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お出掛け2

 まずは言い出しっぺの第一王子が試食しようとしたら、モルフが毒味をすると言って止めた。

 恐々と、まるで毒を食べるみたいに意を決して唐揚げを口に入れたモルフの目は、真ん丸く見開かれた。


「美味しい……です」


「だろう?」


「初めての食感……歯ごたえがあって、噛めば噛むほど味が出てくると言いますか……」


「うん。美味い。みんなもどうぞ」


 第一王子が促すと、サールが嬉しそうに自分の皿に取った。唐揚げとマリネを両方食べて、美味い美味いと目尻を下げる。


 その反応を見て、アルデ、シーラと護衛騎士、執事と料理人達、全員が恐る恐る口にした。

 みんな大きく目を瞠り、信じられないという風に料理後の蛸を見下ろす。


 第一王子とサールが次々と取り分けて食べていると、どんどん手が伸びてきて、あっという間に二つの大皿は空になった。


「美味かったな!」


「美味しかったですね!」


 第一王子とサールは大満足して笑い合う。


 モルフやシーラ、執事に料理人達もそれぞれ感想を口にしていた。


「初めての食感ですが、何と言いますか、癖になるというか……」


「そうですね。酢漬けの方は野菜と一緒に食べると食感の違いが口の中でいい感じに……」


「あの見た目の物がこういう料理になるとは……」


「酒のつまみに丁度いい感じがします」


「うん。唐揚げのコリコリした歯応えもいい」


「これが捨てられている食材なのか」


「勿体ないな」


 最初の敬遠ぶりが嘘のように、蛸料理は好評だった。一人くらいは苦手なだ人がいるだろうと思っていたが、全員が高評価だ。

 どうやら本当に駄目な人は口にしなかったようだ。最初の見た目があれだから生理的に受け付けなくても仕方がない。


 執事が港町に買い付けに行く相談を始めたところで、第一王子はキャラグ侯爵家を後にした。



 ◆


 

 蛸料理を堪能したサールは目的を果たしたので、これからどうしようかと思案する前に、恐ろしい形相のモルフに確保された。


「王宮にいらして下さいますね? よかった。さあ、どうぞどうぞ、中へ。アルデも乗って。はい、行きますよ」


 問答無用だった。


 第一王子の護衛のシーラや騎士達も当然のように馬車の扉を開けて、両側に陣取って囲い、その道しか歩くのを許さないという風に誘導していた。


 流されるまま歩いたサールは、気付いたら馬車の中にいた。第一王子とモルフ、アルデと一緒に揺られている。


 馬車の中でモルフが説明する。


「殿下に用事がある時、王都に立ち寄った時などは、キャラグ侯爵家を訪ねるようお願いしていたのですよ。サール殿が現れたら必ず執事に話を通すように、門番にも徹底しておきました」


「そうだったのか」


 第一王子が感心している。


「サール殿、お願いがあります」 


 改まった様子のモルフに頭を下げられて、サールは首を傾げる。


「どうしました?」


「どうかしばらく王宮に滞在して頂けないでしょうか? 殿下が寂しがって寂しがって、見ていられないのです」


「え?」


「モルフ……私の目の前で言うのか」


「とても、と~っても大事な事なので!」


 第一王子は眉を下げて情けない顔をしている。顔を背けて窓の外に目をやり、窓枠に肘をついて居心地悪そうに片手で顔を隠している。


 モルフは怖いくらい真顔で真剣だ。


「お願いします。本当に切実なのです。どこかへ向かう予定がございますか? 次の目的地はもう決めていましたか?」


「いいえ。山からの美しい景色と壮大な海を見たので満足したところです。旅生活は自由ですが、落ち着かないのも事実。これからどうしようかと思ってました」


「それならば王宮に滞在して頂いてもよろしいですか?」


「はい。予定はないので大丈夫ですよ」


「ありがとうございますっ!」


 感激するモルフに両手を取られて感謝された。

 サールは大袈裟だなと笑ったが、第一王子の王子宮に馬車が止まると、執事や使用人達が大勢で出迎えてくれて、みんながサールを拝むような仕草をした。


「よくぞお戻りになられました」

「サール様、ありがとうございますっ」


 中には涙ぐんでいる人もいて、サールは戸惑う。モルフにさあさあと促されて、前回滞在した部屋に招き入れられた。


 アルデと一緒に荷解きをしながらゆっくりしていたら、夕食に呼ばれた。食堂に行ったら、国王と王妃、第二王子が次々とやって来た。


「サール殿、よくぞ戻ってくれた! ゆっくりしていってくれ! ずーっと、ながーく逗留していってくれて構わないからな!」


「は、はいっ」


 国王の剣幕に目を白黒させているサールを、みんなが笑顔で微笑ましく見守っている。

 彼等はここで一緒に食事を摂る訳ではないらしく、サールの手を両手で握ってぶんぶん握手すると、爽やかな笑顔を残して立ち去った。サールにそれを言う為だけに来てくれたらしい。


 戸惑うサールを前に、第一王子だけ苦笑していた。

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