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ようやく

「サール様! サール様! ようやく会えました! 探しましたよ! 間に合ってよかった!」


 見慣れない冒険者みたいな服装のアルデ。

 そのアルデの見た事のない興奮状態に目を白黒させていたら、もう一人の冒険者がサールの前に来た。そしてさっと跪く。


「サール・キリディングス殿、私は第一王子直属の侍従、モルフ・キャラグと申します。訳あってずっとあなたをお探ししておりました。どうかお力をお貸し下さい」


「………………一体、何事ですか?」


 困惑するサールの前に、別の大柄な冒険者がやって来た。


「第一王子の侍従だと?」


 こちらは本物の冒険者らしい。

 チームらしき男女に盗賊の後始末を任せて一人だけ前に出て来た男は、屈み込んでサールの顔を覗き込んできた。


「ああ、やっぱりあの時の坊主だ。お礼を言いたかったんだ。会えてよかった」


「ええと……?」


「俺はA級冒険者のジョセフだ。以前、原因不明の毒で足を腫らしていた仲間を、解毒効果のある中級回復薬で救って貰った。あの薬がなかったら本当に危なかった」


「ああ、あの時の」


「改めて礼を言う。ありがとう」


「いえ。お役に立ててよかったです」


 でもどうして彼等がアルデと一緒に?

 

 疑問が顔に出ていたのか、アルデが説明してくれる。


「サール様を探して東の果ての村に辿り着いたのですが、既に出立された後でした。しかしその後の痕跡は結構残されていて……ここの麓の町で貴重な薬草を納品したり、ギルド職員に山について尋ねたりしましたね?」


「うん」


「冒険者ギルドで聞き込みをしていたら『その坊主を知っている』とジョセフ様が現れて。自分も探しているから同行したいと仰ったのです」


「その出会いは偶然でしたが、まさかここに盗賊がいるとは思いませんでした。南担当の騎士はこちらに向かっている最中で、まだ合流していなかったので本当に助かりました。私も一応剣術を学んでおりますが、これだけの人数を相手に出来ません。間に合ってよかった。もし一日でもずれていたら……サール殿を失っていたら……取り返しのつかない事態になるところでした」


 今更のようにモルフが青ざめている隣で、アルデが頷いている。


「確かに偶然の出会いでしたが、もしかしたらサール様の『運』に引き寄せられたのかもしれません。……山奥の集落が盗賊に襲われる。そこへ向かう直前にA級冒険者と出会う。しかも彼等はサール様と面識がある。これだけの偶然が重なるなんて本当に偶然なのでしょうか?」


「ああ、そうか。『運』か……」


 アルデの言葉に、モルフは改めて強い特性の力を実感したようだ。感銘を受けたようにサールを見詰めてくる。


 そこへ集落を代表してマノリがやって来た。


「A級なんて偉い冒険者さんがこんな辺鄙な所まで……本当に助かった。ありがとうよ。しかしそんなに必死になって探していたのかい? この坊主を?」


「かけがえのない大切な人です」


「んんんん????」


「事情をお話します」


 ジョセフはチームの元へ戻って行き、老人達と盗賊の骸をどうするか相談を始めた。

 鍬や戸板などの道具を手に、老人達と村の外へ姿を消す。生き残りは一人もいない。全員、集落の外に埋めるのだろう。


 モルフはサールとアルデを連れて小屋に入った。


 そこでようやく気付く。特性を無視したせいの痛みが消えている。危機が去ったからなくなったようだ。

 サールはほっと息を吐いて、二人に煮沸した湧き水を渡した。


 そしてサールが去った後の、王都で起きた出来事を聞く。


 あの試験で提出した薬が『命の霊薬』だったこと。試験の不正が暴かれたこと。第一王子がその薬を必要としていること。おそらくその薬の原料リュサを入手できるのはサールしかいないということ。


「なるほど……」


「着いたばかりで申し訳ないのですが、一刻を争う事態なのです。すぐに旅立ちの準備をして同行して頂けますでしょうか?」


「そうだね。米の収穫はしたかったけど、そんな事情ならしようがないね。マノリ爺さんに説明しておくか。採れた物は食べて貰っても構わないんだけど……説明だけでは難しいかな。大丈夫かな? まあ保存出来るし、また戻って来ればいいし……」


「収穫……」


 サールはマノリに刈り取りを頼んでおいた。お粥を気に入った別の老人が「任せておけ」と胸を叩く。


「食べられるまで手がかかるけど、食べてもいいよ。手順を説明しておくね。刈り取った物を下向きに干しておくと熟成して美味しくなるから、それでもいいよ」


「坊主、ここに帰って来るつもりなのか?」


「どうなるか分からないけど、一度は様子を見に戻るつもり」


「そうか。分かった」


 



 老人達と別れて、冒険者チームと一緒に山を下る。モルフはチームに王都までの護衛を依頼したようだ。

 サール捜索には懸賞金が出ていたので、盗賊討伐とは別にその支払いもあるという。有力な情報を提供してくれた宿屋の主人にも支払われるのだそうだ。


 モルフが魔道具の小鳥でサール発見の報告すると、すぐに返事が返ってきた。

 小鳥から聞こえる低い男性の声は鬼気迫るものがあり、一刻を争うという実感が湧いた。

 リュサ以外に必要な物は全て揃えるから、何としてもリュサの採取を頼むという伝言。


 他の材料も手に入れにくいが、確かにリュサは難易度が相当高い。サールでも焔ドラゴンの縄張りに入れるのは、とても僅かな時間だ。少しでもずれると焔ドラゴンの餌食になってしまう。

 しかも岩場だらけの土地に、リュサが自生しているのは奇跡のようなもの。その場所を最初から知っていないと無理だ。

 サールは『勘』が教えてくれるので採取できる。いくら腕の立つ騎士でも不可能。この仕事はサールにしか出来ない。


 なるほど。騎士を動員して半年以上かけても諦めずにサールを探す訳だ。サールはのほほんと旅をしていたが、まさかそんな事になっているとは思わなかった。


 一番近くの町に入った途端、日が暮れたので宿屋に落ち着く。

 山登りは徒歩だったので馬を預けていたそうだ。


「第一王子殿下は素晴らしい方なのです。病弱でさえなければ立派な王太子に……。いえ、すみません。どうか……どうかお助け下さい」


 部屋で一息ついた時、モルフに改めて懇願された。


 モルフは第一王子の乳兄弟だという。幼い頃から一緒に育った間柄なら、こんなに必死になるのも頷ける。


 サールは笑顔を返した。


「きっと大丈夫ですよ。間に合います。そんな気がするんです」

 

 それを聞いたアルデが嬉しそうに破顔した。


「そんな『気がする』んですね? よかったです」


「うん。それとモルフ様、僕は平民なので敬語はやめて下さいね」


 にっこり笑うサールを、モルフは気の抜けたような表情で見詰める。


 それを見ていたジョセフは、感心したように呟いた。 


「やっぱり坊主は普通の薬師ではなんだな。王宮に呼ばれるなんて余程の事だ。本当にルリは運がよかった」


 あの時、胡散臭い薬だと怒鳴った剣士が居心地悪そうに身を竦ませている。


 その横でルリは改めてサールの手を取り、ありがとうと頭を下げたのだった。

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