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立ち入り調査

「これはこれは……突然、どういう事ですかな?」


 ブザンソン侯爵家に予告なく現れたのは、第三騎士団の黒い制服を着た男達。

 その先頭にいるのは第三騎士団の団長と、煌びやかな衣装を身に纏った派手な若い男。


 数台もの馬車でいきなり王都屋敷に乗り込んで来た軍団を出迎えたのは、侯爵家の家令だった。内心の焦りを押し隠し、表面上は穏やかに迎え入れる。


 団長服の外套を羽織った男が、書類を目の前で広げて見せた。


「強制立ち入り調査である。今回は特別に第一王子レオン殿下自ら足を運ばれている。書類はここに。ブザンソン侯爵は在宅か」


「だ、第一王子殿下……?」


 家令は顔色を変えた。

 この国の第一王子と言えば、幼い頃から病弱で、そろそろだと噂されている人物だ。当然、社交などしていない、高位貴族ですらその顔を知らない。


 偽物かと一瞬、頭を過った家令だったが、その若者を目の前にしては跪かずにいられなかった。


 ベージュと茶色という地味な色合いながら、金色の糸の刺繍を施された豪華な衣装。間近で見なければ分からないほど緻密だ。

 第三騎士団の黒と別だと主張するよう、あえてその衣装なのだと、家令には分かった。問答無用で頭が下がったのは、それだけの気品を肌で感じ取ったからだ。


「繰り返す。第一王子殿下のお越しである。ブザンソン侯爵は在宅か!」


「は、はい、ただいま呼んで参りますっ!」


 使用人達が続々と集まってくる中、家令は焦燥に駆られた。とんでもない事が起こると感じ、総毛立った。





 ブザンソン侯爵は中々登場しなかったが、第一王子は構わなかった。第三騎士団の制服を着て紛れている隣のサールに、どこを調べればいいのか小声で尋ねる。


「南棟の二階、奥さんのドレス部屋の一番奥の床に隠し扉があって、そこに。もう一つ、東棟の使用人部屋……家令の部屋の執務机、右側の引き出しが二重底になっていて、そこにもある。その二つは鍵がかかってるけど簡単に壊せる。後は……別館? 離れ? そこの主寝室の枕元の隠し金庫の中にもある。そこのは頑丈だから鍵が必要。……長い年月の悪事の書類だから多いみたい。分散して用心していたようだけれど無駄だね」


 第三騎士団の団長はそれを聞くと、部下に指示を出した。使用人が抵抗したら拘束するようにと念を押す。


 バタバタと人が動き回る気配を感じて、ようやくブザンソン侯爵が現れた。


「何事だ! 無礼な!」


 団長が第一王子の一歩前に出て、先ほどの口上を繰り返す。

 怒りで真っ赤な顔をしていたブザンソン侯爵は、ここにいるのが第一王子だと聞くと、疑わしい顔付きになった。


「ブザンソン侯爵とその家族、屋敷にいる者を全てをここに集めるように」


 第一王子の指示で残っていた第三騎士団員が動き、ブザンソン侯爵は顔色を変えた。


「な、何を根拠に! 突然やって来て何をしておいでか!」


「調査が終わるまでの一時的なものだ。問題なければ解放する」


「いくら殿下とはいえ、あ、あまりに乱暴な! 抗議させて頂きますぞ!」


「どうぞ」


 余裕を見せる第一王子に、ブザンソン侯爵は言葉を失う。両腕を左右から掴まれて反射的に抵抗したが、武人の力には叶わない。


 騒ぎが大きくなり、侯爵家の家族も連れて来られて使用人達と一塊にされた。部屋の隅に追いやられた人達、みんな蒼白だ。

 その周囲を騎士団員が囲む。


「抵抗すれば縄で縛る。大人しくしているように」


 しばらくして、騎士団員が大量の書類を手に戻って来た。


「団長! ありました!」


「こちらもありました! 数十年前からの書類です! 凄い量ですよ!」


「そうか」


 隠し帳簿を目の前に晒されて、ブザンソン侯爵は愕然としている。どうして場所を……と無意識に漏らしていた。

 団長は侯爵の目の前で帳簿をパラパラと捲り、ここだと第一王子に見せて指を差す。


「確定だな」


 第一王子の一声で、ブザンソン侯爵は後ろ手で縛られ拘束された。


「別館の隠し金庫は侯爵でなければ開けられないだろう。連れて行け」


「はいっ」


「何故だ! 何故知っている!」


 喚き出した侯爵は連行されて、屋敷にいた者は全員拘束された。調査が進み、裏稼業と無関係だと判明すれば解放すると説明する。


 妻と子供達の関与はまだ分からない。身を寄せ合いながら青い顔で震えているが、世の中にはサールの姉のような人間もいるのだ。子供だからと例外を作ってはいけない。

 そして家令は真っ黒だろう。使用人の中にもちらほら怪しい者が混じっている。隙を突いて逃げ出そうとした下男が拘束された。


 後は騎士団に任せる。書類の精査も専門家に任せて、芋蔓式に共犯者を捕まえる予定だ。


「書類の解析を急ぐように。この逮捕の情報が漏れる前に一網打尽にする」


「お任せ下さい」


 長年の悪事の証拠をようやく掴み、嬉しそうな団長が力強く胸を叩く。


 狙い通り望んだ成果を上げられた第一王子は満足げに微笑んでいる。

 サールとモルフ、アルデも一足先にその場を後にした。

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