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芋蔓

 それからはスピード勝負だった。


 第三騎士団が集団で移動するだけで目立つ。具体的に何が起きたか詳細まで伝わらないだろうが、後ろ暗いところがある者は、ブザンソン侯爵家に手入れが入ったと聞いただけで証拠を隠滅するだろう。


 第一王子は回収した書類の山から、共犯者に関する物を優先して調べさせた。

 やはりと言うか、第三騎士団の中に裏切者がいたのが判明した。何度も取引現場を押さえようと突入したのに、空振りしたのは事前に情報が流れていたせいだ。


 実のところ怪しげな者は二人ほどいて、事前にマークしていた。給料の割に羽振りがよく、団員達から怪しまれていたのだ。

 裏切者はこんな二人と断言したのはサールだ。これこれこんな特徴と告げると、団長は苦虫を噛み潰したような渋面になった。

 その二人は今回の手入れの情報を流さずに休暇を与えて隔離し、見張りをつけておいた。


 そしてブザンソン侯爵があちこちに分散して保管していた書類から、確実な証拠が見付かった。情報料として多額の謝礼を受け取っていて、その名前と金額まできちんと記入されていたのだ。すぐに逮捕された。


 ブザンソン侯爵は書類に関してマメだったらしい。だから長年、続けられたのだろう。

 決定的な書類は何かの時の保険になるし、脅迫にも使える。命令に抗う貴族を強制的に従わせる力を持つ。

 その辺を見据えて、家令がしっかり管理していたのかもしれない。


「一気に叩くぞ」


 奴隷を売っていた商人、買っていた貴族、協力していた共犯者達を根こそぎ逮捕していく。

 証拠があるので動きは素早い。


 そしてその中にはサールの父、キリディングス伯爵の名前もあったのだった。





 しかしそこは小物というか、大それた事はしていなかった。奴隷売買だと知らずに便宜を図ったり、手を貸したりしている。


 元々、平民の命などゴミ扱いするような人間だから、細かな余罪がボロボロ出て来る。報酬がいいので言われるまま手伝っていたようだ。

 ブザンソン侯爵もそこまで信用していなかったのか、大きな仕事を任せていない。しかしそれでも罪は罪。当然逮捕される。家はお取り潰しだ。


 サールはキリディングス家の逮捕現場には立ち合わなかったが、きな臭い書類がある場所は騎士団に伝えておいた。


 後で聞いたところによると、伯爵は愕然とし、本妻は真っ白になり、姉は泣いて暴れたそうだ。


「何でっ!! 何でよ!!」


 驚いた事に、拘束した伯爵を連行する騎士団員に、姉は掴みかかったらしい。しかしすぐに後ろ手に捻り上げられ悲鳴を上げたという。

 それでも泣いて暴れたそうで、縛り上げられて王宮の地下牢に入れられたそうだ。


「姉は夫が迎えに来たのですぐに解放されたが、夫の実家も犯罪行為が明らかになっていた。そちらは取り潰しとまではいかなかったが、当主は厳重注意と罰金刑を食らった。当主は嫡男に代替わりし、弟夫婦を引き取るつもりはないそうだ」


 学校でいきなり殴ってきたあの暴力男にも、影響が及んだようだ。


「キリディングス伯爵の本妻も実家から引き取りを断られ、田舎の修道院に入るとか、入らないとか。彼等はもう貴族ではない。居場所を失った本妻と姉夫妻がどこへ身を寄せるのかは分からないな」


「はあ。大変ですね」


「……まあ、どうでもいい他人だな」


 第一王子の声は冷たい。

 サールだって同じ境遇だった。突然放逐されて路頭に迷いかけた。サールがそうならなかったのは事前に準備をしていたからだ。


 違法だと知りながらブザンソン侯爵を手伝っていた伯爵は自業自得。

 あれだけ平民を見下してきた義母と義姉はこれからどう生きておいくのか……それはサールの知った事ではなかった。




 結局、ブザンソン侯爵に連なっていた貴族が軒並み捕まり、たくさんの家が取り潰しになった。

 第一王子は予測していたようだが、国王にとっては予想外に多かったらしく、泣き言を言われたという。


「だから事前に許可を求めたのにな。父上も甘い」


 第一王子はカラカラと笑っていた。


 取り潰した家から没収した領地に、新たな領主を決めなければならない。隣接する領主が余裕があれば併合するのだが、広すぎると手に余る。税金も高くなるので、ほとんどの領主はすんなりと受け取らない。要相談で、期間限定で王領にするという手もある。


 連日、高位貴族が集まって会議をしているそうだ。宰相もげっそりしていたと、第一王子は笑った。


「要らないというのに、公爵領を押し付けられそうだ」


 第一王子のぼやきに、サールは苦笑する。


「先々の話、公爵になるのですか?」


「そうなりそうだ。弟の為にも早めに臣下に下って、立場を明確にしておくいた方がよさそうだ。でもしばらくは自由にさせて貰う」


「自由に? まだ何かやりたい事が?」


「とりあえず解放できた奴隷達が自活出来るよう道筋を作る。奴等から没収した資産をばら撒いてやる。搾取されてきた人への補償だ。それについてはサールが開発した稲作を広めたいと思うのだが、構わないだろうか」


「稲作を?」


「散々、怖い目に遭ってきた人達は、都会よりも田舎暮らしを好むだろう。しかし田舎は排他的で、余所者を警戒する。それならば彼等だけの集落を作り、彼等だけで自活できる村を作った方が早い。幸い、資金はたんまりあるし、稲作を大々的に広めたいという目的もある。食糧事情に乏しい地方にも広めて、この国で飢える人をなくしたい」


「そうですね。こちらの稲は水さえあればどんどん育ちますから。美味しいですし」


「そうだモルフ! 買い付けに行った使者は戻って来たのか?」


 ぐりんと頭を回転させた第一王子は、静かに控えるモルフに問う。


 モルフは苦笑していた。


「今朝、帰還しましたよ」


「早く言え!」


 第一王子はサールとモルフを急き立てて厨房へ案内させた。


 王子宮の厨房で働く者達がパニックになったのは言うまでもない。

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