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追放

 サールは伯爵子息だが私生児だ。父親が屋敷で下働きをしていた母を襲って生まれた。


 本妻との間には女の子一人しかいなかったので、サールはもしもの時の予備として王都屋敷の片隅の小屋で育てられた。

 元々庭師の道具小屋だった所で、粗末な小屋で母親と肩を寄せ合うように生きていた。


 学校へ入ってすぐに流行病で母を亡くし、学校の寮で暮らしていたが、一つの科目でも落第したと父が知れば退学させられてしまうだろう。

 サールは寮に帰り、無言で荷物を纏める。元々最低限の荷物しかないので、すぐに部屋は空っぽになった。 


 重い足取りで生まれ育った屋敷へ向いながら、落第しなかったとしても退学させられたかもしれないな……と思い至った。


 姉は今回、高等部を卒業する。婚約者との結婚式も今年中にはつつがなく執り行われるだろう。

 キリディングス伯爵家の次期当主は、姉の婚約者が内定している。女性でも当主になる事は可能だが、姉にはその能力がないと父が判断したらしい。だから格上の侯爵家の三男との婚約が整った。

 

 それまで予備としての存在だったサールは必要なくなる。家からも追い出されるかもしれない。


 その予感は的中した。





 辻馬車も使わずにゆっくり歩いたサールが王都屋敷に到着したのは、夕暮れ時だった。

 玄関で待ち構えていた執事に捕まり、父の執務室へ連行される。そこにはにやにやと笑う姉と姉の婚約者の姿もあった。


「薬学科の単位を落としたそうだな」


 ふんっと鼻息荒く、父が言う。

 でっぷりと太った父は騎士の家系が自慢の筈だが、自分の体型は問題にしないらしい。見る度に厚みを増していく二重顎と腹に目を奪われていると、執務机の前のソファで寛いでいる姉が嘲笑した。


「中等部で落第なんて聞いた事がない。恥ずかしいわ。こんなのが弟だなんて」


 おそらく落第を聞きつけて父に進言したのは姉なのだろう。

 サールは無表情のまま呆れた。


 学校へ入学してすぐに、サールはキリディングス伯爵家の私生児で、とんでもない悪童という噂が広まっているのを知った。


 広めたのは一人しかいない。


 恥ずかしい弟なら黙って他人の振りをしていればいいものを、嘘ばかりの悪評を広めて、同級生や教師からも遠巻きにされ虐げられるサールを見て愉しんでいたようだ。姉は加虐趣味があるので、思うように甚振れる立場の弱い弟は格好の餌食だった。


 薬学科の教師があのような態度だったのは、サールの身分が半分平民だからというのもあった。姉の婚約者も似ている。そういう傾向の者は集まってくるのだと知った。


「お前は除籍する。今すぐ出て行け」


 面倒くさそうに父が宣言し、執事に促された。

 予想通りだったのでサールは素直に従い、寮から下げていた鞄一つという身軽さで門から出て行く。


 最後に一つ、執事に訊いてみた。


「アルデは留守ですか?」


「……遣いに出している」


「そうですか」


 最後にアルデだけには挨拶しておきたかったが、どうやらそれは無理のようだ。

 ガシャンと音を立てて門を閉められた。


 サールは軽く肩を回すと、日が暮れそうな王都の街へ向かって歩き出した。

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