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授業

 数日間、様子を見て判明した。サールの『勘』に頼ればピンク猪を避けられると。


 なので可能な限り、マナミリュ殿下もレオン達と同行する事になった。

 突然、思いもしない場所に現れる男爵令嬢にダメージを受けていたのが大きいので、それから守ってあげられる。


 最低限の専門課程を残すだけのマナミリュ殿下は、レオン達と共に必要のない授業に参加する事になったが、嬉しい誤算もあった。


 特別授業をしてくれる教師はレオンの本当の身分を知っているので、国によって違う風習や礼儀作法について話し合う事が出来る。

 知識の交換が思いがけない歴史を掘り起こしたり、新たな目線で客観視したり。お互いが当たり前だと思ってきたものを改めて考えさせられる話し合いとなり、とても有意義に過ごせた。


 何しろレオンには前世の世界の知識もある。

 政治の仕組みにしても社会主義国家や民主主義国家、共和国、議会政治、独裁国家、様々なものがある。それぞれの国がどう発展したのか、また滅亡したのか。その経緯の知識すらあった。

 病床で暇だったので、たくさんの歴史書を読み漁ったと誤魔化したが。


 マナミリュ殿下が身を乗り出して聞き入り、質問に次ぐ質問になったのは当然だ。


 たまに議論が白熱する事もあったが、それを黙って見守っていた教師も頻りにメモを取って興味深そうにしていた。レオンの頭の中の膨大な知識に舌を巻き、感心している。


「やれやれ。どちらが教わっているのか分かりませんな」


 定年退職前といった年齢のベテラン教師が軽口を叩くと、レオンも謙遜しながら笑う。


「私などまだまだ若輩者ですよ」


「いえ、とても勉強になりました」


 マナミリュ殿下も感銘を受けたように頬を上気させていた。





 昼食は高位貴族専用の食堂で摂るようにしていたが、そこへの移動中、不意にサールがレオンを呼び止めた。


「レオン、右に行きましょう」


 ちなみにレオンが『殿下』呼びも『様』づけも禁止して、徹底的に呼び捨てにするよう強要したので、サールは何とか慣れてきたところだ。伯爵子息二人組という身分を称するには必要なきまりだ。

 モルフとアルデは様づけでも構わないのでサール限定。敬語はどうしても取れないので、タメ口を鋭意努力中である。


 マナミリュ殿下にも、もっと気安く話そうと言ってある。敬語は丁寧だが、距離を感じるのも確かだ。


 レオンがマナミリュ殿下を誘導する。


「殿下、右に曲がるよ」


「うん」


 最初のうちは次の教室への最適な道を、どうして遠回りするのか不思議がっていたマナミリュ殿下も、後で見張りの者から男爵令嬢の行動を聞いて驚いていた。迂回する前の経路には、漏れなく出現していたと。


「サール殿はあれの行動が分かるのか?」


「そういう訳ではありませんが、危機回避能力が高いのです。内緒です」


「あぁ、なるほど」


 安易に口に出来ない特殊な特性持ちは、割といる。マナミリュ殿下はそれから追及するのをやめてくれた。


 男爵令嬢は高位貴族専用の食堂は利用出来ない。

 それに関しても差別だ酷いと騒いだらしいが、高位貴族の寄付金で建てて運用している施設を他の者が使える筈がない。

 そう説明されても納得いかない様子だったらしいが、とりあえずそこへ無理に押し入ろうとするのはやめた。


 取り巻き達は男爵令嬢に付き合って一般食堂を利用しているので、昼休憩の間は平和だ。

 それでもたまにマナミリュ殿下が食堂へ出入りするのを狙って来るらしく、油断は出来ない。


 昼休憩は90分。

 食事を終えた後も少し時間にゆとりがあるので、午後の授業開始まで食堂でまったりする者が多い。


 最初のうちは王太子と同席している留学生の一行を他の生徒達は遠巻きにするだけだったが、今日はミナミ嬢が一組の男女を連れて来た。


 その男子生徒を見てマナミリュ殿下が目を細め、ミナミ嬢が口を開く。


「休憩中に失礼します。殿下、リュンデ嬢が話があるそうです」


 紹介された令嬢はさっと足を引いて、軽く頭を下げた。

 学校内ではこのような簡易的な礼で通っているようだ。思えば初対面の時のミナミ嬢もそうだった。

 レオンは本当の身分を隠す為に咄嗟にやったが正解だったらしい。


「リュンデ侯爵令嬢。隣にいる男とは喧嘩中ではなかったか?」

 

 マナミリュ殿下が皮肉っぽく言うと、リュンデ嬢は苦笑した。


「つい先日までは婚約破棄すると息巻いておりましたが、どうやら踏み止まったようです」


 他人事のように言ったリュンデ嬢は、隣で縮こまっている男を前に押し出した。


「ご自分の言葉で謝罪なさい。どれだけ殿下に心痛を与えたと思っているのです」


 男は俯いて震えていたが、マナミリュ殿下の突き刺さるような視線に堪えられなかったのか、がばっとその場で土下座した。


「殿下、申し訳ございませんっ!」


「………………」


 レオンはこのような人目がある場所でいいのかと思ったが、ミナミ嬢とリュンデ嬢が堂々としているので、わざとこのやりとりを他の生徒に聞かせようとしているのだと悟った。


 レオン達は黙って見守る事にした。

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