。マギオンも巻き込まれて同じように押さえつけられた。


 驚いた事に、男爵令嬢はそれでも尚、ブツブツと呟いている。隣のマギオンは気味悪そうにそれを見詰めていた。


 様子のおかしさにマナミリュ殿下は渋面になった。

 その腕をそっと掴んだレオンは「距離を取ろう」も耳元で囁く。マナミリュ殿下は素直に従った。


「何故こんなところにあの令嬢が?」


「さあ。分からない。何かブツブツ言っているが意味不明だ」


「あの令嬢は何者ですかな?」


 学校での事を何も知らない老人に、これまでの経緯を説明する。鑑定では『魅了』や『洗脳』の痕跡はないが、おかしな力を使うこと。何人もの男子生徒や教師を不自然に味方につけていること等を話す。


 老人は鑑定で分からないという『謎の力』に興味を持ったようだ。


「ふむふむ。わしが鑑定してもよろしいですかな?」


「もちろんです」


 老人は少し近付くと、じっと男爵令嬢を見詰めた。

 鑑定で何か分かったのか、分からなかったのか。老人はそれには言及しなかった。


「マナミリュ殿下、この者を尋問してもよろしいか?」


「どうぞ。構いません」


 そうして老人の尋問が始まった。

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