捜索2
一方その頃、サール捜索に乗り出したアルデとモルフの旅は難航していた。
どこのギルドにも貴重な薬草を売買した記録がなく、手がかりが何も得られなかったからだ。
追放したというのに伯爵家もサール捜索に乗り出したらしいと、小鳥から情報が入った。今更ながらにサールの利用価値を知り、国王からの叱責に慌てふためいたに違いない。
しかし彼等には絶対に見付からないという確信が、アルデにはある。
「もしかしたら私がキリディングス伯爵家の関係者だと見なされて、それで排除されている可能性も……」
アルデが沈痛な面持ちで呟くと、モルフは首を捻る。
「どういう意味だ?」
「サール様の『勘』は敵と見なした相手にも働くのです。私が伯爵家で見てきたのは、お嬢様の暴力から上手に逃れるサール様でした」
「姉からの暴力……」
「はい。酷いものでした。貴族というものは、あのような幼い頃から残虐に振る舞うものなのだと子供ながらにとても怖かったです。下女として働いていた母が病気がちになって辞め、その薬代の為に私は辞める訳にはいかなかった。いかにも無邪気そうな可愛らしいお嬢様が、楽しそうに笑いながら木の棒を振るう姿には震え上がりました」
モルフの顔が嫌そうに歪む。
「キリディングス伯爵家の令嬢はそんな激しい気性なのか」
「はい。見た目は美しいですが、中身は大きくなっても変わりません。むしろよく似た婚約者を得て、更に極悪になったような感じです。屋敷の使用人達はお嬢様が学校へ上がって接する時間が減り、とても安堵していましたが、サール様は学校でも寮でも苦労されていると聞きました」
ちなみに姉とは違いサールが寮に放り込まれたのは、姉が登下校の馬車同乗を嫌がったからだ。サールの為に馬車を一台用意するのも拒否した。
かといって一応伯爵子息であるサールが徒歩で通学するのにも難色を示した。外面を気にする伯爵に寮に放り込まれたのだ。
「そうか」
「サール様の『勘』は本当に凄いのです。お嬢様が小屋へ来る前に『何となく』察して姿を隠します。小さい時は殴られ放題だったのが、成長するにつれて逃げおおせる確率が上がりました。何度、悔しそうなお嬢様を見たか分かりません。本当に、何の前触れもないのに分かるのです。あれは本当に不思議でした」
「そうか。でもアルデから逃げる理由はないだろう?」
「そう思いたいですが、表立って助けられる立場ではなかったので、サール様の本心は今でも分からないままです。私も慕っていると打ち明けた事はありませんでした」
「サールは味方だと思っているよ。大丈夫だ」
「だといいのですが……」
アルデはもう少し、手がかりらしきものが残されていると思っていた。人ひとりの痕跡は、そう簡単に消えるものではない。
何より、サール自身は自分が探されている事を知らない。隠れようという意識がない筈だ。
だからもっと行く先々で痕跡を残すと思っていた。
旅費の為に高価で珍しい薬草を売ったり、薬を調合して売ったり。冒険者ギルドや商業ギルド、薬屋など、サールが立ち寄りそうな場所は徹底的に探した。しかし何もない。
アルデとモルフは王都から見て東へ来ているが、北、西、南に向かった別働隊も同じだった。
魔道具の小鳥は頻繁に行き来しているが、めぼしい情報は入らない。
「一体どこへ……」
「ともかく地道に冒険者ギルドと薬屋を訪ね歩くしかないだろう」
「そうですね」
十箇所以上の町を移動し、宿に入る。定時連絡の小鳥を返して、冒険者ギルドと薬屋に行った。やはりこの町でも成果はない。
もうすぐ日が暮れるという時間帯だったが、通りには人が多く行き交っている。
どうやら大道芸でもしているらしく、おおっという歓声と拍手が聞こえる。
「俺は下手だからあまり続かないな。もっと上手い人がいるんだが」
「いや、上手だったよ?」
「ありがとう! 最近はずっと練習してるんだ」
人垣の間から覗き込んでみたら、行商人の男が黄色の実を蹴っている。自分の目の前に蹴り上げて、落ちてきたそれをまた蹴り上げて、という遊戯をしている。
「固そうな実だが、痛くないのか?」
「全然、痛くないよ。中が空洞で、そういう実なんだ」
なるほど珍しい。
「……ちょいとそこの人、相手になってくれよ」
「相手?」
「こう、向かい合ってだな」
男は一人遊戯をやめて、見学していた男の対面に立った。
今度は黄色の丸い実を上に放り上げて「落とさないよう打ち返してくれ」と言う。
突然、無茶振りをされた男は慌てて落としたが、行商人の男が手本を見せると、ぎこちない仕草ながらも打ち返すのに成功した。
「そこの人、そこの人も入って!」
行商人は笑顔で人々を巻き込み、黄色の実を落とさないという遊びを始めた。
何回も続くとみんな楽しそうで、うっかり変な方向へいって落ちてしまうと、周囲から「あぁ~」と残念がる声が上がる。
しばらく遊んでから、行商人の男は終了した。
「……とまあ、こんな風にして遊ぶ物なんだが、欲しいという人がいたら声をかけてくれ。ヤマヤという宿に泊まっている。じゃあな。ありがとう!」
男はこの場で売りつけるつもりはないようだ。商売なのに消極的だなとアルデが思っているうちに、行商人の男は消えていた。
「面白いですね。初めて見ます」
「私もです。地方には様々な物があるのですね」
集まった人々は散っていったが、数人は興味を持ったらしく話し込んでいた。買うつもりなのかもしれない。
アルデとモルフは珍しいと思ったが、それだけだった。食事をしている間に、その事を忘れた。




