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謁見

 第一王子はサールを伴って国王との面会に臨んだ。玉座がある謁見の間ではなく、小さめの応接間のような部屋だ。


 部屋には国王と王妃、第二王子が同席している。あとはサールとアデル、モルフだけだ。他の侍従は全て下がらせた。


「こちらが命の恩人、サール殿です。キリディングス伯爵家から廃嫡されたので今の身分は平民ですが、本人の同意を得られたのでキャラグ侯爵家の養子になって貰い、貴族の身分を復活したいと思っております」


 事前にサールはその話を受けていた。

 冒険者として旅生活に戻るにしても、何の後ろ盾もない平民よりは貴族の肩書きがあった方が安全だと説得された。

 サールはどちらでもよかったが、アルデの強い勧めで受ける事にした。


 ちなみにキャラグ侯爵家というのはモルフの実家だ。モルフは三男で第一王子の側近をしていて、父親が現在の当主。嫡男が次期当主になる予定だそうだ。

 彼等の了承も既に得ていると聞いた。いま書類の準備中らしい。つまり書類上モルフの弟になる。


 第一王子の隣で他人事のような顔をして佇むサールを、国王達は繁々と観察する。

 伯爵家を放逐された頃よりもきちんと食事を摂れるようになったものの、まだ痩せていて背も低い。十四歳だというが、とてもそうは見えない。元々童顔だ。日に焼けているので健康そうではある。


 居心地悪そうに身を縮める少年に向かって、国王が頭を下げた。


「君のお陰でレオンが助かった。ハーメルから奇跡だと聞いた。本当にありがとう。礼を言う」


 非公式な場とはいえ、国王からの直言にサールは面食らう。


「あの、いえ、とんでもないです。はい……」


「レオン、この前の話の続きだと思っていたが、この場に彼を同席させるという事は、彼にも関連するのだろうか?」


「はい」


 第一王子は優雅に微笑んでいる。


「私には前世の記憶があります。以前の世界ではたくさんの国がありました。平和な国がある傍らで、絶えず戦争をしている国もありました」


「うむ」


「私が生きていた国は……時代は豊かで穏やかでした。だからこそ、この国のあり方でどうしても看過できない問題があるのです」


「問題?」


「奴隷売買です」


 第一王子の強い言葉に、全員の背筋が伸びる。部屋の緊張感が一気に高まった。


「この国でも祖父王の代で禁止されました。しかし法でそう定められていても未だに奴隷商人がいて、買う貴族、豪商がいます。私はどうしてもそれが許せない」


「ふむ、なるほどな」


 納得したような表情で、国王が身を乗り出した。


「ほとんど王宮で過ごしてきた私の耳にも入るほどです。取り締まる第三騎士団の目を掻い潜り、横行しているのでしょう。貴族の後ろ盾を持つ商人もいるかもしれません。もしかしたら高位貴族の中にも、それで懐を潤す者がいるかもしれません」


「その取り締まりを自らしようと言うのか?」


「はい。サールの手を借りれられるのであれば、確実に証拠を押さえられると確信しております」


「凄い自信だな」


「はい。一時的に第三騎士団を指揮する権限を下さい」


「反対する理由はないが、やけに慎重に話を進めている様子。何かあるのか?」


「これは私の個人的な想像でしかないのですが、今後の政治に影響を及ぼすほどの逮捕者を出すかもしれません」


 国王は片方の眉を上げた。


「……下調べでそう出ているのか?」


「はい。相手が巧妙で、これまで証拠を確保出来なかったと第三騎士団の団長から報告を受けております。警備隊の中にも裏切者がいるようです」


「第三騎士団の団長は潔白か?」


「身上調査の結果では大丈夫です。万が一、団長が裏切者でも、今回はサールの手を借りて言い逃れの出来ない完璧な証拠を押さえたいと思います」


「ふむ。やってみよ」


「ありがとうございます。もし失敗したら全て私の責任という事で押し切って下さい。元々、死にかけていたお陰で、政治的に失う立場もございませんので」


 ふむ、と面白がるように口角を上げた国王から許可が出たので、第一王子は満足げに微笑んだ。


 そのやりとりを見守っていた王妃と第二王子は不安そうに眉を寄せている。


 部屋を退出すると、第二王子が追いかけてきた。


「兄上、奴隷商人の元締めの見当がついているのですね? 誰なのか伺ってもよろしいですか?」


「今は聞かない方がいいだろう。どうせすぐに分かる。高位貴族達を混乱させるし、その後始末に大わらわになるだろうが、すまない。どうしてもゴミのように扱われる人が、この国にいるのが許せないのだ」


 強い言葉に、第二王子は目を瞠った。そして感銘を受けたように胸に手を当てて、くしゃりと微笑んだ。


「兄上のよろしいように。後始末は父上に任せましょう」


「頼んだよ」


 微笑み合う兄弟を見て、サールは仲がいいなと感心する。自分の姉がアレだったので軽く驚愕してしまう。


「さて。サール頼みの作戦なのだが、心の準備は大丈夫かな?」


「はい」


 廊下を歩きながら言う第一王子に、サールも微笑み返した。


「私も奴隷という言葉が嫌いです。徹底的にやってやりましょう」


「おう、その意気だ」


 二人はこの瞬間、意気投合した。

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